HD(ホールディングス)化には決まった型があるわけではなく、目的によって使うスキームが変わります。この記事では、HD化の事例を、相談でよく見られる状況から承継・株価・融資・M&Aの目的別に、典型的なパターンとして整理します。
ここで紹介するパターンは、特定の会社の事例ではなく、よくある状況とスキームの組み合わせを一般化したものです。最後に、実際に事務所が支援した事例(地方銀行から1.6億円を調達した事業承継)を紹介します。
- HD化のパターンは、承継・株価・融資・M&Aの4つの目的で整理すると選びやすい
- 承継では、後継者のHDが株式を買い取る型と、オーナーがHD化してHD株式を渡す型が中心
- 株価では、将来の値上がり分に38%控除を効かせる型と、合併で法人を整理する型
- 融資では、不動産をHDに移して事業会社の決算書を軽くし、融資で資金化する型
- どのパターンでも、金融機関への事前の説明と、総則6項・行為計算否認への備えが前提
目的からパターンを選ぶ
| パターン | よくある状況 | 主なスキーム | 詳しい記事 |
|---|---|---|---|
| A | 後継者は決まっているが、株式を買うお金がない | 後継者のHDが融資で株式を買い取り、配当で返済 | 後継者が新会社(HD)を作って株式を買い取る |
| B | 株式を少しずつ渡したいが、経営権はしばらく手放したくない | 株式移転でHD化し、HD株式を贈与。種類株式で経営権を確保 | HDで種類株式を使う |
| C | 事業は長男、不動産は別の子に継がせたい | 会社分割・売買で不動産を切り離し、HDの下で分ける | 本業の会社から不動産を切り離す |
| D | 事業が伸びていて、株価が年々上がっている | 早めにHD化し、将来の値上がり分に38%控除 | HD化で株価が下がる仕組み |
| E | 物件ごとの法人が増えすぎた | 適格吸収合併で法人を絞り、必要ならHD化 | 複数の不動産法人を合併でまとめる |
| F | 事業会社の決算書が不動産で重い | 不動産をHDに売り、HDが融資を受けて事業会社に資金 | 事業会社の決算書を軽くする |
| G | オーナーの会社への貸付金(役員借入金)が大きい | DESや増資と返済で解消 | 役員借入金は相続財産:DESで解消する方法 |
| H | 他社を買収したいが、社内の上下関係が心配 | HDの下に買収先を兄弟会社として置く | HDがあるとM&Aで会社を買いやすい |
| I | 事業の一部だけを売りたい | 事業を子会社に分け、子会社株式を売る | HD体制なら事業の一部だけ売れる |
承継のパターン
A:後継者のHDが株式を買い取る
後継者が出資してHDを設立し、金融機関から借りた資金で、オーナーから事業会社の株式を買い取る形です。オーナーは株式を現金化でき(譲渡所得税20.315%)、相続財産は株式から現金に変わります。HDは事業会社からの配当で借入を返します。
- 注意点:売買価格は売り手の立場の時価(所得税基本通達59-6)が基準。配当で返せるか、事業会社の分配可能額と利益の安定性を試算する
- 関連:HDが株式を買い取る資金の融資、オーナーのExit:HDへの株式売却と退職金の比較
B:オーナーがHD化し、HD株式を渡す
オーナーが株式移転でHDをつくり、HD株式を後継者に贈与・相続で渡す形です。株価が低い時期に贈与し、オーナーは拒否権付き株式などで当面の経営権を持ち続ける設計がよく使われます。
- 注意点:HDは株式等保有特定会社として純資産価額で評価されやすい。贈与の時期と株価の試算が要
- 関連:HD株式を後継者に贈与する、HDの定款で決めておくこと
C:事業と不動産を分けて継がせる
本業の会社が持つ不動産を、会社分割や売買で切り離し、事業と不動産を別々の子会社にして、継ぐ人を分ける形です。HDの下に置けば、配当や家賃の流れをグループでまとめられます。
- 注意点:会社分割の不動産取得税の非課税には事業の要件がある。家賃は相場で決める
- 関連:HDが不動産を持ち子会社に貸す:家賃の決め方、会社を継がない子どもへの配慮
株価のパターン
D:将来の値上がり分を抑える
事業が伸びている会社では、HD化の後に増えた子会社の価値について、HDの純資産価額の計算で含み益の38%を差し引けます。受け入れた時点の含み益には効かないため、早めに着手するほど効果が大きくなります。
- 注意点:株価対策だけが目的だと総則6項・行為計算否認のリスク。承継・経営の目的とセットで(HD化による株価対策と総則6項)
E:合併で法人を整理する
物件法人や役目を終えた法人が増えた場合は、適格吸収合併で法人を絞ります。不動産取得税は非課税、所有権移転の登録免許税は0.4%で、物件の移転コストを抑えられます。HD化は、その後に必要なら行えば足ります。
- 注意点:親族を合算した完全支配関係の判定、無対価合併の条件、欠損金の引継ぎ制限(不動産投資家のHD化)
融資のパターン
F:事業会社の決算書を軽くし、資金化する
事業会社が持つ長期保有の不動産をHDに売り、HDが金融機関から借りて代金を払う形です。事業会社には現金が入り、総資産と借入が減って、ROAや自己資本比率が改善します。昔からの土地なら、土地の譲渡は消費税が非課税です。
- 注意点:グループ内の譲渡損益は繰延べ(法人税法61条の11)だが、建物の消費税・不動産取得税・登録免許税はかかる。HDの返済原資は家賃と配当
- 関連:HD体制での不動産融資:どの会社で借りるか、業種別に必要な決算書の水準
G:役員借入金を解消する
オーナーの会社への貸付金は、相続では額面で評価されます。DES(債権の株式化)や、増資と返済の組み合わせで解消します。
- 注意点:債権の時価が額面を下回ると、会社に債務消滅益が出る。資本金の増加による税務上の不利益も確認(DESの実務:銀行の評価・手続き)
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見るM&Aのパターン
H:買収先をHDの下の兄弟会社にする
既存の事業会社が買収先を子会社にすると、社員の間に上下の感情が生まれやすくなります。HDの下に兄弟会社として並べれば、それぞれの社長を残しつつ、HDが経営を監督できます。
I:事業の一部だけを売る
複数の事業を子会社に分けておけば、一部の子会社の株式だけを売ることができます。グループ内で繰り延べた譲渡損益は、子会社がグループを離れるときに戻し入れる点に注意が必要です(HD体制なら事業の一部だけ売れる)。
事務所の支援事例:HD化で親族への事業承継、地方銀行から1.6億円
ここからは、実際に事務所が支援した事例です。
本業と不動産業を営む経営者から、「不動産業を息子に承継したい」というご相談をいただきました。当面は金融機関との折衝に本人も関わりつつ、経済面の相続は先に終えておきたいというご要望でした。
| 支援した内容 | 役割 |
|---|---|
| ホールディングス化による組織再編 | 承継の単位を整理する |
| 種類株式の設計・定款の整備 | 経営への関わり方と、財産の移し方を分ける |
| 株価算定 | 株式を移すときの価格の根拠をつくる |
| 金融機関の紹介 | 承継の計画を金融機関に説明し、資金を調達する |
その結果、地方銀行から1.6億円を調達し、事業承継を実現しました。経営権と財産の移し方を分けて設計し、それを金融機関に一体の計画として説明できたことがポイントです。詳細はクレフティの支援事例:HD化を用いた親族への事業承継で1.6億円を調達をご覧ください。
どのパターンにも共通する注意点
- 目的を書面にする:承継・経営・財務の理由がないと、否認のリスクが高まる(HD化と税務調査:見られるポイント)
- 金融機関に先に説明する:グループ全体の返済計画を示す(HD化を金融機関にどう説明するか)
- 落とし穴を確認する:適格要件、配当の時期、経営指導料・家賃の根拠など(HD化の落とし穴10)
まとめ
HD化の典型パターンは、承継(後継者HDの買取り、HD株式の贈与、事業と不動産の分離)、株価(将来の値上がり分の抑制、合併による整理)、融資(決算書の軽量化と資金化、役員借入金の解消)、M&A(買収先を兄弟会社に、子会社だけを売る)に整理できます。実際には複数を組み合わせることが多く、どれを選ぶかは、オーナーに現金が必要か、誰が借入を負えるか、不動産をどこに置くかで決まります。
事務所の支援事例のように、経営権と財産の移し方を分けて設計し、金融機関に一体の計画として説明できれば、承継と資金調達を同時に進めることができます。よくある疑問はHD化のよくある質問30にまとめています。
