不動産とHD

複数の不動産法人を合併でまとめる|適格吸収合併の2段階スキームと親族合算の判定

物件ごと、借入の時期ごとに法人をつくってきた結果、法人が増えすぎた。物件を売った後、現預金だけが残った法人もある。こうした複数の不動産法人を合併でまとめるときに使うのが、適格吸収合併です。

この記事では、代表のセミナー(2026年5月 不動産経営財務研究会「組織再編・HDを用いた税務・財務戦略」)でお伝えした「まず合併で整理し、必要ならその後にHD化する」という2段階の進め方を中心に、適格要件、欠損金、税金、手続き、銀行への説明を整理します。

この記事の結論
  • いきなりHD化まで進めなくてよい。Step1:合併で法人を絞る、Step2:必要ならHDの下に置くの2段階で考える
  • 親族の持株を合算して両社を100%持っていれば、同一の者による完全支配関係として適格合併の対象になる。第三者が1%でもいると不成立
  • 兄弟会社の無対価合併は、両社の持ち株割合が同じ場合などに限られる。違うなら株式を交付し、合併比率を適正に決める
  • 欠損金の引継ぎは、支配関係が5年以上(または設立時から)続いていれば原則制限なし
  • 合併による不動産の移転は、不動産取得税が非課税、所有権移転の登録免許税は0.4%

清算か、合併か

役目を終えた法人の整理には、清算と合併があります。

項目清算吸収合併(適格)
個人への資金の戻り残余財産の分配は、資本金等を超える部分がみなし配当として総合課税資産は合併法人へ。個人には戻らない
繰越欠損金使えずに消える要件付きで引き継げる
過去の税務リスク清算後も調査がありうる。清算人・株主に第二次納税義務合併法人が引き継ぐ
期間解散から最低2か月以上の債権者への公告期間+清算事務4〜6か月程度

現預金が厚く残った法人を清算すると、個人への分配が重い課税になりやすく、合併で残した方がよい場合が多くなります。一方、合併は消滅会社の過去の税務リスクも引き継ぐため、事前の確認が欠かせません。比較の詳細は複数の法人を合併で整理する:清算と吸収合併の比較、税務リスクの確認は合併は過去の税務リスクも引き継ぐで解説します。

2段階スキーム:まず合併、次にHD化

適格吸収合併の2段階スキーム
Step1:合併で法人を絞る
オーナー・家族
↓ 各社100%(親族合算)
売買・運営の法人
物件法人B
長期保有の法人
現預金だけの法人D
↓ BとDを合併で吸収
事業の会社
資産管理の会社
Step2:必要ならHD化
オーナー・家族
↓ 100%
HD
↓ 100%
事業の会社
資産管理の会社
Step1だけでも維持コストは大きく減る。Step2は承継や株価の設計に合わせて判断する

Step1では、法人を「売買・運営を担う会社」と「長期保有の物件を持つ会社」程度に絞ります。これだけで、申告・均等割・決算管理の負担は大きく減ります。Step2のHD化は、承継の形や株価の対策を決めてからで構いません。HD化の判断は不動産投資家のHD化:物件ごとの法人をまとめるをご覧ください。

なお、先にHDをつくり、HDの下の100%子会社どうしを合併する順番もあります。子会社の株主がHDだけになるので、無対価合併の条件を満たしやすく、合併比率の問題も生じません。株主が家族の間でばらばらな場合は、この順番の方が整理しやすいことがあります。

適格合併の要件:親族を合算して判定

同一の者による完全支配関係

兄弟会社の合併が適格になるのは、合併前に同一の者による完全支配関係があり、合併後もそれが続く見込みで、対価が合併法人の株式だけ(または無対価)の場合です(法人税法2条12号の8、同施行令4条の3第2項)。「同一の者」が個人の場合、その個人と特殊関係者(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族、生計を一にする者など。同施行令4条1項)の持株を合算します。

A社の株主B社の株主完全支配関係
父100%子90%・母10%成立(親族合算で両社100%)
父100%子90%・父10%成立
父100%子90%・第三者10%不成立(B社は親族合算で90%)
父100%子100%成立

詳しくは完全支配関係の適格要件:親族を合算する判定で扱います。

無対価合併にできるか

兄弟会社の合併で合併法人の株式を交付しない無対価合併は、合併法人が被合併法人の株式を全部持つ場合か、両社の株主の持ち株割合がまったく同じ場合に限って適格になります(同施行令4条の3第2項2号イ・ロ)。上の表の1行目のように、A社とB社の株主構成が違う場合は、合併法人の株式を交付する必要があります。

株式を交付するときは、合併比率を両社の株価から適正に決めます。比率が実態とずれると、家族の間で株式の価値が移り、贈与税の問題になりかねません。会計処理と仕訳の例は吸収合併の会計処理と仕訳の例で解説します。

欠損金は引き継げるか

適格合併では、被合併法人の繰越欠損金を引き継げます(法人税法57条2項)。ただし、支配関係が合併事業年度の開始の日の5年前の日から続いていない場合は、みなし共同事業要件を満たさない限り、支配関係が生じる前の事業年度の欠損金などが制限されます(同3項)。

  • 親族グループによる支配も、支配関係の期間に数えられる
  • 設立から5年未満の法人は、設立の時から支配関係が続いていれば、原則として制限されない
  • 含み損のある資産の譲渡損失にも、別の制限がある(法人税法62条の7)

数字の上では引き継げても、過大な役員退職金や経費で生じた欠損金を、物件の売却益と一度に相殺すると、税務調査で目立ちます。欠損金の発生経緯を書面で整理しておくことが大切です。詳しくは合併で欠損金は引き継げる?制限と要件をご覧ください。

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合併にかかる税金と費用

項目適格吸収合併の扱い
法人税簿価で引き継ぎ、課税なし
株主合併法人株式のみの交付なら譲渡益課税なし
消費税包括的な承継で不課税
不動産取得税非課税(地方税法73条の7第2号)
登録免許税(所有権移転)固定資産税評価額の0.4%(国税庁 タックスアンサーNo.7191)
登録免許税(商業登記)資本金が増える場合は増加額に応じて課税(最低3万円)
その他抵当権の変更登記、司法書士・専門家の報酬、官報公告の費用

売買で移すと所有権移転の登録免許税は土地1.5%・建物2.0%、不動産取得税もかかるため、物件を持つ法人どうしの整理では合併の方が費用を抑えやすくなります。不動産の税金の比較は組織再編と不動産取得税・登録免許税で扱います。

手続きとスケジュール

時期の目安やること
開始時適格要件・欠損金・税務リスクの確認、金融機関との事前協議
1か月目合併契約書、合併比率の算定、取締役会決議
2か月目株主総会の特別決議、債権者保護手続の開始(官報公告・個別催告)
3〜4か月目債権者の異議申述期間(1か月以上)が満了、効力発生、2週間以内に登記
5〜6か月目被合併法人の最後の申告(効力発生日の前日までのみなし事業年度)、税務署への届出

官報公告では、決算公告の掲載先か貸借対照表の要旨も示す必要があり、財務の状況が外部から見えるようになります。届出と申告の詳細は合併の税務申告・届出書類とスケジュールをご覧ください。

金融機関への説明

合併すると、消滅会社の借入と保証は合併法人に引き継がれます。金融機関には、合併計画を固める前に次の点を伝えておきます。

  • 目的:管理の効率化と承継の準備(税負担の軽減を前面に出さない)
  • 影響:消滅会社の借入・担保・保証の引継ぎ方法
  • 財務:合併後の純資産と債務償還年数。債務超過の会社を合併すると純資産が減ることも正直に示す
  • 開示:その金融機関に伝えていない法人があれば、合併の前に全行へ開示する

まとめ

複数の不動産法人の整理は、まず適格吸収合併で法人を絞り、必要ならその後にHD化する2段階で考えると、判断のハードルが下がります。親族を合算した同一の者による完全支配関係があれば適格合併の対象になりますが、第三者の株主がいないか、無対価にできる株主構成か、欠損金の引継ぎに制限がないかを一つずつ確認する必要があります。

合併は不動産取得税が非課税、登録免許税も0.4%と、物件の移転コストを抑えられる方法です。一方で、消滅会社の税務リスクと借入も引き継ぎます。事前の確認と金融機関への説明まで含めて、計画的に進めましょう。

よくある質問

父が持つ会社と子が持つ会社を合併しても、適格合併になりますか?
なりえます。個人とその特殊関係者(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族など。法人税法施行令4条1項)の持株を合算して両社を100%持っていれば、同一の者による完全支配関係があり、合併後もそれが続く見込みなら適格合併の対象です。ただし、第三者が1株でも持っていると成立しません。また、株主の持ち株割合が両社で違う場合は、合併法人の株式を交付する必要があります。
合併の対価を出さない無対価合併にできるのはどんなときですか?
同一の者による完全支配関係がある兄弟会社の合併では、合併法人が被合併法人の株式を全部持っている場合か、両社の株主構成(持ち株割合)がまったく同じ場合に限って、無対価でも適格になります(法人税法施行令4条の3第2項2号)。HDの下の100%子会社どうしの合併は、株主がHDだけなのでこの条件を満たします。
赤字の法人を合併すれば、欠損金を使えますか?
適格合併なら引き継げますが、制限があります。支配関係が合併事業年度の開始の日の5年前の日(または設立の日)から続いていない場合は、みなし共同事業要件を満たさない限り、支配関係が生じる前の欠損金などの引継ぎが制限されます(法人税法57条3項)。親族グループでの支配も期間に数えられます。過大な経費などで生じた欠損金を一度に使うと、税務調査で目立つ点にも注意が必要です。

※本記事は2026年10月30日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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