HD(ホールディングス)体制にすると、本社ビルや工場の土地をHDが持ち、事業会社(子会社)がそれを借りる形がよく選ばれます。そこで必ず問題になるのが、HDが子会社に貸すときの家賃の決め方です。
「同じグループだから、家賃はいくらでもよい」わけではありません。安すぎても高すぎても税務上の問題が生じ、銀行から見た子会社の利益にも影響します。この記事では、家賃の決め方と、税務・株価・銀行の見方を整理します。
- 家賃は近隣の相場を根拠に決める。不動産会社の査定や近隣の募集事例を記録に残す
- 安すぎる家賃はHDから子会社への寄附金。法人による完全支配関係なら、HDは全額損金不算入・子会社は受贈益が全額益金不算入で、相場の家賃を受け取ったのと同じ課税になる
- 土地だけを貸して子会社が建物を建てるなら、借地権の問題がある。無償返還届出で権利金の認定を避ける
- 賃貸借なら、HDの株価評価では建物は貸家、土地は貸家建付地として減額される
- 銀行は、家賃がHDの返済原資として十分か、子会社の利益を削りすぎていないかの両方を見る
HDと子会社のお金の流れ
HDが不動産を持つ場合、子会社からHDへのお金の流れは、主に家賃・配当・経営指導料の3つです。それぞれ性質が違うため、混ぜずに決めることが大切です。
経営指導料の決め方はHDが子会社から受け取る経営指導料:決め方と税務上の注意、配当はHDが子会社から受ける配当は非課税?で解説します。
家賃は相場を根拠に決める
家賃は、第三者に貸すなら受け取れる金額(相場)を基準にします。根拠として次のような資料をそろえ、契約書と一緒に保存しておきます。
| 根拠 | 中身 | 注意点 |
|---|---|---|
| 不動産会社の賃料査定 | 近隣の成約・募集事例から出した査定書 | 複数社から取るとより客観的 |
| 近隣の募集事例 | 同じ地域・用途・広さの事務所・店舗の募集賃料 | 募集賃料は成約より高めに出やすい |
| 不動産鑑定士の賃料評価 | 継続賃料・新規賃料の鑑定 | 費用はかかるが、金額が大きいときは有力 |
| 利回りからの逆算 | 取得価額×期待利回りで出した家賃 | 相場を説明する補助。これだけでは根拠として弱い |
相場には幅があります。幅の中で決めること、そして一度決めたら合理的な理由なく頻繁に変えないことが大切です。決算の直前に家賃を上げ下げして利益を調整しているように見えると、税務調査で問題にされやすくなります。親族と会社の間の家賃の考え方は同族会社との家賃の適正額も参考になります。
安すぎる・高すぎる家賃の税務
安すぎる家賃:HDから子会社への寄附金
HDが相場より安い家賃で子会社に貸すと、相場との差額は、HDから子会社への経済的な利益の供与=寄附金として扱われます。HDと子会社の間に法人による完全支配関係がある場合、HDでは寄附金が全額損金不算入、子会社では受贈益が全額益金不算入になります(法人税法37条2項・25条の2、国税庁 タックスアンサーNo.5281)。
つまり、HDは「相場の家賃を受け取り、同じ額を寄附した」のと同じ扱いで、相場の家賃に相当する所得に課税されます。子会社は、相場の家賃を払ったものとして損金にできる一方、その分の受贈益は益金になりません。家賃を安くしてもグループ全体の税負担は下がらず、手続きと説明の手間だけが増えます。さらに、寄附があった場合は、株主側で子会社株式の帳簿価額を修正する処理(寄附修正)も必要です。
高すぎる家賃:子会社からHDへの寄附金
反対に、相場を大きく超える家賃は、超える部分が子会社からHDへの寄附金とされるおそれがあります。子会社の利益をHDに集めたいなら、家賃を膨らませるのではなく、配当として正面から移す方が筋が通ります。
個人がオーナーの兄弟会社なら扱いが違う
ここまでの「全額損金不算入・全額益金不算入」は、法人による完全支配関係に限られます。個人が両社を持つ兄弟会社の間では、寄附金は損金算入限度額を超える部分が損金不算入、受贈益は益金になるため、安い家賃はグループ全体で税負担を増やします。兄弟型と親子型の違いは資産管理会社とHD:事業会社との関係を整理するで解説しています。
土地だけを貸す場合:借地権と無償返還届出
HDが土地だけを持ち、子会社がその上に建物を建てる場合は、借地権の問題があります。通常、借地権を設定するときは権利金を受け取る慣行がある地域では、権利金も相当の地代も受け取らないと、権利金を受け取ったものとみなす認定課税の問題が生じます(法人税基本通達13-1-3、国税庁 タックスアンサーNo.5730)。
これを避ける方法が、土地の無償返還に関する届出です。契約書で「将来、借地人は土地を無償で返還する」と定め、借地人(子会社)との連名で、遅滞なく税務署に届け出れば、権利金の認定は行われません(法人税基本通達13-1-7、国税庁 C1-63 土地の無償返還に関する届出)。完全支配関係の中では寄附金・受贈益の課税関係が生じにくいとはいえ、借地関係を明確にし、後の株価評価や再編で争いにならないよう、届出をしておくのが実務です。
| 貸し方 | HDの株価評価での土地の扱い(目安) | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 土地と建物をHDが持ち、建物を貸す | 建物は貸家、土地は貸家建付地(評価通達26・93) | 賃貸借であること。取得3年以内は通常の取引価額 |
| 土地だけを貸し、子会社が建物を建てる | 借地権の有無・無償返還届出の有無で変わる | 届出がないと借地権の認定の問題 |
| 無償で使わせる(使用貸借) | 自用地・自用家屋として評価 | 減額なし。寄附金の問題も残る |
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る消費税の扱い
事務所・店舗・工場の家賃には、消費税がかかります(土地だけの貸付けは原則非課税ですが、駐車場など施設の貸付けは課税)。HDが課税事業者として消費税を納め、子会社は仕入税額控除を受けるのが通常の形です。一方、社宅として住宅を貸す場合は、住宅の貸付けとして非課税です。HDが家賃を受け取るようになると、HDの課税売上が増えて、免税事業者から課税事業者になることもあります。
銀行から見た家賃の水準
金融機関は、家賃をHDと子会社の両方の側から見ます。
- HDの側:家賃で借入の元利金を返せるか。家賃が返済原資の柱なら、相場に照らして持続可能な金額か
- 子会社の側:家賃の負担で利益が削られすぎていないか。子会社単体の格付けや、許認可の基準を割らないか
- グループ全体:家賃はグループ内のやり取りなので、連結では相殺される。外から見た返済力は、グループの利益と減価償却費で決まる
著書のモデルでは、収益性と返済能力の配点が大きく、子会社の利益を削りすぎると格付けに響きます。家賃は「税務上の相場の範囲」で、「子会社の格付けを保てる水準」に置くのが現実的です。HD体制での借入の組み方はHD体制での不動産融資:どの会社で借りるかをご覧ください。
まとめ
HDが子会社に不動産を貸すときの家賃は、近隣の相場を根拠に決め、根拠資料を残しておくことが基本です。100%グループ内でも、安すぎる家賃はHDの寄附金とされ、相場の家賃を受け取ったのと同じように課税されるため、家賃で利益を動かす意味はありません。土地だけを貸すなら無償返還届出、株価評価の面では賃貸借にしておくことがポイントです。
家賃は、税務、株価、銀行の見方のすべてに影響します。HDに不動産を移すときは、家賃の水準と返済計画をセットで決めておきましょう。
