不動産を持つ会社をHD(ホールディングス)の形にしていても、相続はいつか必ず来ます。そのとき問題になるのは、HD株式の評価額と、相続税を払うお金(納税資金)です。不動産は売りにくく、HD株式も上場株のように換金できません。
この記事では、不動産を持つHDの相続について、株価がどう決まるか、納税資金をどう準備するかを、銀行の見方も含めて整理します。
- 不動産を持つHDは、土地保有特定会社や株式等保有特定会社として、原則純資産価額で評価されやすい
- 純資産価額では、不動産は路線価・固定資産税評価額で評価され、含み益の38%を控除できる。ただし取得3年以内の土地・建物は通常の取引価額
- 不自然な借入・購入で評価を下げると、総則6項で否認されるおそれがある
- 納税資金は、相続人の手元資金、HDによる自己株式の買取り(措置法9条の7の特例)、生命保険、延納などを組み合わせる
- HDの買取資金を借入でまかなうなら、生前から金融機関と返済計画を話しておく
不動産を持つHDの株価はどう決まるか
HDの株価は、会社の規模と資産の中身で評価方法が決まります。不動産を持つHDでは、次の判定が特に重要です(財産評価基本通達189)。
| 判定 | 基準 | 評価方法 |
|---|---|---|
| 土地保有特定会社 | 土地等の割合が、大会社(一定の小会社を含む)で70%以上、中会社(一定の小会社を含む)で90%以上 | 純資産価額 |
| 株式等保有特定会社 | 株式等の割合が50%以上 | 純資産価額(S1+S2方式も選択可) |
| どちらにも当たらない | 一般の評価会社 | 類似業種比準価額と純資産価額の併用など |
HD自身が不動産を多く持てば土地保有特定会社に、子会社の株式が大半なら株式等保有特定会社に当たりやすくなります。いずれも類似業種比準価額が使えず、純資産価額が中心です。詳しくは土地保有特定会社とHDと株式保有特定会社に注意をご覧ください。
純資産価額で下がる要素と、下がらない要素
- 路線価・固定資産税評価額:一般に時価より低く、賃貸中の建物は貸家、土地は貸家建付地としてさらに減額されます
- 取得3年以内の不動産:会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地・建物は、通常の取引価額で評価されます(財産評価基本通達185)。買った直後の相続では、評価は下がりません
- 含み益の控除:相続税評価額と帳簿価額の差(評価差額)に対する法人税額等相当額として、38%を差し引けます(同186-2)。令和8年4月1日以後の相続等から、従来の37%が38%に改められました(国税庁 通達のあらまし)
不動産の評価の基本は相続での不動産の評価、賃貸物件の評価は賃貸物件の相続税評価で解説しています。
総則6項のリスク
相続の直前に、借入で不動産を買って評価を大きく下げるような行為は、通達どおりの評価が「著しく不適当」として、財産評価基本通達6項(総則6項)により鑑定評価などで評価し直されるおそれがあります。最高裁令和4年4月19日判決では、相続税の負担を減らす目的での借入・購入について、通達評価額を上回る評価が認められました(タワーマンション最高裁判決)。会社を通じた取得でも考え方は同じです。HDでの不動産取得は、事業上・承継上の理由とセットで進めることが前提です(HD化による株価対策と総則6項)。
納税資金をどう準備するか
株価の対策ができても、相続税は現金で払う必要があります。主な手段は次のとおりです。
| 手段 | 中身 | 注意点 |
|---|---|---|
| 相続人の手元資金 | 預金、役員報酬の蓄え | 若い後継者には足りないことが多い |
| HDによる自己株式の買取り | 相続人がHD株式の一部をHDに売り、代金で納税 | HDの分配可能額と資金。経営権の割合が変わる |
| 生命保険 | 死亡保険金を納税資金・買取資金に | 契約者・受取人の設計で課税が変わる |
| 延納 | 相続税を分割で納付(要件・利子税あり) | 担保の提供が必要 |
| HDからの退職金 | 被相続人への死亡退職金 | 適正額の範囲。非課税枠あり |
HDに株式を売るときの特例
個人が株式を発行会社に売ると、通常は資本金等を超える部分がみなし配当として総合課税されます。ただし、相続税がかかった人が、相続の開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに、相続した非上場株式を発行会社に売る場合は、みなし配当とせず、全体を株式の譲渡所得として扱う特例があります(租税特別措置法9条の7、国税庁 タックスアンサーNo.1477)。相続税額の一部を取得費に加える特例(同39条)との併用も可能です。
HDが自己株式を取得できるのは、会社法の分配可能額の範囲です(会社法461条)。不動産中心のHDは利益剰余金が薄いことも多く、買取りの余力は事前に確認しておく必要があります。自己株式の取得は株主からの買取り、納税資金の全体は非上場株式の相続税の納税資金で解説しています。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る銀行から見たHDの相続
HDが買取資金や納税資金を借りる場合、金融機関は次の点を見ます。
- 返済原資:HDの家賃収入、子会社からの配当で返せるか
- 担保:HDが持つ不動産の担保余力
- 後継者:誰がHDを経営し、保証や金融機関との折衝を担うか
- グループの財務:買取りや退職金で純資産が減り、債務超過に近づかないか
相続が起きてから急いで相談すると、条件のよい融資は受けにくくなります。事務所の支援事例では、本業と不動産業を営む経営者が「経済面の相続は先に終えたい」と希望され、ホールディングス化、種類株式の設計、株価算定、金融機関の紹介を行い、地方銀行から1.6億円を調達して事業承継を実現しました(支援事例の詳細)。生前に承継の形を決め、金融機関と話しておくことが、相続のときの資金繰りを楽にします。
遺産分割と遺留分
HD株式を後継者にまとめると、ほかの相続人との公平が問題になります。HD株式以外の財産(預金、HDが持たない不動産、保険金)をどう配分するか、遺留分の請求に備えて遺言や民法の特例をどう使うかを、あわせて決めておきます(会社を継がない子どもへの配慮、HDと相続対策:株式を後継者にまとめる設計)。
まとめ
不動産を持つHDの株式は、土地保有特定会社や株式等保有特定会社として純資産価額で評価されやすく、不動産の相続税評価額と含み益の38%控除が株価を左右します。ただし、取得3年以内の不動産は通常の取引価額で評価され、不自然な取引は総則6項で否認されるおそれもあります。
納税資金は、HDによる自己株式の買取り(措置法9条の7の特例)、保険、延納などを組み合わせて準備します。HDに買取りの余力があるか、借入でまかなえるかを生前に試算し、金融機関と話しておくことが大切です。
