株価・相続・贈与

HDと相続対策:自社株を後継者にまとめる設計と納税資金の手当て

オーナーの相続で一番こわいのは、自社株が相続人の間で分かれてしまい、後継者が会社の決定権を持てなくなることです。グループに複数の会社があれば、なおさらです。HD(ホールディングス)は、この問題に対する有力な解決策になります。

この記事では、HDを使って自社株を後継者にまとめる設計と、相続税の納税資金の手当てを整理します。数字は説明用に作った例です。

この記事の結論
  • HDにグループの株式を集めると、承継するのはHD株式という一つの単位になり、後継者に集中させやすい
  • 方法は生前贈与・後継者HDへの譲渡・遺言による相続の3つ。株価の高さと後継者の資金で選ぶ
  • HDの定款に相続人等に対する売渡請求を定めておくと、相続で分散した株式を会社が買い取れる
  • 相続した株式をHDに売るときは、みなし配当の特例と取得費加算(国税庁タックスアンサーNo.1477・No.3267)が使える
  • HDが借入で資金を出すなら、返済原資は子会社の配当。連結の返済能力を銀行に説明できるようにしておく

HDで「承継の単位」を一つにする

事業会社が複数あると、オーナーはそれぞれの会社の株式を持っています。相続のときに会社ごとに誰が引き継ぐかを決めなければならず、遺産分割の話し合いで株式が分かれてしまうこともあります。

HD化すると、オーナーが持つのはHDの株式だけになり、事業会社の株式はHDが持ちます。後継者にHD株式を集中させれば、グループ全体の決定権をまとめて引き継げます。

承継の単位をまとめる
HD化の前
オーナー
↓ 会社ごとに承継
A社株式
B社株式
不動産会社株式
HD化の後
オーナー
↓ HD株式だけを承継
HD
↓ 100%
A社
B社
不動産会社
事業会社の株式はHDが持ち続けるので、相続で分かれない

HD化の方法(株式移転・株式交換・株式譲渡など)はHDの作り方の全体像、すでに分散している株式の集め方は分散した株式をHDに集めるで解説します。

後継者に集める3つの方法

方法内容向いているケース注意点
生前贈与HD株式を後継者に贈与。暦年課税か相続時精算課税株価が低い時期がある、成長前に渡したい贈与税の資金、遺留分、加算期間
後継者HDへの譲渡後継者が作った会社が融資でオーナーの株式を買い取る株価が高い、オーナーが現金化したいオーナーの譲渡所得税(20.315%)、HDの返済
遺言による相続遺言でHD株式を後継者に相続させる当面はオーナーが株主でいたい相続税の納税資金、遺留分、遺言の内容

代表のセミナーでは、株価が高い会社は「譲渡+融資」、株価が低い局面なら「贈与+拒否権付株式」と整理しています。どれか一つではなく、一部を贈与し、残りを譲渡や相続で渡すという組み合わせもよくあります。贈与の試算はHD株式を後継者に贈与する、譲渡と融資は後継者が新会社(HD)を作って株式を買い取るをご覧ください。

遺言を使う場合は、公正証書遺言で「HD株式はすべて後継者に」と定め、遺言執行者を決めておくのが基本です。株式の議決権が相続の手続きの間に宙に浮かないよう、準備しておくことが大切です(経営者の遺言の書き方)。

定款で「分散を戻す」仕組みを作る

譲渡制限のある株式でも、相続による移転は会社の承認なしに起こります。そこで、HDの定款に相続人等に対する売渡請求(会社法174条)の定めを置いておくと、相続で株式を取得した人に対して、会社が株式を売り渡すよう請求できます。請求は、会社が相続を知った日から1年以内に行う必要があり、買取りには財源の規制(分配可能額の範囲内)もかかります。

注意したいのは、この定めはオーナー自身の相続にも使えることです。後継者以外の相続人が株主総会で売渡請求を決議すると、後継者の株式が対象になるおそれがあります(請求の対象となる株主は、その決議で議決権を行使できません)。定款の定め方はHDの定款で決めておくことで解説します。

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納税資金:相続した株式をHDに売る

相続税は、原則として相続から10か月以内に現金で納めます。財産の大半がHD株式という場合、後継者が納税資金に困ることがあります。そこで使われるのが、相続したHD株式の一部をHD自身に買い取ってもらう方法です。

非上場会社が自社の株式を株主から買い取ると、通常は、買取価額のうち資本金等の額を超える部分がみなし配当として総合課税されます。ただし、相続税を納める人が、相続の開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに、相続した非上場株式を発行会社に譲渡した場合は、みなし配当とせず、全体を株式の譲渡所得として課税する特例があります(国税庁タックスアンサー「No.1477 相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」)。相続税額の一部を取得費に加算する特例(「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」)も併用できます。

資金の流れ税務の扱い(主なもの)
子会社 → HDへの配当完全子法人株式等の配当は全額が益金不算入(法人税法23条)
HD → 後継者(株式の買取代金)特例を使えば譲渡所得として課税(No.1477)。取得費加算も可(No.3267)
後継者 → 税務署(相続税)納税

HDが買取りの資金を持っていなければ、子会社からの配当を受けるか、銀行から借り入れることになります。HDによる自己株式の買取りには会社法の財源規制がかかるので、HDの分配可能額も事前に確認しておきます。

事務所の支援事例と、銀行から見たポイント

クレフティが支援した事例に、本業と不動産業を営む経営者が、不動産業を息子さんに承継したいというご相談がありました。当面は金融機関との折衝にご本人も関わりつつ、経済面の相続は先に終えておきたいというご要望でした。ホールディングス化による組織再編、種類株式の設計、定款の整備、株価算定、金融機関の紹介を行い、地方銀行から1.6億円を調達して事業承継を実現しています。株式の承継と、銀行との関係の引継ぎを、時期をずらして設計した例です。

HDが納税資金や株式の買取資金を借りる場合、銀行は子会社の配当が返済原資になることを前提に、子会社の利益と配当できる額、HDと子会社を合算した連結の借入金を見ます。著書のモデルでは、債務償還年数は10年以内が健全、20年超は厳しいとされます。相続が起きてから慌てて相談するのではなく、相続の前から借入の規模と返済の計画を金融機関と共有しておくと、いざというときに資金を出してもらいやすくなります(配当で返済する融資の注意点、非上場株式の相続税の納税資金)。

株価の面では、HD化した後の値上がり分に38%(令和8年4月1日以後の相続・贈与等)の控除が効きます(HD化で株価が下がる仕組み)。ただし、相続の直前に評価を下げるだけの取引は総則6項のリスクがあります(HD化による株価対策と総則6項)。

まとめ

  • HDにグループの株式を集めると、承継するのはHD株式だけになり、後継者に集中させやすい
  • 方法は生前贈与・後継者HDへの譲渡・遺言による相続。株価と後継者の資金で組み合わせる
  • 定款の売渡請求は分散を戻す手段だが、オーナー自身の相続で後継者に向くおそれもある。定め方に注意
  • 相続した株式をHDに売るときは、No.1477の特例と取得費加算を確認。HDの資金は子会社の配当か融資で、返済計画を銀行と共有しておく

クレフティでは、HDを使った相続対策について、株価の試算、承継の方法の比較、定款と遺言の整理、納税資金の融資の相談まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

HDを作ると、なぜ株式を後継者にまとめやすくなるのですか?
グループの複数の会社の株式をHDに持たせると、オーナーが承継するのはHDの株式だけになります。会社ごとに株式を分けて渡す必要がなく、遺言や贈与で「HD株式は後継者に」と決めるだけでグループ全体の支配を引き継げます。分散している株式をHDが買い取って集めることもできます。
相続した株式をHDに買い取ってもらうと、税金はどうなりますか?
非上場会社が自社の株式を買い取ると、通常は一部がみなし配当として総合課税されます。ただし、相続税を納める人が、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに相続した株式を発行会社に譲渡した場合は、みなし配当とせず譲渡所得として課税する特例があり、相続税の一部を取得費に加算する特例とも併用できます(国税庁タックスアンサーNo.1477・No.3267)。
HDが納税資金のために借入をするとき、銀行は何を見ますか?
返済原資が子会社からの配当になるため、子会社の利益と配当できる額、HDと子会社を合算した連結の借入金の水準を見ます。著書のモデルでは、債務償還年数((借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等))10年以内が健全の目安です。相続の前から、借入の規模と返済の計画を相談しておくと安心です。

※本記事は2026年10月30日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
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