HDの作り方は1つではありません。中小企業で主に使われるのは、株式移転・株式交換・株式譲渡・会社分割の4つです。どの方法を選ぶかで、お金が動くかどうか、オーナーに税金がかかるか、株主構成や許認可にどう影響するかが変わります。
この記事では、4つの方法を同じ物差しで比較し、目的に合わせた選び方を整理します。それぞれの手続きの詳細は、個別の記事で解説します。
- 株式移転:HDを新しく作り、事業会社をその100%子会社にする。お金は動かず、要件を満たせば課税なし
- 株式交換:既存の会社を親にして、別の会社を100%子会社にする。兄弟会社の整理に向く
- 株式譲渡:新しく作ったHDが株式を買い取る。オーナーに現金が入り、後継者側に支配権を移せる
- 会社分割:事業を切り出して子会社にする。許認可・契約・従業員の移転を伴うため手間が大きい
- 目的が「形を整える」なら株式移転・交換、「承継と現金化」なら株式譲渡が基本
4つの方法を一覧で比べる
| 項目 | 株式移転 | 株式交換 | 株式譲渡 | 会社分割(分社型) |
|---|---|---|---|---|
| できあがる形 | 新設のHDの下に事業会社 | 既存のA社の下にB社 | 新設のHDが事業会社株式を取得 | 元の会社がHDになり、事業は新会社へ |
| 対価 | HD株式 | 親会社株式(金銭も可) | 現金 | 子会社株式 |
| お金の動き | なし | 原則なし | HD→オーナーに代金。HDは借入が多い | なし |
| 株主の税金 | 適格・金銭不交付なら課税なし | 同左 | 譲渡所得20.315% | 分社型なら株主に課税なし |
| HDの株主 | 事業会社の株主そのまま | 親会社の株主+子会社の旧株主 | HDに出資した人(後継者など) | 元の会社の株主そのまま |
| 会社法の手続き | 株主総会の特別決議 | 株主総会の特別決議(簡易・略式あり) | 譲渡承認 | 株主総会の特別決議、債権者保護手続 |
| 許認可・契約 | 事業会社に残る | 子会社に残る | 事業会社に残る | 新会社へ移す必要がある |
株式移転:HDを新しく作る
株式移転は、既存の会社が新しく親会社(HD)を作り、自社の株式をすべてHDに取得させる方法です(会社法772条)。事業会社の株主は、持ち株に応じてHDの株式を受け取ります。お金は動かず、税制適格の要件を満たせば、株主・事業会社ともに課税はありません(法人税法2条12号の18、所得税法57条の4)。
事業会社の中身は何も変わらないため、従業員・取引先・許認可への影響が小さいのが特長です。手続きは株式移転でHDを作るで解説します。
株式交換:既存の会社を親にする
株式交換は、既存の会社が、別の会社の株式をすべて取得して100%子会社にする方法です(会社法767条)。オーナーがA社とB社を別々に持っているとき、A社を親、B社を子にする、といった使い方をします。親になる会社を選べるため、会社規模が大きい会社や株価が低い会社を親にする設計ができます。詳しくは株式交換でHDを作るをご覧ください。
株式譲渡:新しいHDが株式を買い取る
後継者などが出資してHDを作り、そのHDが銀行などから借りたお金で、オーナーから事業会社の株式を買い取る方法です。オーナーは譲渡所得として20.315%の申告分離課税を受けますが(国税庁タックスアンサー No.1463)、自社株を現金に換えられ、後継者は自己資金が少なくても支配権を持てます。HDの借入は、事業会社からの配当で返していくのが基本です。
価格には注意が必要です。個人が法人に時価の2分の1未満で売ると、時価で売ったものとみなされます(所得税法59条1項2号、国税庁タックスアンサー No.3105)。詳しくは新しく作ったHDに株式を売ってHD化するで解説します。
会社分割:事業を切り出す
今の会社の事業を、新しく作る会社(または既存の会社)に移し、元の会社をHDにする方法です。元の会社が新会社の株式を受け取る「分社型分割」なら、元の会社がそのままHDになります。ただし、事業と一緒に契約・従業員・許認可を移すため、手続きは4つの中で最も重くなります。建設業や宅建業のように、許可の承継に事前の認可や新規の取得が必要な業種もあります。詳しくは会社分割でHD体制にする方法をご覧ください。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る目的別の選び方
| 目的 | 第一候補 | 理由 |
|---|---|---|
| 複数の会社をまとめて、承継する株式を1つにしたい | 株式移転(共同株式移転)、株式交換 | お金が動かず、要件を満たせば課税なし |
| 後継者に支配権を移し、オーナーは現金を受け取りたい | 株式譲渡 | 代金でオーナーが現金化。HDの株主は後継者 |
| 今後の値上がり分の株価の上昇を抑えたい | 株式移転 | HD化後の値上がり分に38%控除(財産評価基本通達186-2) |
| 本業の中の一事業を独立させたい | 会社分割 | 事業単位で切り出せる |
| 本業の会社から不動産を切り離したい | 会社分割、売買 | 移す資産を選べる。税金と登記の費用を比較 |
複数の方法を組み合わせることもあります。たとえば、まず株式移転でHDを作ってグループの形を整え、数年後に後継者の会社がHD株式を買い取る、といった2段階の進め方です。
個人の現物出資は課税に注意
「オーナーが持つ事業会社株式を、新しいHDに現物出資すれば同じでは」と考える方もいます。しかし、個人が法人に資産を現物出資すると、その資産を時価で譲渡したものとして譲渡所得が課税されるのが原則です(不動産の例は国税庁タックスアンサー No.3117)。法人税法の適格現物出資は、法人が出資する場合の制度です。税金をかけずに個人の株式をHDに移すなら、株式移転が基本になります。
銀行への説明で押さえること
どの方法でも、銀行はHD化後のグループ全体を見ます。株式移転・株式交換ならお金は動きませんが、事業会社の株主が変わるため、借入の契約に「株主の変更」を通知・承諾事項とする条項がないか確認し、事前に説明します。株式譲渡ではHDが借入をするため、「事業会社が毎年いくら配当でき、何年で返せるか」を示す資金計画が必要です。
代表の相亰の著書のモデルでは、債務償還年数10年以内を健全としています。HDの借入を加えたグループの債務償還年数を試算し、承継の目的と合わせて説明すると、銀行の理解を得やすくなります。
株主が分散している会社の整理は持株会社をつくって株主構成を整理する、株式の集め方の全体像は分散した株式を集中させる方法もご覧ください。
まとめ
- HDの作り方は株式移転・株式交換・株式譲渡・会社分割の4つが中心
- 形を整えるなら株式移転・株式交換、承継と現金化なら株式譲渡
- 会社分割は、契約・従業員・許認可の移転を伴い手間が大きい
- 個人の現物出資は時価で譲渡したものとして課税されるのが原則
- どの方法でも、銀行にはグループ全体の資金計画で説明する
クレフティの事業承継・M&A支援では、方法の比較から株価の試算、資金計画、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
