株式移転は、既存の会社(事業会社)が新しくホールディングス(HD)を作り、自社の株式をすべてHDに取得させる方法です(会社法772条)。事業会社の株主は、持ち株に応じてHDの株式を受け取ります。お金が動かず、要件を満たせば税金もかからないため、中小企業のHD化で最もよく使われる方法の一つです。
この記事では、株式移転の手続き・スケジュール・費用、税金、HD株式の評価、銀行への説明のポイントを整理します。ほかの方法との比較はHDの作り方の全体像をご覧ください。
- 株式移転は株式移転計画を作り、株主総会の特別決議で承認し、HDの設立登記で効力が生じる
- 期間は準備を含め2〜3か月が目安。株券発行会社は株券提出の公告に1か月以上かかる
- 費用の中心は、HD設立の登録免許税(資本金の0.7%、最低15万円)と専門家の報酬。定款の認証は不要
- 株主がHD株式だけを受け取れば株主に課税なし。HDの資本金等の額は均等割に影響する
- HD化後に増えた価値に38%控除が効く。HDは当初、純資産価額で評価されるのが通常
株式移転のしくみ
株式移転では、事業会社の株主が、事業会社株式と引き換えにHDの株式を受け取ります。株主構成はそのままHDに移り、事業会社はHDの100%子会社になります。事業会社の資産や負債、従業員、取引先との契約、許認可の名義は変わりません。
複数の会社が共同でHDを作る共同株式移転もできます(会社法772条2項)。オーナーがA社とB社を別々に持っている場合に、両社をまとめて1つのHDの下に置く使い方です。
手続きとスケジュール
株式移転計画には、HDの目的・商号・本店所在地・発行可能株式総数、定款の内容、設立時取締役、株主に交付する株式の数と割当て、HDの資本金などを定めます(会社法773条)。HDの定款は事業会社が作り(会社法814条2項)、通常の設立と違って公証人の認証は不要です。
| 時期の目安 | 主な作業 | ポイント |
|---|---|---|
| 準備(1か月程度) | 目的の整理、株価の試算、適格要件の確認、金融機関・主要取引先への事前説明 | 借入の契約に株主変更の条項がないか確認 |
| 1か月目 | 株式移転計画の作成、取締役会の決議、株主総会の招集 | HDの資本金・役員・定款を決める |
| 1〜2か月目 | 株主総会の特別決議(会社法804条1項、309条2項12号) | 反対株主には株式買取請求権がある(会社法806条) |
| 並行して | 株券発行会社は、株券提出の公告・通知(効力発生の1か月前まで。会社法219条) | 株券不発行なら不要 |
| 2〜3か月目 | HDの設立登記。登記の日にHDが成立し、事業会社の全株式を取得(会社法774条1項) | 登記の日が効力発生日になる |
| 登記後 | 税務署・自治体への設立の届出、HDの口座開設、事業会社の株主名簿の書換え | HDの口座開設には登記事項証明書が必要 |
株主がオーナー一族だけで、株券も発行していなければ、手続きは比較的シンプルです。少数株主がいる場合は、株主総会の前に説明し、反対株主が出ないように進めます。少数株主の扱いはHD化と少数株主で取り上げます。
費用
| 費用 | 内容 |
|---|---|
| 登録免許税 | HDの設立登記:資本金の額の1,000分の7(15万円に満たないときは15万円)(登録免許税法別表第一24号(一)イ、国税庁タックスアンサー No.7191) |
| 専門家の報酬 | 株価の算定、適格要件の確認、株式移転計画・議事録の作成、登記申請など |
| その他 | 株券提出の公告(株券発行会社のみ)、HDの印鑑・口座開設など |
| 毎年の維持コスト | HDの法人住民税の均等割、決算・申告、登記の変更など |
株式移転では不動産は動かないため、不動産取得税や不動産の登録免許税はかかりません。HDの資本金を小さく設定すれば、登録免許税は最低額の15万円に収まることが多いでしょう。費用全体の考え方はHD化にかかる費用と期間で詳しく解説します。
税金のポイント
株主:HD株式だけなら課税なし
株主がHDの株式だけを受け取り、金銭などを受け取らなければ、株主に譲渡所得の課税はありません。HD株式の取得価額は、元の事業会社株式の取得価額を引き継ぎます(所得税法57条の4)。
会社:適格要件
株式移転が税制適格(法人税法2条12号の18)に当たるかは、HD株式以外の資産を交付しないこと、株式移転後も完全支配関係(または支配関係)が続く見込みであることなどで判定します。オーナー一族だけで株式を持つ単独株式移転であれば、株式移転後もHDと事業会社の100%関係、オーナー一族とHDの関係が続く見込みであることが中心になります。非適格になると、事業会社の一定の資産の時価評価が問題になることがあるため(法人税法62条の9)、株式移転後すぐにHD株式を手放す予定がある場合などは事前に確認します。
HDの資本金等の額と均等割
HDが取得する事業会社株式の取得価額は、事業会社の株式移転直前の株主が50人未満なら旧株主の取得価額の合計、50人以上なら事業会社の簿価純資産をもとに計算します(法人税法施行令119条1項12号)。これに応じてHDの資本金等の額が決まり、法人住民税の均等割の区分に影響します。株主が多い会社や、過去に高い価格で株式の売買があった会社は、HDの均等割が思ったより高くなることがあるため、事前に試算します。
最初の配当の時期
HDが事業会社から受け取る配当が全額益金不算入になる「完全子法人株式等」かどうかは、配当の計算期間を通じた完全支配関係で判定します(法人税法23条5項、法人税法施行令22条の2)。基準日前1年以内に取得した株式の最初の配当は、取得の日から計算期間を数える定めもあるため(同条2項3号)、株式移転直後の最初の配当は、基準日と効力発生日を決める前に税理士と条文で確認します。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見るHD株式の評価:38%控除と、効果が出るまでの時間
HDの株式は、当初は開業後3年未満の会社として、また総資産のほとんどが株式なら株式等保有特定会社として、純資産価額で評価されるのが通常です(財産評価基本通達189)。
純資産価額の計算では、HDが持つ事業会社株式の含み益から、法人税額等相当額(2026年4月1日以後の相続・贈与は38%)を控除できます。ただし、株式移転で受け入れた時点の含み益には控除が効かず、効くのは株式移転した後に増えた部分だけです(財産評価基本通達186-2)。
たとえば、株式移転の時点で事業会社の相続税評価額が2億円、その後の利益の積み上げで10年後に5億円になったとします(HDにほかの資産・負債はないものとします)。
| 項目 | 直接保有のまま | HD経由 |
|---|---|---|
| 事業会社の評価額 | 5億円 | 5億円 |
| 控除できる額 | なし | (5億円−2億円)×38%=1.14億円 |
| オーナーが持つ株式の評価 | 5億円 | 3.86億円 |
一方、事業会社が大きな含み益のある不動産を持っている場合など、事業会社自体の評価が高くなり、株式移転の直後はかえってHD株式の評価が上がるケースもあります。株価の試算は、株式移転の前後と、5年後・10年後の見込みで行います。HD化と株価の関係はHD化で株価が下がる仕組みで取り上げます。株価対策だけを目的とした組織再編は、総則6項や行為計算否認の対象になりうる点にも注意が必要です(総則6項と自社株評価)。
銀行への説明
株式移転では事業会社の借入はそのままですが、株主が「オーナー個人」から「HD」に変わります。金銭消費貸借契約や保証の契約に、株主の変更を通知・承諾事項とする条項がないかを確認し、株主総会の前に取引金融機関に説明します。説明では、承継の目的、HDと事業会社の役割分担、配当などグループ内のお金の流れを伝えます。代表の相亰の著書のモデルでは、銀行は債務償還年数(10年以内が健全)や純資産を重視します。HD化で事業会社の財務が変わらないことも、数字で示せると安心材料になります。
不動産を持つ会社の株式交換・株式移転は株式交換で不動産会社をホールディングス化するもご覧ください。
まとめ
- 株式移転は株式移転計画→株主総会の特別決議→設立登記で効力が生じる。目安は2〜3か月
- 費用の中心は登録免許税(0.7%、最低15万円)と専門家の報酬。定款の認証は不要
- 株主がHD株式だけを受け取れば課税なし。HDの資本金等の額は均等割に影響する
- 38%控除が効くのは株式移転後の値上がり分。当初は純資産価額で評価されるのが通常
- 借入契約の条項を確認し、株主総会の前に金融機関へ説明する
クレフティの事業承継・M&A支援では、株式移転の設計から株価の試算、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
