ホールディングス(HD)をつくろうとしたら、昔から株式を持っている親族や元役員が「よくわからないので反対する」と言い出した。HD化のご相談で、ときどき起きる場面です。少数株主が反対しても、手続き上HD化を進められる場合は多いのですが、反対株主には法律上の権利があり、対応を誤ると価格をめぐる争いが長引きます。
この記事では、株式移転でHDをつくるときの決議の要件、反対株主の株式買取請求、少数株主に退いてもらうスクイーズアウトの方法、税金の扱い、銀行からの見え方を整理します。
- 株式移転は特別決議(3分の2以上)で決まる。オーナー側が3分の2を持っていれば、反対があってもHDはつくれる
- 反対株主は、会社に公正な価格での買取りを請求できる(会社法806条)。協議が整わなければ裁判所が価格を決める
- 少数株主に退いてもらう方法は、90%以上なら売渡請求、3分の2以上なら株式併合が中心
- スクイーズアウトは平成29年度改正で組織再編税制の対象。非適格なら資産の時価評価の課税が起こりうる
- いちばん大切なのは手続きより事前の説明と、HD化の前の買取り。争いは金融機関の評価にも影響する
株式移転の決議と、反対株主の権利
株式移転でHDをつくるには、株式移転計画について株主総会の特別決議が必要です(会社法804条1項、309条2項12号)。特別決議は、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立します。
反対した株主には、株式買取請求権があります(会社法806条)。株主総会に先立って反対の意思を通知し、総会で反対した株主は、会社に対して自分の株式を「公正な価格」で買い取るよう請求できます。効力発生日から30日以内に価格の協議が整わないときは、その後30日以内に、株主または会社が裁判所に価格の決定を申し立てられます(会社法807条)。
注意したいのは、買取請求に応じて株式を買い取るのは事業会社自身だという点です。会社が自分の株式を取得する形になるため、売り手の個人には、資本金等の額を超える部分にみなし配当の問題が生じえます(所得税法25条)。売り手の税金の違いはHDへの株式売却とみなし配当・譲渡所得の違いを参照してください。
スクイーズアウトの方法
「HD化に反対し、今後も協力が見込めない少数株主には、株主から外れてもらいたい」という場合に使うのが、スクイーズアウト(少数株主の締め出し)です。中小企業で使われる主な方法は次のとおりです。
| 方法 | 必要な持ち株 | 手続きの要点 | 少数株主の救済 |
|---|---|---|---|
| 特別支配株主の株式等売渡請求(会社法179条) | 議決権の90%以上(100%子会社などの分を合算) | 対象会社の取締役会(または取締役)の承認。株主総会は不要 | 裁判所への売買価格決定の申立て(会社法179条の8) |
| 株式併合(会社法180条) | 特別決議が通る3分の2以上 | 少数株主の持ち株が1株未満になる比率で併合し、端数を金銭で精算 | 反対株主の株式買取請求(182条の4)、価格決定の申立て |
| 全部取得条項付種類株式の取得(会社法171条) | 3分の2以上 | 定款変更と取得決議。手順が多く、近年は株式併合が使われることが多い | 価格決定の申立て(172条) |
オーナー側の持ち株が90%以上あれば、株主総会を開かずに進められる売渡請求が手続き上は簡便です。90%に届かない場合は、株式併合が中心になります。どちらの方法でも、少数株主は裁判所に価格の決定を求められるため、価格の根拠となる株価算定を事前に準備しておくことが欠かせません。手続きの詳細は株式併合によるスクイーズアウト、価格決定の手続きは反対株主の株式買取請求と価格決定でも解説しています。
スクイーズアウトと組織再編税制
平成29年度の税制改正で、株式併合や売渡請求、全部取得条項付種類株式によるスクイーズアウトは、株式交換と同じく「株式交換等」として組織再編税制の対象になりました。適格要件を満たさない場合には、対象となる会社が持つ一定の資産(固定資産、土地、有価証券など)を時価で評価し、評価損益を計上することになる場合があります(法人税法62条の9)。
不動産の含み益が大きい会社や、長年の利益で土地を持っている会社では、非適格になると思わぬ課税が生じます。スクイーズアウトの前には、支配関係の継続などの適格要件を税理士と確認します。株式交換・株式移転の税務は株式交換・株式移転の税務で取り上げます。
また、スクイーズアウトで100%の関係(完全支配関係)ができる日がいつになるかは、グループ法人税制や受取配当の扱いに影響します。国税庁の質疑応答事例は、株式併合に反対する株主から株式買取請求があった場合でも、完全支配関係を有することとなった日は株式併合の効力発生日になるとしています(国税庁 質疑応答事例)。
少数株主の税金
少数株主の側では、売渡請求で特別支配株主(オーナーやHD)に株式を売った場合は、通常の株式の譲渡所得です。株式併合で端数となった株式は、会社が端数をまとめて売却などした代金が交付されます。一方、反対株主が会社に買取りを請求した場合は会社による自己株式の取得になるため、みなし配当の扱いを確認します(所得税法25条、同法施行令61条)。手続きごとに税金が異なるので、少数株主への説明の際に整理しておくと、交渉がまとまりやすくなります。
争いにしないための進め方
スクイーズアウトは「最後の手段」です。実務では、次の順で進めると争いになりにくくなります。
- 株主名簿と実際の持ち主を確認する:名義株や所在不明の株主がいないか。名義株は名義株の整理を参照
- HD化の目的を説明する:事業承継、意思決定の迅速化、グループの整理など。少数株主の配当や権利がどうなるかも伝える
- 任意の買取りを先に提案する:HDが少数株主から株式を買い取れば、売り手は譲渡所得として20.315%の課税で済み、会社の自己株式取得よりも手取りが多くなりやすい。進め方は分散した株式をHDに集めるで解説しています
- それでも合意できない場合に、スクイーズアウトを検討する:価格の根拠(株価算定書)を用意し、価格決定の申立てに耐えられる準備をする
譲渡制限株式の売買価格をめぐる争いについて、最高裁令和5年5月24日第三小法廷決定(令和4年(許)第8号)は、会社法144条2項の売買価格決定の手続で、DCF法による評価額から非流動性ディスカウントを行うことができるとしました(裁判所 裁判例情報)。裁判所で決まる価格は、評価の方法や事情によって大きく変わりうるため、「裁判になれば安く済む」と考えるのは危険です。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る銀行からの見え方
少数株主との争いは、金融機関の目にも入ります。株主総会決議の効力が争われていたり、価格決定の申立てで多額の支払いが見込まれたりすると、将来の資金流出や経営の不安定さとして評価に影響することがあります。
反対に、株主構成が整理され、後継者に経営権が集まっていることは、事業承継の局面では前向きな材料です。スクイーズアウトの対価をHDや事業会社が借入でまかなう場合は、返済原資(配当など)を含めた計画を金融機関に説明します。HD化を金融機関にどう説明するかはHD化を金融機関にどう説明するかで整理します。
まとめ
- 株式移転は特別決議(3分の2以上)で進められる。反対株主には株式買取請求権がある(会社法806条)
- 少数株主に退いてもらう方法は、90%以上なら売渡請求、3分の2以上なら株式併合が中心。どちらも価格決定の手続きがある
- スクイーズアウトは組織再編税制の対象。非適格なら資産の時価評価課税のおそれがある
- 実務では、事前の説明とHDによる任意の買取りを先に行い、スクイーズアウトは最後の手段にする
- 争いは金融機関の評価にも影響する。価格の根拠と資金計画を用意して臨む
