HDを作る方法として最もよく使われるのが、株式移転(新しくHDを作る)と株式交換(既存の会社をHDにする)です(会社法772条、767条)。どちらも、株主が持つ事業会社の株式をHDに移し、代わりにHDの株式を受け取る手続きです。
税務では、①株主に譲渡益の課税があるか、②事業会社(完全子法人)の資産が時価評価されるか、③HDが受け入れた子会社株式の取得価額はいくらか、の3点を確認します。この記事では、この3点を順に整理します。手続きは株式移転でHDを作る、株式交換でHDを作るをご覧ください。
- 株主の課税は、対価が親会社の株式だけなら繰り延べられる(個人は所得税法57条の4)。法人税の適格・非適格とは別に判定する
- 会社の課税は、非適格だと完全子法人の資産が時価評価され、含み益に法人税がかかる(法人税法62条の9)
- 1社だけの株式移転は、HDと子会社の完全支配関係の継続見込みがあれば適格(施行令4条の3第22項)
- HDが受け入れる子会社株式の取得価額は、株主が50人未満なら株主の帳簿価額の合計(施行令119条1項12号)
- HDの株式は株式等保有特定会社になりやすく、受入価額が低いと38%控除が使えない部分もある。HD化で株価が必ず下がるわけではない
3者の課税関係
| 当事者 | 適格 | 非適格 |
|---|---|---|
| 株主(個人) | 親会社株式だけの交付なら課税なし。旧株の取得価額を新株に引き継ぐ | 親会社株式だけの交付なら課税なし(所得税法57条の4)。金銭などの交付があれば譲渡所得 |
| 完全子法人 | 課税なし | 時価評価資産の評価損益を計上(法人税法62条の9)。ただし直前に完全支配関係があれば対象外 |
| 完全親法人(HD) | 子会社株式を、株主50人未満なら株主の帳簿価額の合計、50人以上なら子会社の簿価純資産などで受け入れ | 時価で受け入れ |
株主の課税:適格・非適格とは別の判定
個人株主の場合、株式交換・株式移転で、親会社(またはその100%親会社)の株式以外の資産が交付されなかったときは、旧株の譲渡がなかったものとされます(所得税法57条の4第1項・2項)。剰余金の配当として交付される金銭や、反対株主の買取請求の対価は、この判定から除かれます。法人株主も同様です(法人税法61条の2第9項・11項)。
ここで大事なのは、株主の課税の繰延べは、法人税の適格要件とは別だという点です。株式移転が非適格でも、株主に株式しか交付していなければ、株主は課税されません。逆に、少数株主に現金を交付すると、その株主は譲渡所得の課税を受けます(株式交換で、親会社が子会社株式の3分の2以上を持つ場合の現金交付は、対価要件の例外として適格を外れませんが、現金を受け取った株主には譲渡益の課税があります)。
会社の課税:非適格だと資産が時価評価される
非適格の株式交換・株式移転では、完全子法人が持つ時価評価資産(固定資産、土地、有価証券、金銭債権、繰延資産)の評価損益を、その事業年度の益金・損金に算入します(法人税法62条の9)。含み益のある土地を持つ会社では、現金が動かないのに多額の法人税がかかることになります。ただし、帳簿価額が1,000万円未満の資産や、含み損益が資本金等の額の2分の1または1,000万円のいずれか少ない金額に満たない資産などは除かれます(同法施行令123条の11)。
適格要件
株式交換・株式移転の適格要件も、合併と同じ3類型です(法人税法2条12号の17・12号の18、同法施行令4条の3第18項〜24項)。
| 類型 | 株式交換 | 株式移転 |
|---|---|---|
| 完全支配関係 | 親子または同一の者による完全支配関係があり、交換後も継続見込み | 複数社の株式移転:同一の者による完全支配関係があり、移転後も同一の者とHD・各子会社の関係が継続見込み。1社だけの株式移転:HDと子会社の完全支配関係の継続見込み |
| 支配関係 | +子会社の従業者おおむね80%以上の継続従事、主要な事業の継続 | +各子会社の従業者80%、主要な事業の継続 |
| 共同事業 | 事業関連性、規模または特定役員、従業者、事業継続、株式の継続保有など | 同左 |
中小企業がHDを作る場面で多い1社だけの株式移転は、対価がHDの株式だけで、株式移転後にHDと子会社の間の完全支配関係が続く見込みがあれば適格です(同法施行令4条の3第22項)。株式移転の後に子会社を合併や分割の当事者にする予定がある場合は、その予定に応じた継続の要件があるので、HD化の後の再編まで含めて計画します。
複数の会社を同時に株式移転でHDの下に置く場合は、完全支配関係の適格要件で、親族の合算で両社100%かを確認します。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見るHDが受け入れる子会社株式の取得価額
適格株式移転でHDが取得した子会社株式の取得価額は、次のとおりです(法人税法施行令119条1項12号)。
- 子会社の株主が50人未満:株主が持っていた子会社株式の帳簿価額(取得価額)の合計
- 子会社の株主が50人以上:子会社の簿価純資産(前期末の資本金等の額と利益積立金額をもとに計算)
オーナー一族の会社は通常50人未満なので、創業時に1,000万円で設立した会社なら、純資産が3億円あっても、HDの帳簿上の子会社株式は1,000万円です。この数字が、HDの株式の評価に効いてきます。
HDの株式の評価への影響
株式移転で作ったHDは、総資産のほとんどが子会社株式なので、多くの場合株式等保有特定会社として純資産価額で評価されます(株式保有特定会社に注意)。また、HDは新設法人なので、開業後3年未満の間は純資産価額で評価されます。
純資産価額の計算では、相続税評価額と帳簿価額の差(評価差額)の38%(令和8年4月1日以後の相続・贈与等から。改正前は37%)を法人税等相当額として控除できます。しかし、株式交換・株式移転などで著しく低い価額で受け入れた株式については、受け入れた時の差額を評価差額に含めない取扱いがあります(財産評価基本通達186-2(2))。先ほどの例で、子会社株式の相続税評価が3億円、HDの帳簿価額が1,000万円なら、その差額2.9億円は38%控除の対象になりません。
| 比べる時点 | HDの株式の評価の考え方 |
|---|---|
| HD化の直後 | 受入時の差額は38%控除の対象外。株価はほとんど下がらない |
| HD化の後に子会社が利益を積み上げた | HD化の後に増えた含み益は38%控除の対象になりうる |
つまり、HD化による株価の抑制は、HD化の後に子会社の価値が増えた部分に効くもので、HD化した時点で株価が下がるわけではありません。株価の試算の考え方はHD化で株価が下がる仕組み:38%控除の考え方と試算で詳しく扱っています。また、HD化を株価対策だけを目的に行うと、財産評価基本通達6項(総則6項)の適用が問題になることもあります(HD化による株価対策と総則6項)。
銀行の見え方
株式交換・株式移転は、グループの資産や借入を動かさないので、事業会社の借入はそのまま残ります。ただし、銀行は、HDができた後のグループ全体の資金の流れ(配当・経営指導料・HDの借入)を確認します。HDを作った後に、HDで株式買取りの借入をするなら、返済原資は子会社からの配当です。100%子会社からの配当は、計算期間を通じて完全支配関係があれば全額益金不算入ですが、HD設立後の最初の配当の時期は事前に確認しておきましょう。銀行への説明はHD化を金融機関にどう説明するかをご覧ください。
まとめ
- 株主の課税は、対価が親会社の株式だけなら繰り延べられる。法人税の適格とは別に判定する
- 非適格だと完全子法人の資産が時価評価される。直前に完全支配関係があれば対象外
- 1社だけの株式移転は、HDと子会社の完全支配関係の継続見込みがあれば適格
- HDが受け入れる子会社株式の取得価額は、株主50人未満なら株主の帳簿価額の合計
- 受入価額が低いと、HD化の時点の含み益には38%控除が使えない。株価の抑制はHD化の後の増加分に効く
株式交換・株式移転と、株式の買取りによるHD化の違いは、HDの作り方の全体像と持株会社で株主構成を整理するも参考にしてください。
