HD(ホールディングス)を作ると、「子会社の赤字と事業会社の黒字を合算して税金を計算できないか」という質問をよくいただきます。それを可能にするのがグループ通算制度です。令和4年4月1日以後に開始する事業年度から、それまでの連結納税制度に代わって導入されました。
結論からいえば、年商数億〜数十億円規模の中小企業のHD体制では、グループ通算制度を選ばないほうがよいケースが多いと考えています。赤字の通算というメリットに対して、軽減税率の特例が使えない、開始時に資産の時価評価や欠損金の切捨てがある、やめにくい、といった負担が大きいからです。この記事では、制度の仕組みと、選ぶかどうかの判断基準を整理します。
- グループ通算制度は選択制。親法人と100%子法人の全社で申請し、国税庁長官の承認を受ける
- 各社が個別に申告しつつ、赤字(欠損金額)を黒字の会社に配分して通算できる
- 通算法人は15%の軽減税率の特例の対象外(措置法42条の3の2)。年800万円の枠もグループで1つ
- 開始・加入時の時価評価課税と欠損金の切捨て、e-Tax義務、連帯納付、取りやめの制限がある
- 中小企業のHD体制では、まず自動適用のグループ法人税制で足りるかを考え、通算は赤字の子会社が長く続く場合に検討する
グループ通算制度の仕組み
国税庁の説明(タックスアンサーNo.5900)によれば、グループ通算制度は、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額を計算・申告しながら、その中で損益通算などの調整を行う制度です。
主な仕組みは次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 親法人と、その親法人による完全支配関係があるすべての子法人(一部だけの選択は不可) |
| 申告 | 各法人が個別に申告・納付(個別申告方式)。e-Taxでの申告が義務(資本金の額にかかわらない) |
| 損益通算 | 欠損法人の欠損金額の合計を、所得法人の所得の比で配分して損金に算入。同額を欠損法人の益金に算入 |
| 欠損金の通算 | 繰越欠損金もグループで調整して控除 |
| 税効果のやりとり | 通算で減った税額相当額(通算税効果額)を会社間で精算しても、益金・損金に算入しない(法人税法26条4項・38条3項) |
| 連帯納付 | 各通算法人は、他の通算法人の法人税について連帯して納付の責任を負う |
| 取りやめ | 国税庁長官の承認が必要。単に税負担が軽減されるといった理由では認められない |
中小企業が気をつけたい4つの負担
1. 15%の軽減税率の特例が使えない
中小企業にとって最も大きいのがこの点です。資本金1億円以下の普通法人は、通常、所得年800万円以下の部分に15%の税率が適用されます(租税特別措置法42条の3の2、令和9年3月31日までに開始する事業年度。所得が年10億円を超える事業年度は17%)。ところが、同条は対象から通算法人を除くと明記しています。
通算法人のうち中小通算法人は、所得年800万円以下の部分に19%が適用されますが、その800万円はグループ全体で1つで、各社の所得の比で配分します(タックスアンサーNo.5900)。さらに、グループ内に資本金1億円超の法人などが1社でもあると「大通算法人」となり、全社がこの軽減の対象外になります。
2. 開始・加入時の時価評価と欠損金の切捨て
制度を始めるとき、または新しい子会社がグループに加わるときには、一定の要件に当てはまらない法人について、資産の時価評価課税と、過去の欠損金の切捨てがあります。M&Aで買った会社をグループに入れる場合などは、繰越欠損金が使えなくなることがあるため、事前の確認が欠かせません。
3. 事務負担と連帯責任
全社がe-Taxで申告し、通算の計算のために各社の数字を同じタイミングでそろえる必要があります。また、1社に修正や更正があったときの調整も複雑です。連帯納付の責任があるため、子会社の税務リスクがグループ全体に及びます。
4. やめにくい
いったん承認を受けると、やむを得ない事情がない限り取りやめられません。子会社が黒字化して通算のメリットがなくなっても、制度の負担は続きます。
数字で比べる:通算するとどうなるか
上の図の例(事業会社の所得3,000万円、新規事業会社の欠損1,000万円、HDの所得0)で、国の法人税だけを単純化して比べます。
| 項目 | 通算しない | 通算する |
|---|---|---|
| 事業会社の課税所得 | 3,000万円 | 2,000万円 |
| 年800万円以下の部分の税率 | 15% | 19% |
| 事業会社の法人税(概算) | 800万円×15%+2,200万円×23.2%=約630万円 | 800万円×19%+1,200万円×23.2%=約430万円 |
| 新規事業会社の欠損金 | 1,000万円を翌期以降に繰越し | 通算で使い切る |
この年だけ見れば約200万円の差ですが、通算しない場合でも、新規事業会社が黒字化すれば繰越欠損金を自社の所得から控除できます。つまり、通算の効果の多くは税金を払う時期の違いです。新規事業会社が何年も黒字化しない、または清算する見込みが高いといった場合に、通算の意味が大きくなります。
なお、この比較は国の法人税だけで、地方法人税・住民税・事業税や、時価評価・欠損金の切捨ての影響は含めていません。実際の判断は、グループ全体・複数年で試算します。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見るグループ法人税制との違い
HD体制の100%グループには、通算を選ばなくてもグループ法人税制が自動的に適用されます。両者の違いを押さえておくと、判断がしやすくなります。
| 項目 | グループ法人税制 | グループ通算制度 |
|---|---|---|
| 適用 | 100%の資本関係があれば強制 | 選択(申請・承認) |
| 主な内容 | 資産の譲渡損益の繰延べ、寄附金・受贈益、100%子会社からの配当の全額益金不算入など | 損益通算、欠損金の通算(グループ法人税制の扱いも適用される) |
| 中小企業の軽減税率の特例 | 各社で判定(資本金5億円以上の法人による完全支配関係がある場合などは対象外) | 通算法人は対象外 |
| やめる | 資本関係が変われば外れる | 承認が必要 |
HD化の主な目的である、子会社からの配当の吸い上げ(100%子会社なら全額益金不算入、法人税法23条)や、グループ内での不動産の移転(譲渡損益の繰延べ)は、グループ法人税制で実現できます。通算制度がなくても、HD化の効果の大半は得られるということです。
銀行から見たグループ通算制度
銀行はもともとグループを合算して見るため、通算制度を選んでも、グループ全体の利益や返済能力そのものは変わりません。変わるのは、どの会社がどれだけ税金を払うかと、会社間の通算税効果額のやりとりです。
注意したいのは次の2点です。
- 会社ごとの決算書の見え方:通算税効果額を精算すると、赤字の子会社に資金が入り、黒字の会社から資金が出ます。単体の決算書だけを見る銀行には、資金の流れの理由を説明できるようにしておきます
- 連帯納付のリスク:通算法人は他社の法人税に連帯責任を負います。グループ内に税務リスクの高い会社があると、借入をしている会社にも影響が及ぶと見られます
セミナーでも、「必要もないのにグループ通算制度を採用し、事務負担と離脱のコストで損をする」ことを、HD化の落とし穴の一つとしてお伝えしています。
選ぶかどうかの判断基準
次のような場合は、グループ通算制度を検討する余地があります。
- 赤字が数年続く見込みの子会社(新規事業・研究開発・立ち上げ期の店舗など)があり、黒字の会社の所得が大きい
- 赤字の子会社を将来清算する可能性が高く、単体では欠損金を使い切れない
- グループの所得が大きく、もともと15%の軽減の影響が小さい
逆に、次のような場合は選ばないほうがよいことが多いです。
- グループの所得が年800万円前後の会社が複数あり、各社で15%の軽減を受けている
- M&Aで繰越欠損金のある会社を買う予定がある(加入時の切捨て)
- 子会社の株式の一部を後継者や従業員に持たせる予定がある(100%でなくなると離脱する)
- 経理の体制が各社でそろっておらず、同じタイミングで数字を固められない
承認申請は、原則として最初の事業年度開始の日の3月前の日までです。設立したばかりのHDには期限の特例がありますが、いずれにしても、HD化の計画と同時に検討を始める必要があります。HDの作り方はHDの作り方の全体像、HDの維持コストはHDの維持コストで解説しています。
まとめ
- グループ通算制度は選択制で、100%子法人の全社が対象。個別申告のまま損益と欠損金を通算できる
- 中小企業にとっては、15%の軽減税率の特例の対象外、年800万円の枠がグループで1つ、という負担が大きい
- 時価評価・欠損金の切捨て、e-Tax義務、連帯納付、取りやめの制限もある
- 通算の効果の多くは納税の時期の違い。赤字の子会社が長く続く、清算する見込みがある場合に意味が大きい
- HD化の効果の大半は、自動適用のグループ法人税制で得られる。まずはそちらで足りるかを考える
グループ通算制度を選ぶかどうかは、グループ全体の数年先の損益計画で判断します。クレフティでは、HD化のスキーム設計とあわせて、通算制度の要否の試算もお手伝いしています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺ったうえで、担当の税理士または金融機関出身のコンサルタントが対応します。
