HD(ホールディングス)化には、HD化した後の値上がり分の評価を抑える効果があります。そのため、「株価対策としてHDを作りませんか」という提案を受けた方もいらっしゃるでしょう。ですが、株価を下げることだけを目的にした組み替えは、税務署から否認されるおそれがあります。その根拠になるのが、財産評価基本通達6項、いわゆる総則6項です。
この記事では、HD化に関係する否認の仕組みを整理し、過去の裁決・判決から、どこに線が引かれているのかを確認します。総則6項そのものの判断枠組みは総則6項と株式評価で詳しく解説しています。
- HDの株価対策を否認する根拠は、総則6項、財産評価基本通達189なお書き(株特外しの制限)、相続税法64条(同族会社の行為計算の否認)
- 最高裁令和4年4月19日判決は、著しい軽減と軽減の意図などの事情があれば、通達評価額を上回る課税も平等原則に反しないとした
- 現物出資・合併で評価差額を人為的に作った事案では、法人税額等相当額を控除しない評価が認められてきた(平成8年・10年・12年・13年の裁決)
- 東京地裁令和7年1月17日判決は、増資で株式等保有特定会社から外れた事案でも、軽減の程度などから総則6項の適用を否定した
- HD化は、目的・時間・実態・記録がそろって初めて「説明できる再編」になる
HDの株価対策を否認する3つの根拠
| 根拠 | 内容 | HDで問題になる場面 |
|---|---|---|
| 総則6項(財産評価基本通達6) | 通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する | 評価を下げるためだけの組み替え、相続直前の取引 |
| 財産評価基本通達189なお書き | 合理的な理由のない資産構成の変動で、株式等保有特定会社・土地保有特定会社の判定を免れたと認められるときは、変動がなかったものとして判定 | HDに不動産を買わせる、増資で現預金を増やすなどの「株特外し」 |
| 相続税法64条 | 同族会社の行為・計算で、相続税・贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものは、税務署長が否認できる | 同族会社を使った取引全般 |
財産評価基本通達は、相続税法22条の「時価」の評価方法を国税庁が定めたもので、法律ではありません。総則6項は、画一的な評価がかえって不公平を生む場合のための例外です(国税庁「財産評価基本通達 第1章 総則」、e-Gov法令検索「相続税法」)。
最高裁令和4年4月19日判決の枠組み
総則6項の適用の考え方を最高裁が示したのが、令和4年4月19日の第三小法廷判決(令和2年(行ヒ)第283号)です。不動産の事案ですが、株式の評価にも同じ枠組みが使われています。
- 課税庁が特定の納税者だけ通達評価額を上回る価額で課税するのは、合理的な理由がない限り平等原則に反する
- ただし、通達による画一的な評価が実質的な租税負担の公平に反する事情があれば、合理的な理由がある
- その事情として、取引によって相続税の負担が著しく軽減されたこと、取引が負担の軽減を意図して行われたことなどが考慮された
HDに関係する裁決:評価差額を作った取引
HDの株価が下がる仕組みの中心は、純資産価額の計算で、含み益(評価差額)の38%(令和8年4月1日以後の相続・贈与等)を法人税額等相当額として控除できることです(HD化で株価が下がる仕組み)。過去には、この控除を使うために、評価差額を人為的に作る取引が行われ、総則6項で否認されました。
| 裁決 | 内容 |
|---|---|
| 平成8年6月27日裁決(裁決事例集No.51) | 全額借入金で会社を設立し、出資を著しく低い価額で別会社に現物出資して課税価格を圧縮。法人税額等相当額を控除しない評価を違法ではないとした |
| 平成10年4月24日裁決(裁決事例集No.55) | 著しく低い価額での現物出資で評価差額を作った事案。控除せずに評価するのが妥当とした |
| 平成12年7月12日裁決(裁決事例集No.60) | 合併で上場株式を著しく低い価額で受け入れ、帳簿価額を圧縮。総則6項により控除せずに計算した価額を時価とした |
| 平成13年9月21日裁決(裁決事例集No.62) | 上場株式等の現物出資と低額受入れによる相続税の回避。控除しないで計算した価額を時価とした |
こうした事案を受けて、現在の財産評価基本通達186-2には、株式移転・株式交換・株式交付・現物出資・合併で著しく低い価額で受け入れた資産について、受け入れた時点の含み益(現物出資等受入れ差額)を控除の対象から外す定めが置かれています。株式移転でHDを作った時点の含み益に38%の控除が効かないのは、このためです。
株特外しと東京地裁令和7年1月17日判決
HDは資産の大半が子会社株式なので、株式等保有特定会社として純資産価額方式で評価されることが多くあります(株式保有特定会社に注意)。そこから外れるための資産の組み替えには、189なお書きの制限があります。
この点で注目されるのが、東京地裁令和7年1月17日判決(令和4年(行ウ)第100号)です。資産の約89%を株式で持つ資産管理会社が、被相続人から約36億円の第三者割当増資を受けて株式等保有特定会社から外れ、相続人が小会社の併用方式で申告した事案で、税務署は総則6項で純資産価額方式に更正しました。判決は、相続税の総額の減少が5割未満にとどまること、減少の多くが通達の選択制に起因することなどから、総則6項を適用すべき事情はないとして処分を取り消しています。
ただし、判決は、189なお書きについては国が具体的な主張立証をしていないと述べたにとどまります。「相続直前の大きな資金移動でも否認されなかった」と読むのではなく、軽減の程度と、資産構成の変動の理由が具体的に問われると読むべきでしょう(控訴審の経過は本稿では扱いません)。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る目的を説明できるHD化の設計
HD化には、株価以外にも多くの目的があります(HD化のメリット10選)。否認のリスクを下げるには、その目的が書面と実態で示せることが大切です。
- 目的を書面に残す:グループの経営管理、事業ごとのリスクの切り分け、M&Aの受け皿、承継の単位の整理など、HD化の目的を検討資料と議事録に残す
- 時間をかける:相続の直前ではなく、承継まで時間のある段階で行う
- 実態を伴わせる:HDが管理部門を担う、不動産を管理する、子会社の経営を指導するなど、HDが実際に機能している
- 株価だけの取引をしない:判定の直前に資産を組み替える、評価を下げる以外に意味のない借入や増資をしない
- 数字を正しく見せる:HD化の時点の含み益は控除できない(186-2)、子会社の段階の含み益も控除できない(186-3)ことを前提に試算する
銀行から見ても「説明できない取引」は避ける
銀行は、HD化の目的と、HDと子会社を合算した連結の財務を見ます。株価を下げるために多額の借入で資産を組み替えれば、債務償還年数(著書のモデルでは、(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)で10年以内が健全、20年超は厳しい)が悪化し、後継者の代での融資の評価を損ないます。
書籍『事業承継を乗り切るための 組織再編HD活用術』も、株価対策は事業承継の目的ではなく手段の一つにすぎず、過度な株価対策は経営のリスクそのものだと指摘しています。HD化は、純資産を削らずに承継の準備ができる方法だからこそ、承継と財務の強化という目的の中に位置づけて設計するのが、税務署にも銀行にも説明できるやり方です。HDの評価の全体像はHD化すると自社株の評価はどう変わる?、組織再編の行為計算否認は組織再編の行為計算否認:ヤフー事件・IBM事件から学ぶもご覧ください。
まとめ
- HDの株価対策を否認する根拠は、総則6項・189なお書き・相続税法64条
- 最高裁令和4年判決は、著しい軽減と軽減の意図などで、通達評価額を上回る課税を認めた
- 現物出資・合併で評価差額を作った事案は否認され、現在は現物出資等受入れ差額の定めがある
- 東京地裁令和7年判決は株特外しの事案で適用を否定したが、軽減の程度と変動の理由は具体的に問われる
- HD化は、目的・時間・実態・記録をそろえ、承継と財務の強化の中に位置づける
クレフティでは、HD化の目的の整理、株価の試算、総則6項などのリスクの検討、金融機関への説明資料の作成まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
