HD(ホールディングス)化や合併は、適格要件を一つずつ満たしていけば税金の結果が決まる、と考えられがちです。しかし税法には、要件を満たしていても、税負担を減らすためだけの不自然な行為は否認できるという規定があります。これが行為計算否認です。
組織再編の分野でこの規定の使われ方を決定づけたのが、ヤフー事件(最高裁平成28年2月29日判決)と、同族会社の否認規定が争われたIBM事件(東京高裁平成27年3月25日判決)です。いずれも大企業の事件ですが、示された判断基準は中小企業のHD化・合併にもそのまま当てはまります。この記事では、2つの事件の要点と、中小企業が否認されないために準備すべきことを整理します。
- 組織再編の否認規定(法人税法132条の2)は、合併・分割・現物出資・現物分配・株式交換等・株式移転が対象。HD化も含まれる
- ヤフー事件の最高裁は、組織再編税制の規定を租税回避の手段として濫用するものかで判断し、①不自然さ、②税負担減少以外の事業目的を考慮するとした
- 同族会社の否認規定(132条1項)は経済的合理性を欠くかで判断。IBM事件では国が敗れたが、その後の改正で同じ形は使えなくなった
- 相続税・贈与税にも、同族会社と組織再編の否認規定がある(相続税法64条1項・4項)。株価対策のHD化は総則6項とあわせて注意
- 対策は、実行前の記録で事業目的を示すことと、再編後の実態を伴わせること
行為計算否認の規定は3つある
組織再編やHD化に関係する否認規定は、主に次の3つです。
| 規定 | 対象 | 判断の基準 |
|---|---|---|
| 法人税法132条の2(組織再編成) | 合併・分割・現物出資・現物分配・株式交換等・株式移転に係る法人の行為・計算 | 組織再編税制の規定の濫用か(ヤフー事件) |
| 法人税法132条1項(同族会社等) | 同族会社等の行為・計算 | 経済的合理性を欠くか(IBM事件など) |
| 相続税法64条(同族会社等・組織再編成) | 同族会社等の行為・計算(1項)、合併等をした法人などの行為・計算(4項) | 株主などの相続税・贈与税の負担を不当に減少させるか |
オーナー一族が株式の大半を持つ中小企業は、ほとんどが同族会社です。そのため、組織再編の規定(132条の2)と同族会社の規定(132条1項)の両方が関係します。さらに、HD化の目的が自社株の評価を下げることにある場合は、相続税法64条と、財産評価基本通達6項(いわゆる総則6項)にも注意が必要です。
ヤフー事件(最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決)
事案
裁判所ウェブサイトに掲載された判決(平成27年(行ヒ)第75号)によれば、買収する側の会社の代表取締役社長が、買収の前に、買収される会社の取締役副社長に就任しました。その後、買収と合併を行い、合併後も社長が社長を続けることで、欠損金の引継ぎ制限を外す特定役員引継要件を満たすとして、買収される会社の未処理欠損金額を引き継いで損金に算入しました。
判断の基準
最高裁は、132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものをいうとしました。そして、濫用かどうかは次の事情を考慮して判断するとしています。
- 行為・計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものかどうか
- 税負担の減少以外に、そのような行為・計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか
当てはめ
最高裁は、副社長の在任期間がわずか3か月程度であったこと、代表権のない非常勤の取締役で、具体的な権限を伴う専任の担当業務もなく、役員報酬も受けていなかったこと、業務の内容がおおむね合併の準備などにとどまっていたこと、会社間の電子メールに「税務ストラクチャー上の理由」といった記載があったことなどを挙げ、副社長就任は要件の形式を作り出す明らかに不自然なもので、税負担の減少以外の事業目的があったとはいい難いとして、否認を適法としました。
同じ日に、同じ一連の取引のうち、子会社を新設分割で作り、その株式を短期間で譲渡して分割をあえて非適格にした部分についても、最高裁第二小法廷が否認を適法としています(平成27年(行ヒ)第177号、いわゆるIDCF事件)。要件を満たすように整える行為だけでなく、要件から外れるように整える行為も、否認の対象になりうるということです。
IBM事件(東京高裁平成27年3月25日判決)
事案
国税庁が公表している税務訴訟資料(第265号、順号12639)によれば、外国の親会社グループが全持分を持つ日本の中間持株会社が、日本の事業会社の株式を外国法人から購入し、その後3回にわたって、取得時と同じ1株当たりの価額で、株式の一部をその事業会社に譲渡しました(自己株式の取得)。発行会社への譲渡では代金の一部がみなし配当(法人株主では益金不算入)になり、残りが譲渡対価になるため、中間持株会社には多額の株式の譲渡損失が生じ、その後の連結納税で他の会社の所得と通算されました。
判断
税務署長は、一連の行為が独立当事者間の通常の取引と異なり経済的合理性を欠くとして、132条1項で譲渡損失を否認しました。東京高裁は、同項の「不当に減少させる」とは同族会社の行為・計算が経済的合理性を欠く場合をいうとしたうえで、国の主張を退け、処分を取り消した第一審の判断を維持しました(控訴棄却)。国の上告受理申立ては、最高裁で不受理となっています。
ここで押さえておきたいのは、判決で認められた形が、その後の改正で使えなくなったことです。平成22年度の改正で、完全支配関係がある法人の間で発行法人に株式を譲渡した場合には、譲渡損益を計上しない扱いになりました。HD体制の100%グループでは、子会社による自己株式の取得で譲渡損を作ることはできません。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る中小企業のHD化・合併で注意したい場面
2つの事件の考え方を、中小企業の実務に当てはめると、次のような場面で注意が必要です。
| 場面 | 問題になりうる点 | 関係する規定 |
|---|---|---|
| 欠損金のある会社との合併 | 合併直前の役員就任、事業の実態がない会社との合併、欠損金だけを引き継ぐ形 | 132条の2、法人税法57条 |
| 株式移転でHDを作った直後の売却・再編 | 適格要件の前提(株式の保有の継続)と実際の行動が合わない | 132条の2 |
| 株価を下げるためのHD化 | 承継・経営の目的がなく、評価額の引下げだけを目的とする形 | 相続税法64条、総則6項 |
| グループ内の借入・資産の付け替え | 利率・価格・返済計画が実態と合わない | 132条1項、寄附金 |
とくに、HD化による自社株の評価の引下げを主な目的として打ち出すと、総則6項による否認のリスクが高まります。HD化は、承継の整理や資金調達、グループ経営の強化という目的があってはじめて、株価への影響も説明しやすくなります。総則6項のリスクはHD化による株価対策と総則6項、株価の基本はHD化すると自社株の評価はどう変わる?で解説しています。
否認されないための準備
ヤフー事件の判断の枠組みを裏返すと、準備すべきことが見えてきます。
- 事業目的を実行前に文書にする:取締役会の議事録、HD化・再編の目的を書いた計画書、事業計画、金融機関への説明資料。ヤフー事件では、メールの記載が「税務上の理由」を示す証拠として使われました
- 手順を自然にする:要件を満たすためだけの短期間の役員就任、直前の株式の移動、再編直後の売却など、通常想定されない手順を入れない
- 実態を伴わせる:役員には実際の職務と報酬、移した事業には従業者と取引、HDには経営管理の機能を持たせる
- 税負担の比較だけで方法を選ばない:複数の方法を比べるときも、承継・資金・管理のどの目的に合うかを記録に残す
- 古いスキームを使わない:IBM事件のように、判決や改正で扱いが変わった形がある。書籍や過去の事例の方法は、現在の法令で確認する
金融機関への説明も、目的を記録に残す機会になります。銀行に「管理の効率化と承継の整理のためのHD化」と説明している内容と、実際の再編の手順が一致していることが、税務の面でも、融資の面でも信頼につながります。銀行への説明の仕方はHD化を金融機関にどう説明するかで解説しています。大企業の判例をさらに詳しく知りたい方は、M&A・組織再編の税務の重要判例もご覧ください。
まとめ
- 適格要件を満たしても、組織再編税制の規定の濫用と認められれば、132条の2で否認される。株式移転によるHD化も対象
- ヤフー事件の最高裁は、①不自然さ、②税負担減少以外の事業目的、を考慮して濫用かを判断する枠組みを示した
- 同族会社の132条1項は経済的合理性の基準。IBM事件は国が敗訴したが、改正で同じ形は使えなくなった
- 株価対策を目的とするHD化は、相続税法64条と総則6項にも注意する
- 実行前の記録で事業目的を示し、再編後の実態を伴わせることが最大の備えになる
HD化や合併のスキームは、税金の結果だけでなく、目的と手順が説明できるかで評価が決まります。クレフティでは、組織再編のスキーム検討やセカンドオピニオンのご相談をお受けしています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺ったうえで、担当の税理士または金融機関出身のコンサルタントが対応します。
- ヤフー事件:最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決(裁判所ウェブサイト、PDF)
- IDCF事件:最高裁平成28年2月29日第二小法廷判決(裁判所ウェブサイト、PDF)
- IBM事件:東京高裁平成27年3月25日判決(国税庁 税務訴訟資料 第265号 順号12639、PDF)/上告不受理(平成28年2月18日):同 第266号 順号12802(PDF)
