「HDを作ると株価が下がる」という話を聞いて、ご相談に来られるオーナー経営者は少なくありません。たしかに、ホールディングス(HD)を作ると、オーナーの手元にある株式は「事業会社の株」から「HDの株」に変わり、相続税・贈与税での自社株の評価のしかたが変わります。ただ、変わり方は会社ごとに違い、何もしなければかえって上がることもあります。
この記事では、HD化で自社株の評価がどう変わるのかを、財産評価基本通達の定めに沿って整理します。数字は説明のために作った例です。
- HD化すると、オーナーが評価するのはHDの株式になる。HDの資産の大半が子会社株式なら株式等保有特定会社として、原則は純資産価額方式(財産評価基本通達189・189-3)
- HDの純資産を計算するとき、子会社株式は子会社ごとの原則の方式で評価する。ただし子会社の段階では法人税額等相当額を控除しない(同186-3)
- HDの段階の含み益には38%(令和8年4月1日以後の相続・贈与等)の控除があるが、HD化の時点の含み益は対象外(同186-2の現物出資等受入れ差額)
- 効果が出るのはHD化した後に増えた価値。承継までの期間が長く、利益を積み上げる会社ほど差が開く
- 株価だけを目的にした組み替えは総則6項のリスクがある。承継と財務の目的とセットで考える
HD化の前と後で「評価する株式」が変わる
HD化の前は、オーナーが事業会社の株式を直接持っています。相続や贈与のときに評価するのは事業会社の株式で、会社の規模(大会社・中会社・小会社)に応じて、類似業種比準価額と純資産価額を組み合わせて評価します(財産評価基本通達178・179)。
HD化した後は、オーナーが持つのはHDの株式です。事業会社の株式はHDの資産になり、オーナーの財産としてはHDの株式を通じて間接的に評価されることになります。
分かれ道1:HDは「特定の評価会社」になりやすい
HDの評価でまず確認するのは、HDが特定の評価会社に当たるかどうかです(財産評価基本通達189)。HDで問題になりやすいのは次の2つです。
| 区分 | 判定の基準 | 評価方法 |
|---|---|---|
| 株式等保有特定会社 | 相続税評価額で計算した総資産のうち、株式・出資・新株予約権付社債の割合が50%以上 | 純資産価額方式(選択でS1+S2方式)(189-3) |
| 開業後3年未満の会社等 | 開業後3年未満、または配当・利益・簿価純資産の3要素がいずれも0 | 純資産価額方式(189-4) |
| 土地保有特定会社 | 土地等の割合が大会社で70%以上、中会社で90%以上など | 純資産価額方式(189-4) |
株式移転などで作ったばかりのHDは、資産のほとんどが子会社株式なので、株式等保有特定会社の基準にも当たり、設立から3年未満なら開業後3年未満の会社にも当たります。いずれにしても、HDの株式は純資産価額方式で評価するのが出発点になります。判定の詳しい内容は株式保有特定会社に注意、土地保有特定会社とHDで解説します。
分かれ道2:子会社株式をどう評価するか
HDの純資産価額を計算するとき、資産に含まれる子会社株式は、子会社そのものの規模と方式で評価します。子会社が大会社なら類似業種比準価額、小会社なら純資産価額(または併用方式)、という具合です。
ここで注意したいのが、財産評価基本通達186-3の定めです。HDが持つ子会社株式を純資産価額で評価するときは、子会社の段階では法人税額等相当額を控除しないとされています。
たとえば、子会社が本社の土地に1億円の含み益を持っているとします。オーナーが子会社株式を直接持っていれば、純資産価額の計算で1億円×38%=3,800万円が控除されます。HDを通すと子会社の段階ではこの控除がなく、HD化の直後にHDの株価のほうが高くなることがあります。含み益の大きい不動産を持つ会社ほど、HD化の前に試算が欠かせません。
分かれ道3:HDの段階の含み益と38%の控除
HDの純資産価額は、HDの資産を相続税評価額で評価し、負債を差し引き、さらに評価差額に対する法人税額等相当額を控除して計算します(財産評価基本通達185・186-2)。
この割合は、防衛特別法人税の創設に伴う改正で、令和8年4月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した財産から38%とされています(国税庁「財産評価基本通達の一部改正について(法令解釈通達)」令和8年3月25日、「通達のあらまし」)。書籍やセミナー資料の割合は改正前のものがあるので、試算は課税時期の通達で行います。
ただし、株式移転・株式交換・現物出資などで子会社株式を著しく低い価額で受け入れたときは、受け入れた時点の含み益(現物出資等受入れ差額)を帳簿価額に足して計算します(186-2(2))。つまり、HD化の時点ですでにあった含み益には38%の控除が効かず、効くのはHD化した後に増えた部分だけです。
| 例(単位:万円) | HD化の時点 | 10年後 |
|---|---|---|
| 子会社株式の相続税評価額 | 20,000 | 60,000 |
| HDの帳簿価額(株式移転で受入れ) | 1,000 | 1,000 |
| 現物出資等受入れ差額の加算 | 19,000 | 19,000 |
| 控除の対象になる評価差額 | 0 | 40,000 |
| 法人税額等相当額(38%) | 0 | 15,200 |
| HDの株価(負債なしと仮定) | 20,000 | 44,800 |
直接保有なら10年後の評価は6億円(子会社の評価方法は同じと仮定)、HD経由なら4億4,800万円です。仕組みと試算はHD化で株価が下がる仕組み:含み益の控除の考え方と試算で詳しく扱います。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る銀行と税務署は「目的」を見ている
株価の数字だけを見ると、HD化は魅力的に見えます。ただ、財産評価基本通達には、通達どおりの評価が著しく不適当な場合に別の方法で評価できるとする定め(総則6項)があり、株式等保有特定会社の判定を免れるための合理的な理由のない資産構成の変動は、なかったものとして判定するという定め(189なお書き)もあります。評価を下げるためだけの組み替えは、否認のリスクがあります(総則6項と株式評価、HD化による株価対策と総則6項)。
銀行の側も、HD化の目的を見ています。HD化の後は、HDと子会社を合算した連結の姿で、債務償還年数(著書のモデルでは、(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)で10年以内が健全)や実態の純資産を見られるのが一般的です。株価を下げる目的で役員退職金や費用を膨らませ、純資産を削ってしまうと、後継者が承継のときに銀行から受ける評価まで下がります。HD化による評価の抑制は、純資産を削らずに、将来の値上がり分の評価を抑えるところに意味があります。
HD化の前に試算しておく項目
HD化を検討する段階で、少なくとも次の項目は数字で確認しておきたいところです。
- 今の事業会社の株価(類似業種比準価額・純資産価額・会社規模)
- HD化した直後のHDの株価(子会社の含み益で上がらないか)
- 5年後・10年後の株価(直接保有とHD経由の比較)
- HDが株式等保有特定会社・土地保有特定会社・開業後3年未満の会社に当たるか
- 承継の方法(贈与・譲渡・相続)と時期、納税資金
- HD化の後の連結の決算書と、銀行からの見え方
非上場株式の評価の基本は非上場株式の相続税評価の基本、HD化の全体像はグループ会社の整理とホールディングス化もあわせてご覧ください。なお、国税庁は非上場株式の評価方法の見直しを検討しており、HDの評価にも影響する可能性があります(非上場株式の評価見直しの議論とHD)。
まとめ
- HD化すると、オーナーが評価するのはHDの株式。多くは株式等保有特定会社・開業後3年未満の会社として純資産価額方式
- 子会社株式は子会社の原則の方式で評価するが、子会社の段階では38%の控除はない。含み益の大きい子会社は、HD化の直後に評価が上がることもある
- HDの段階の38%の控除は、HD化した後に増えた価値にだけ効く(令和8年4月1日以後の相続・贈与等)
- 株価の目的だけで組み替えると総則6項などのリスクがある。承継と財務の目的、銀行への説明とセットで設計する
クレフティでは、大手FASでバリュエーションを手がけてきた公認会計士・税理士が、HD化の前後の株価の試算から、承継の方法、銀行への説明資料まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
