国税庁が検討している非上場株式の評価の見直しは、オーナー経営者の相続税・贈与税を大きく左右するテーマです。HD(ホールディングス)を作った、あるいは検討しているオーナーにとっては、「HDの株価の考え方まで変わるのか」が気になるところでしょう。
実は、国税庁の有識者会議が2026年8月に示した骨子には、子会社株式の評価や組織再編成直後の会社の扱いなど、HDに直接関わる論点が含まれています。この記事では、骨子のうちHDに関係する部分を整理し、政治の議論の状況と、今できることを解説します。見直し全体の流れは非上場株式の評価見直しの最新動向で詳しく解説しています。
- 国税庁の骨子は、類似業種比準方式と純資産価額方式の体系を廃止し、残余利益方式に原則一本化する方向(2026年8月20日、有識者会議)
- HDに関係する論点は、①完全支配関係の子会社を連結ベースと同等に評価、②組織再編成直後の会社を純資産価額方式で評価、③資産管理会社を帳簿価額の形式基準(特定資産70%・特定収入75%)で判定、など
- 現行のHDの評価の仕組み(HD化の後の値上がり分の38%控除など)がどう残るかは、まだ分からない
- 自民党の日本成長戦略本部は10月29日、国税庁案を前提とせず白地から議論すべきとの緊急決議をまとめたと報じられた。結論は年末の税制改正大綱が焦点
- 見直しを理由にHD化を急がず、評価以外の目的で判断し、現行ルールと案の両方で試算しておく
骨子の全体像
国税庁の「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」は、次の4つの柱で構成されています。
- 規模に応じた評価体系の廃止と評価方式の一本化
- 株式の評価は、上場会社との比較ではなく、評価会社全体の価値(企業価値総額)を前提とする
- 原則的評価方式として、インカムアプローチのうち残余利益モデルを採用する
- 純資産価額方式と配当還元方式の適用対象・算式を見直す
骨子には、見直しの内容や評価水準・税負担のあり方は、最終的には税制改正プロセスで決定すると明記されています。案の段階であることを前提に読む必要があります。
HDに関係する4つの論点
骨子のうち、HDの評価に関係する部分を整理します。
| 論点 | 現行の扱い | 骨子で示された方向(案) |
|---|---|---|
| 子会社株式 | 類似業種比準方式では、子会社の価値は簿価と受取配当金を通じてしか反映されない | 少なくとも完全支配関係にある会社について、連結ベースの評価と同等になるような対応が必要ではないか |
| 組織再編の直後 | 株式移転などで受け入れた時点の含み益は、法人税額等相当額の控除の対象外(186-2) | 組織再編成直後の会社を、超過収益力を適正に求められない会社として、純資産価額方式で評価する特定の評価会社とする方向 |
| 資産管理会社 | 株式等保有特定会社(株式等50%以上)・土地保有特定会社を相続税評価額で判定 | 「資産の保有・管理を主たる目的とする会社」を資産管理会社とし、事業承継税制の基準(特定資産70%以上・特定収入75%以上)を参考に、帳簿価額で判定する形式基準を検討 |
| 開業間もない会社 | 開業後3年未満は純資産価額方式 | 開業後5年未満の会社を純資産価額方式とする案 |
また、残余利益方式の「年利益金額」は、過去5年の平均利益をもとに、子会社からの配当を除いて計算する算式が示されています。子会社の価値は、配当ではなく子会社株式の評価額として別に足し込む形です。
HDの評価にどう効きうるか
骨子が示す方向がそのまま採用された場合を仮定すると、HDには次のような影響が考えられます。
- 子会社の収益力がHDの評価に表れやすくなる:連結ベースで評価する方向なので、子会社が大会社で、類似業種比準価額の低さがHDの評価を抑えていたケースは、評価が上がる可能性がある
- 再編の直後に承継する手法は効きにくくなる:組織再編成直後の会社が純資産価額方式とされれば、再編で評価を下げてすぐに承継する、という流れは封じられる方向
- 不動産や現預金を持つHDの判定が変わる:資産管理会社の判定が帳簿価額の形式基準になれば、相続税評価額で判定する現行の株式等保有特定会社・土地保有特定会社と、結論が変わる会社が出る
- 20%評価減の見直し:議決権割合50%以下の同族株主グループが純資産価額方式で評価するときの20%評価減は、廃止せざるを得ないのではないかとの考え方が示されている
一方で、現行のHDの評価の中心である、HD化の後の値上がり分に対する38%の法人税額等相当額の控除(HD化で株価が下がる仕組み)が、新しい体系でどう扱われるかは、骨子からは確定できません。純資産価額方式の算式にも見直しが検討されており、結論を待つ必要があります。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る政治の議論の状況
骨子のあとの動きは、次のとおりです(詳細は各記事)。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年9月16日 | 有識者会議の第6回で、残余利益方式の試算を提示。大会社の多くで評価額が上がる試算。日本商工会議所の委員・経済産業省などが意見書を提出 |
| 10月7日 | 首相が衆議院本会議で「ゼロベースで検討する」と答弁(日本経済新聞) |
| 10月22日 | 自民党の会合で異論が相次ぎ、「いったん凍結すべき」との意見も(自民党から異論、「凍結」論も) |
| 10月29日 | 自民党の日本成長戦略本部が、国税庁案を「容認できない」とし、白地から議論すべきとする緊急決議(自民党が「白地から議論を」と緊急決議) |
| 11月以降 | 与党税制調査会で議論。年末の2027年度税制改正大綱が焦点 |
国税庁案がそのまま実現するかは不透明になっています。ただ、会計検査院が現行の評価方式の間のかい離を指摘したことが見直しの出発点であり、何らかの見直しが議論されること自体は続くとみておくのが現実的です。
HDを検討中のオーナーが今できること
- 評価以外の目的でHD化を判断する:グループの経営管理、承継の単位の整理、事業ごとのリスクの切り分けなど。評価の見直しを理由に急ぐと、組織再編成直後の会社の扱いによっては効果が出ないおそれがある
- 現行ルールと案の両方で試算する:HDの株価、事業会社の株価を、現行ルールと残余利益方式の案(還元率などの前提は仮置き)で並べる
- 事業承継税制の期限を確認する:特例措置は、特例承継計画の提出が2027年9月30日まで、贈与・相続が2027年12月31日まで(HDと事業承継税制)
- 総則6項のリスクを忘れない:見直しの前に評価を下げるだけの取引を急ぐと、総則6項の対象になりうる(HD化による株価対策と総則6項)
銀行との関係でも、評価の見直しは他人事ではありません。承継のときに後継者が株式を買い取る、納税資金を借りるといった場面では、株価の水準が借入の規模を決めます。評価が上がる方向の見直しになれば、承継に必要な資金が増え、HDと子会社の連結の返済能力(著書のモデルでは債務償還年数10年以内が健全)がより問われます。どの結論になっても、純資産と収益力を保ち、融資を受け続けられる財務にしておくことが、一番の備えです。HDの評価の現行の仕組みはHD化すると自社株の評価はどう変わる?をご覧ください。
まとめ
- 国税庁の骨子は、残余利益方式への一本化を軸に、完全子会社の連結ベース評価、組織再編成直後の会社の純資産価額方式、資産管理会社の形式基準など、HDに関わる論点を含む
- 現行のHDの評価(値上がり分への38%控除など)がどう扱われるかは未確定
- 自民党は白地から議論すべきと決議。結論は年末の2027年度税制改正大綱が焦点
- 見直しを理由に急がず、評価以外の目的でHD化を判断し、現行ルールと案の両方で試算しておく
クレフティでは、現行ルールと見直し案の両方でのHD・事業会社の株価の試算、承継の方法と時期の比較、金融機関への説明まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
