「HDを作ったら、事業承継税制は使えなくなるのでは」というご質問をよくいただきます。事業承継税制(非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予)には、資産管理会社を対象から外す要件があり、子会社株式を持つだけのHDは、これに当たるように見えるからです。
結論から言えば、HD株式でも、要件を満たせば納税猶予を使えます。ただし、HDならではの確認点がいくつかあります。この記事では、国税庁・中小企業庁の資料と、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則(円滑化省令)の定めに沿って整理します。
- 特例措置は、特例承継計画の提出が2027年9月30日まで、贈与・相続が2027年12月31日まで(国税庁タックスアンサーNo.4439)
- 資産保有型会社(特定資産70%以上)の判定で、事業を営む特別子会社の株式は特定資産から除かれる(円滑化省令1条)。子会社が事業会社なら、HDでも資産保有型会社になりにくい
- 子会社が資産保有型子会社・資産運用型子会社に当たると、その株式は特定資産に入る。不動産賃貸だけの子会社に注意
- 会社の要件として常時使用従業員1人以上。従業員のいない純粋持株会社は使えない
- 事業実態要件(親族外従業員5人以上、事務所、3年以上の事業)で資産管理会社に当たらないとみなされる道もあるが、作ったばかりのHDは満たしにくい
事業承継税制の期限と基本
法人版事業承継税制には特例措置と一般措置があり、特例措置は平成30年1月1日から令和9年(2027年)12月31日までの贈与・相続等が対象です。特例措置を使うには、令和9年(2027年)9月30日までに特例承継計画を都道府県知事に提出する必要があります(国税庁タックスアンサー「No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等」)。
特例措置では、後継者が取得したすべての株式について、贈与税・相続税の全額の納税が猶予されます。会社・後継者・先代経営者の要件の全体は事業承継税制(特例措置)の要件、期限と今やるべきことは事業承継税制の特例の期限(2027年)で解説しています。
HDで問題になる「資産管理会社」の要件
事業承継税制では、次の会社は原則として対象外です。
| 区分 | 判定の基準 |
|---|---|
| 資産保有型会社 | 総資産(帳簿価額)のうち、特定資産(有価証券、自ら使っていない不動産、現預金など)の割合が70%以上 |
| 資産運用型会社 | 総収入金額のうち、特定資産の運用収入の割合が75%以上 |
HDの資産は子会社株式が中心なので、「有価証券」が70%を超えるように見えます。ここで大事なのが、円滑化省令1条の特定資産の定義です。特定資産となる有価証券からは、会社の特別子会社の株式(その特別子会社が資産保有型子会社・資産運用型子会社に当たらないものに限る)が除かれています(e-Gov法令検索「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則」)。
つまり、子会社が実際に事業を営んでいれば、HDが子会社株式ばかりを持っていても、それだけで資産保有型会社になるわけではありません。逆に、グループに不動産賃貸だけの子会社や、現預金・有価証券を多く持つ子会社があると、その株式はHDの特定資産に数えられます。HDが自ら持つ現預金や、自ら使っていない不動産(第三者や親族に貸している不動産など)も特定資産です。
「従業員1人以上」の要件
もう一つ、HDで見落としやすいのが、会社の要件としての常時使用する従業員の数です。円滑化省令は、認定を受ける会社に常時使用する従業員が1人以上いることを求めています(特別子会社が外国会社に当たる場合などは5人以上)。
株式移転で作ったHDは、役員だけで従業員がいないことがよくあります。このままでは要件を満たしません。HDで納税猶予を使うなら、グループの経理・人事などの管理部門の従業員をHDで雇用するなど、実態のある形にしておく必要があります。HDに管理部門を集めることは、グループの経営管理を強くする面でも意味があります(HDで経営管理を強くする)。
事業実態要件という「例外」
資産保有型会社・資産運用型会社に当たっても、次の要件をすべて満たせば、資産管理会社に当たらないものとみなされます(円滑化省令6条2項)。
- 後継者とその生計を一にする親族を除いた常時使用従業員が5人以上
- その従業員が勤務する事務所・店舗・工場などを所有または賃借している
- 贈与・相続の日まで引き続き3年以上、商品の販売、資産の貸付け(後継者や同族関係者への貸付けを除く)、役務の提供などの業務をしている
作ったばかりのHDは、3年以上の業務の要件を満たせません。事業実態要件に頼らなくても、特定資産の割合が70%未満、運用収入の割合が75%未満に収まるよう、HDの資産と収入の中身を確認しておくのが基本です。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見るHD化と事業承継税制、どちらを先にするか
| 選択肢 | 考え方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 事業会社の株式で先に納税猶予を使う | HD化を待たずに期限内に承継できる | 猶予の継続中に組織再編をすると、猶予の取消しや手続きが問題になる。HD化の計画は事前に確認が必要 |
| HD化してからHD株式で使う | グループ全体をHD株式で一度に承継できる | HDの従業員要件・特定資産の割合を整える必要。期限までの日程に余裕が必要 |
| 事業承継税制を使わない | HD化の後の値上がり分の38%控除などを活かし、贈与・譲渡で承継 | 承継のときに税負担が発生する |
納税猶予を受けている間は、株式を持ち続けることや、会社が資産管理会社に当たらないことなどの要件を守る必要があり、要件を外れると猶予が取り消されます。HD化を含む組織再編は、猶予の継続との関係を事前に確認してから行うべきです。
また、事業承継税制の特例措置は、2027年末の期限後のあり方が議論されています。政府税制調査会では「資産管理会社の要件が緩い」などの意見も出たと報じられています(事業承継税制に政府税調で厳しい意見)。非上場株式の評価の見直しの議論とあわせて、年末の税制改正の行方を見ておく必要があります(非上場株式の評価見直しの議論とHD)。
銀行から見た事業承継税制
納税猶予を使うと、後継者は贈与税・相続税を当面は納めずに済み、承継の時点で多額の借入をしなくてよくなります。銀行から見れば、承継のための借入が膨らまず、HDと子会社の連結の財務が保たれるのは好材料です。
一方で、猶予は免除ではありません。要件を外れれば、猶予された税額と利子税を納めることになります。著書のモデルでは、債務償還年数((借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等))10年以内が健全の目安ですが、猶予の取消しで後継者に大きな納税が生じれば、資金の手当てのために借入が必要になることもあります。猶予の継続の要件を守れる経営の計画になっているかを、承継の前に確認しておきたいところです。HD株式の評価はHD化すると自社株の評価はどう変わる?をご覧ください。
なお、クレフティは認定経営革新等支援機関ではないため、特例承継計画の作成支援(認定支援機関の所見の記載)は行っていません。計画の作成は認定支援機関と進めていただき、クレフティでは株価の試算や承継の方法の比較、税務申告の面からご相談をお受けしています。
まとめ
- 特例措置は、特例承継計画の提出が2027年9月30日まで、贈与・相続が2027年12月31日まで
- HDでも、事業を営む特別子会社の株式は特定資産から除かれる。資産保有型子会社・資産運用型子会社がグループにあると注意
- 常時使用従業員1人以上が必要。従業員のいない純粋持株会社は使えない
- 事業実態要件は3年以上の業務が必要で、作ったばかりのHDでは満たしにくい。HD化と納税猶予のどちらを先にするかは、期限と要件で判断する
クレフティでは、HDの株価の試算、事業承継税制を使う場合と使わない場合の比較、HD化の手順の整理まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
