ホールディングス(HD)化の効果は、税金や承継だけではありません。会社ごとに決算書ができ、事業ごとの数字が見えるようになることは、経営管理の面で大きな意味を持ちます。「どの事業が稼いでいて、どの事業が足を引っ張っているのか」が、感覚ではなく数字でわかるようになるからです。
ただし、会社を分けただけでは管理は強くなりません。この記事では、HDと子会社の役割分担、管理部門の集約、会社ごとに見る経営指標、会議と決裁の仕組み、不正を防ぐ仕組みを整理し、銀行への数字の見せ方もまとめます。
- HDは方針・資金・人事・管理、子会社は事業の執行。役割を分けてはじめて管理が強くなる
- 経理・人事・総務・システムはHDに集約し、子会社から対価を受け取る形が一般的
- 会社ごとに同じ経営指標を毎月見る。グループ全体では債務償還年数と自己資本比率を管理する
- グループ経営会議と決裁権限の規程で、誰が何を決めるかを明確にする
- 会社が増えると監視の目が届きにくくなる。資金の管理と相互の確認で不正を防ぐ
HDと子会社の役割分担
| 担うこと | HD | 子会社 |
|---|---|---|
| グループの方針・中期計画 | 決める | 事業の計画に落とし込む |
| 資金の配分 | 配当で集め、出資・貸付で配る | 事業で稼ぎ、配当を出す |
| 役員の人事 | 子会社の社長・役員を選ぶ | 社内の人事を行う |
| 経理・人事・総務 | 集約して担う | 現場の入力・申請 |
| 事業の執行 | 原則として関与しない | 責任を持って行う |
オーナーが事業会社の代表を後任に譲り、HDの社長としてグループ全体を見る形も、この役割分担に沿ったものです(オーナーは事業会社の社長を退きHDの社長へ)。後継者には、まず子会社の社長として事業の執行を任せ、経営の経験を積んでもらう使い方もできます(後継者のポジションづくり)。
管理部門の集約
HD化で会社の数が増えると、会社ごとに経理・総務・人事の仕事が生じます。これを各社で別々に抱えると、人件費とシステムの費用がかさみ、会計の処理や規程も会社ごとにばらばらになりがちです。
管理部門をHDに集めると、次のような効果があります。
- 会計の処理・勘定科目・決算期をグループでそろえられる
- 就業規則・給与・評価の制度をグループで統一できる
- 資金の管理(口座・支払・借入)をHDで一元的に見られる
- 子会社は事業に集中でき、管理の担当者を置かずにすむ
HDが子会社に管理業務を提供する対価として、経営指導料や業務委託料を受け取るのが一般的です。対価は、業務の内容とかかった費用に基づいて決め、契約と業務の記録を残しておきます。根拠のない金額は寄附金とされるおそれがあるため、決め方はHDが子会社から受け取る経営指導料で確認してください。社員の籍をHDに移す場合の出向・転籍の扱いはHD化を従業員にどう説明するかで取り上げています。
会社ごとに見る経営指標
会社ごとに決算書ができたら、同じ指標を同じ形で毎月見ることが大切です。事業の性質が違っても、共通の物差しで比べると、問題の早期発見につながります。
| 指標 | 計算 | 見る目的 |
|---|---|---|
| 売上総利益率 | 売上総利益÷売上高 | 値付けと原価の管理 |
| 営業利益 | 売上総利益−販売費及び一般管理費 | 本業で稼げているか |
| 人件費率 | 人件費÷売上高 | 人員の配置と生産性 |
| 現預金の月商倍率 | 現預金÷月商 | 資金繰りの余裕 |
| 自己資本比率 | 純資産÷総資産 | 財務の安全性 |
| 債務償還年数 | (借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等) | 借入を何年で返せるか |
最後の債務償還年数は、代表の相亰の著書のモデルで、10年以内を健全、20年超は厳しいとしている指標です。会社ごとに計算するとともに、グループ全体を合算した数字でも管理します。不動産の会社は借入が大きく年数が長くなりやすいため、物件の賃料収入で返済できているかを別に確認します。
会議と決裁の仕組み
会社が増えると、「誰が何を決めるのか」が曖昧になりがちです。会議体と決裁権限を決めておきます。
| 仕組み | 内容 |
|---|---|
| HDの取締役会 | グループの方針、子会社の役員人事、大きな投資・借入、M&A |
| グループ経営会議(月1回) | 各社の社長が月次の数字と課題を報告し、HDが方針を伝える |
| 子会社の取締役会 | 事業の計画と執行、社内の人事 |
| 決裁権限の規程 | 金額や内容ごとに、子会社の社長・HD・HDの取締役会のどこで決めるかを定める |
決裁権限の規程では、たとえば「1件○○万円以上の設備投資」「借入・保証」「重要な取引先との契約」「役員の報酬」などを、HDの承認事項にしておきます。オーナーが何でも口頭で決める状態のままHD化すると、子会社の社長は判断できず、後継者も育ちません。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る不正を防ぐ仕組み
会社が増えると、本部の目が届きにくくなり、社員の不正のリスクが高まります。また、子会社の業績を数字で厳しく問うほど、目標に届かない子会社が売上を前倒しで計上したり、経費を先送りしたりする誘惑も生まれます。
| リスク | 防ぐ仕組み |
|---|---|
| 現預金の着服 | 口座と支払の権限をHDで管理し、入力者と承認者を分ける |
| 売上・経費の操作 | 月次の数字を前年・予算と比べ、急な変化の理由を確認する |
| 架空の取引 | 新しい取引先の登録をHDで承認する |
| 業績の無理な追及 | 目標と評価を、数字だけでなく取組みの内容でも見る |
外部の監査を受けない中小企業では、顧問の税理士による月次の確認や、HDの管理部門による各社の帳簿の確認が、実質的な監視の役割を果たします。
銀行への数字の見せ方
HD体制では、銀行はグループ全体で返済力を見ます。会社ごとの試算表をばらばらに出すより、次のようにそろえて出すほうが伝わります。
- 会社ごとの試算表(決算期・勘定科目をそろえる)
- グループ全体を合算した損益と貸借対照表(グループ内の配当・経営指導料・貸付金は相殺)
- 会社ごとの借入の一覧(金融機関・残高・返済額・保証)
- グループ全体の債務償還年数と自己資本比率
グループ内の取引を相殺せずに合算すると、配当や経営指導料が二重に計上され、利益が実際より大きく見えてしまいます。銀行は自分で相殺して見直すため、最初から相殺した数字を出すほうが信頼されます。試算表の出し方は銀行に出す試算表、格付けの上げ方は銀行の格付けを上げる方法も参考にしてください。
まとめ
- HDは方針・資金・人事・管理、子会社は事業の執行。役割を分けて管理を強くする
- 管理部門はHDに集約し、対価は業務の内容と費用に基づいて決める
- 会社ごとに同じ経営指標を毎月見る。グループ全体では債務償還年数と自己資本比率を管理する
- グループ経営会議と決裁権限の規程で、決める場所を明確にする
- 会社が増えると不正のリスクが上がる。資金の管理と相互の確認を仕組みにする
- 銀行には、グループ内の取引を相殺した合算の数字を出す
HD化を経営管理の強化につなげるには、資本関係を作った後の運用の設計が欠かせません。クレフティの事業承継・M&A支援では、HD体制の設計から、グループの数字の見せ方、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
