ホールディングス(HD)化のメリットの一つが、グループの資金を1か所に集めて、必要なところに配分できることです。本業の会社が稼いだ資金をHDに集め、新規事業の子会社やM&Aに回す。上場企業のグループでは当たり前の仕組みですが、中小企業でも使えます。
ただし、資金の動かし方によって税務の扱いが変わり、銀行の見方も変わります。この記事では、配当・貸付・出資・寄附・経営指導料の5つの方法を比較し、注意点をまとめます。
- HDに資金を集める基本は配当。100%子会社からの配当は全額益金不算入(法人税法23条)
- HDから子会社へ回す方法は、貸付・出資・寄附。返済の前提、期間、資本金への影響で選ぶ
- 法人による完全支配関係がある会社間の寄附は、全額損金不算入・全額益金不算入(法人税法37条2項・25条の2)。個人が直接持つ兄弟会社の間は対象外
- グループ内でも、無利息・低利の貸付や根拠のない経営指導料は寄附金の問題になりうる
- 銀行は、融資の資金使途と、関係会社貸付金の回収可能性を見る
グループの資金の流れ
本業の会社に資金を貯めたまま新規事業を社内で始めると、失敗したときに本業の財務が直接傷みます。HDに資金を集めてから別の子会社に配分すれば、どの事業にいくら投じたかが明確になり、事業ごとの採算も見えやすくなります。
5つの方法の比較
| 方法 | 向き | HD側の税務 | 子会社側の税務 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 配当 | 子会社→HD | 全額益金不算入(完全子法人株式等) | 損金不算入 | 分配可能額の範囲内(会社法461条) |
| 経営指導料 | 子会社→HD | 益金 | 損金(対価として相当なら) | 役務の実態と金額の根拠、消費税 |
| 貸付 | HD→子会社 | 受取利息は益金 | 支払利息は損金 | 金利・返済条件、無利息なら寄附金の問題 |
| 出資 | HD→子会社 | 子会社株式の取得 | 資本金等の額が増える | 登録免許税・均等割、回収は配当か売却 |
| 寄附 | どちらへも | 出した側は全額損金不算入 | 受けた側は全額益金不算入 | 法人による完全支配関係が必要、株式の簿価の修正 |
配当:HDに資金を集める基本
子会社からHDへの資金の移動は、配当が基本です。完全支配関係が配当の計算期間を通じてあれば全額が益金不算入になり、令和5年10月1日以後は源泉徴収も不要です。要件の詳細はHDが子会社から受ける配当は非課税?で解説しています。
子会社の側では、配当は分配可能額の範囲内でしか出せず(会社法461条)、配当のたびに一定額を準備金に積み立てます(445条4項)。
経営指導料:役務の対価として受け取る
HDが経営管理や経理・人事などの役務を提供しているなら、その対価として経営指導料を受け取れます。配当と違って子会社では損金になりますが、HDでは益金になり、消費税の課税対象にもなります。実態のない指導料は寄附金とされるため、決め方はHDが子会社から受け取る経営指導料で詳しく取り上げています。
貸付:返してもらう前提の資金
新規事業の立ち上げ資金や、子会社の一時的な資金繰りには、貸付がよく使われます。金銭消費貸借契約を結び、金利と返済条件を決めます。
100%グループ内でも、無利息や著しく低い金利の貸付は、経済的な利益の供与として寄附金の問題になりえます。法人による完全支配関係がある会社の間なら、寄附金は全額損金不算入、受けた側の受贈益は全額益金不算入になるため、所得への影響は相殺されることが多いのですが、申告での調整が必要になります。金利は、HDの借入金利などを参考に、根拠を説明できる水準で決めておくのが実務的です。
出資:長く使う事業資金
子会社を新しく作るときや、子会社の財務を厚くしたいときは出資(増資)を使います。返済の必要がない代わりに、資金の回収は配当か株式の売却になります。
増資をすると、子会社の資本金等の額が増え、登録免許税(増加した資本金の0.7%、最低3万円)がかかり、均等割の区分が上がることがあります。資本金が1億円を超えると、中小法人向けの軽減税率などが使えなくなる点にも注意します。
寄附:グループ内で資金を移す
法人による完全支配関係がある内国法人の間の寄附は、出した側で全額損金不算入、受けた側で全額益金不算入です(法人税法37条2項・25条の2、国税庁タックスアンサーNo.5281)。寄附をした会社・受けた会社の株主(HD)では、子会社株式の帳簿価額と利益積立金額を修正する手続き(寄附修正)が必要です。
個人が直接100%を持つ兄弟会社の間の寄附は、この扱いの対象外です。寄附をした会社では寄附金の損金算入限度額を超える部分が損金不算入になり、受けた会社では受贈益が課税されます。HDの下に会社をまとめる意味の一つがここにあります。グループ法人税制の全体像はグループ法人税制とはで解説しています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る新規事業・M&Aへの配分の考え方
HDに集めた資金をどこに配分するかは、税務よりも経営の判断です。次のような基準を決めておくと、オーナーの判断が属人的にならずにすみます。
| 決めておくこと | 例 |
|---|---|
| 本業の会社に残す資金 | 月商の2〜3か月分の現預金と、借入の返済に必要な額 |
| HDに集める資金 | 本業の会社の税引後利益のうち、配当に回す割合 |
| 新規事業への上限 | 1事業あたりの出資・貸付の上限と、撤退の基準 |
| M&Aの資金 | HDの手元資金と借入の組み合わせ |
M&Aで会社を買う場合は、HDが買収の受け皿になり、買収した会社を兄弟会社として迎えます。買収資金の考え方はHDがあるとM&Aで会社を買いやすいで取り上げています。
銀行からの見え方
資金使途に注意する
銀行の融資は、資金使途を決めて実行されます。本業の会社が運転資金として借りたお金を、HDを通じて新規事業の会社に回すと、資金使途に反する転貸とされ、契約違反になるおそれがあります。グループ内で資金を回す前提なら、どの会社で借りるかを借入の段階で銀行と相談します。
関係会社貸付金は厳しく見られる
銀行が決算書を分析するとき、関係会社への貸付金は、回収の見込みが低ければ資産から差し引いて実態の純資産を計算することがあります。新規事業の会社が赤字を続けていると、HDの貸付金は実質的に価値がないと見られかねません。代表の相亰の著書のモデルでも、純資産の厚さは格付けの重要な要素です。
グループ全体では、銀行は連結に近い形で借入と利益を合算して見ます。著書のモデルでは、債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))が10年以内なら健全としています。資金の配分を決めるときは、グループ全体のこの数字が悪化しないかもあわせて確認します。グループでの見られ方はグループ会社は銀行にどう見られるかも参考になります。
まとめ
- HDに資金を集める基本は配当。100%子会社からの配当は全額益金不算入
- HDから子会社へは貸付・出資・寄附。返済の前提と資本金への影響で選ぶ
- 法人による完全支配関係がある会社間の寄附は、全額損金不算入・全額益金不算入。個人が直接持つ兄弟会社は対象外
- 無利息の貸付や根拠のない経営指導料は、グループ内でも寄附金の問題になりうる
- 銀行は資金使途と関係会社貸付金を見る。借入の段階で資金の流れを説明する
資金の配分の仕組みは、HD化の効果を引き出すための土台です。クレフティの事業承継・M&A支援では、グループの資金計画の設計から、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
