ホールディングス(HD)化は、承継や資金の流れの設計に役立つ一方で、会社が1つ増えることによるコストと手間、そして税務上の思わぬ落とし穴があります。メリットだけを聞いて進めると、「こんなはずではなかった」ということになりかねません。
この記事では、HD化のデメリットを5つに分けて整理し、それぞれの対策をまとめます。メリットはHD化のメリット10選で整理しています。
- コスト:設立の登録免許税・専門家報酬に加え、均等割・会計・申告の費用が毎年かかる
- 手間:会社ごとの決算・株主総会・グループ内の契約。管理部門の負担が増える
- 株価評価:HDは開業後3年未満や株式等保有特定会社として純資産価額で評価されやすく、HD化直後に評価が上がることもある
- 税務リスク:非適格の課税、グループ内取引の寄附金認定、行為計算否認(法人税法132条の2)や総則6項
- 銀行・取引先:経営者保証は自動では外れない。契約・許認可・銀行への説明が必要
デメリットの全体像
| 区分 | 主なデメリット | 対策 |
|---|---|---|
| コスト | 設立費用、均等割、会計・申告の費用 | 会社の数と資本金等の額を最小限に設計する |
| 手間 | 会社ごとの決算・総会・グループ内契約 | 決算期をそろえ、管理部門をHDに集める |
| 株価評価 | 開業後3年未満・株式等保有特定会社の評価 | HD化前後の株価を試算し、資産構成を設計する |
| 税務リスク | 非適格、寄附金認定、行為計算否認、総則6項 | 適格要件の確認、取引の根拠資料、目的の記録 |
| 銀行・取引先 | 保証は外れない、契約・許認可の手続き | 計画段階で銀行・主要取引先に説明する |
コストのデメリット
設立のコスト
株式移転でHDを新設すると、設立の登記に登録免許税がかかり、株価の算定や書類の作成で税理士・司法書士などの報酬が生じます。会社分割で不動産を移す場合は、不動産の登記の登録免許税や、要件によっては不動産取得税もかかります。
毎年のコスト
HDは毎年、法人住民税の均等割、決算と申告の費用、登記(役員の任期ごとの変更登記など)の費用がかかります。均等割は資本金等の額と従業者数で決まり、たとえば東京23区内だけに事務所があり、資本金等の額が1,000万円以下・従業者50人以下なら年7万円です(東京都主税局)。
見落としやすいのが、株式移転でできたHDの資本金等の額です。株主が50人未満の会社の適格株式移転では、HDが受け入れる子会社株式の取得価額は、株主が持っていた株式の取得価額の合計になります(法人税法施行令119条1項12号)。過去に高い価格で株式を買い集めていると、HDの資本金等の額が大きくなり、均等割の区分が上がることがあります。維持コストの詳細はHDの維持コストをご覧ください。
手間のデメリット
会社が増えると、会社ごとに決算、株主総会、議事録、税務申告が必要になります。HDと子会社の間では、経営指導料、不動産の賃貸、出向者の給与負担など、グループ内の取引ごとに契約と根拠資料を整える必要があります。
会社の数が増えるほど、経理・総務の仕事は増えます。管理部門をどこに置くか、各社の経理をどう回すかを決めずにHD化すると、思わぬ人件費やシステム費用が生じます。従業員が「子会社に移された」と感じるなど、人の面での配慮も必要です(HD化を従業員にどう説明するか)。
株価評価のデメリット
HD化は株価対策になると言われますが、HD化の直後はむしろ評価が上がることがあります。
| 論点 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 開業後3年未満 | 類似業種比準価額が使えず、純資産価額で評価 | 財産評価基本通達189 |
| 株式等保有特定会社 | 総資産に占める株式等の割合が50%以上なら、原則として純資産価額で評価 | 財産評価基本通達189 |
| 子会社株式の評価 | HDの純資産価額の計算で子会社株式を評価するとき、子会社の含み益に対する法人税等相当額は控除しない | 財産評価基本通達186-3 |
| 受け入れた株式の含み益 | 株式移転などで著しく低い価額で受け入れた株式の含み益は、法人税等相当額の控除が制限される | 財産評価基本通達186-2 |
子会社が古くから土地を持っていて含み益が大きい場合、HDの株式の評価では子会社株式が含み益込みで評価されるため、直接持っていたときより評価が高くなることがあります。株式等保有特定会社の判定は株式保有特定会社に注意で詳しく解説しています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る税務リスクのデメリット
非適格になると課税が生じる
株式移転・株式交換・会社分割などが税法上の適格要件を満たさないと、株主の譲渡益や会社の資産の含み益に課税されることがあります。株式以外の対価(金銭など)を交付しないこと、支配関係を継続する見込みがあることなど、要件は再編の種類ごとに決まっています。
グループ内取引の寄附金認定
HDが子会社から受け取る経営指導料や家賃が、役務や資産の実態に見合っていないと、差額が寄附金とされることがあります。100%グループ内なら、法人による完全支配関係がある会社間の寄附金は全額損金不算入、受けた側は全額益金不算入になりますが(法人税法37条2項・25条の2)、どちらにしても根拠のない金額は税務調査で問題になります。経営指導料の決め方はHDが子会社から受け取る経営指導料で取り上げています。
行為計算否認と総則6項
組織再編が形式上の要件を満たしていても、法人税の負担を不当に減らすものと認められれば、組織再編に係る行為計算否認(法人税法132条の2)の対象になりえます。相続税・贈与税にも同族会社等の行為計算否認(相続税法64条)があり、株式の評価には財産評価基本通達の総則6項があります。最高裁令和4年4月19日判決は、借入で賃貸不動産を購入した相続について、通達評価を上回る価額での課税を適法としました。
「株価を下げるためだけのHD化」は、もっとも危険な進め方です。承継・経営管理・財務の強化といった目的と、その検討の経緯を記録に残しておきます。詳しくはHD化による株価対策と総則6項、組織再編の行為計算否認をご覧ください。
初年度の配当の扱い
HD化した事業年度に子会社から配当を受けるときは、受取配当等の益金不算入で完全子法人株式等に当たるかを確認します。オーナーが株式移転の前から子会社を100%支配しているなど、一定の場合は計算期間の途中でHDができても完全子法人株式等として扱われます(法人税法施行令22条の2第1項)。外部の株主から株式を買い集めた直後などは扱いが変わることがあるため、配当の時期は事前に確認します(HDが子会社から受ける配当は非課税?)。
銀行・取引先のデメリット
HD化をしても、事業会社の借入に付いているオーナーの経営者保証は外れません。HDが株式の買取資金などを借りれば、HDの借入に保証や、事業会社の保証を求められることもあります。グループの資産と借入がつながるため、銀行はグループ全体で返済力を見ます。
代表の相亰の著書のモデルでは、債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))が10年以内なら健全、20年超は厳しいとしています。HDの借入を加えたグループ全体でこの数字がどう変わるかを、銀行に説明できるようにしておきます。
また、取引先との契約にはチェンジ・オブ・コントロール条項があることがあり、会社分割を使う場合は許認可の取り直しが必要になることもあります(HD化と取引先との契約)。
まとめ
- HD化は会社が1つ増える。均等割・会計・申告の費用が毎年かかる
- 株式移転のHDは、株主の取得価額によって資本金等の額が大きくなり、均等割が上がることがある
- HD化の直後は、開業後3年未満・株式等保有特定会社・子会社の含み益の扱いで、評価が上がることがある
- 非適格・寄附金認定・行為計算否認・総則6項のリスクを、目的と根拠資料で備える
- 経営者保証は自動では外れない。銀行・取引先には計画段階で説明する
デメリットを知ったうえで、目的に合う形を選べば、HD化は承継と財務を強くする手段になります。クレフティの事業承継・M&A支援では、HD化の前後の株価の試算、適格要件の確認、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
