ホールディングス(HD)化を検討するときに、意外と後回しにされがちなのが取引先との契約です。「会社はそのまま残るのだから、契約には関係ない」と考えがちですが、契約書の中には、株主が変わったときに相手方が契約を解除できるチェンジ・オブ・コントロール条項(CoC条項)が入っていることがあります。
この記事では、HD化の方法ごとに契約がどう扱われるか、確認すべき契約と条項の種類、相手方への説明の進め方、銀行への伝え方を整理します。
- 株式移転・株式交換・株式譲渡でHD化しても、事業会社の契約の当事者は変わらない。問題になるのは株主の変更をきっかけにする条項(CoC条項)
- 会社分割・事業譲渡は契約の当事者そのものが変わる。とくに事業譲渡は、契約ごとに相手方の同意が必要
- 確認の順番は、契約の洗い出し → 条項の分類(通知・承諾・解除・期限の利益喪失)→ 相手方への説明 → 覚書・承諾書
- 借入の契約は、株主の変更や組織再編を銀行への報告事項にしていることが多い。HD化の計画段階で銀行に相談する
HD化の方法で、契約の扱いは大きく変わる
HDを作る方法は、大きく分けて「株式を動かす方法」と「事業を動かす方法」があります。契約への影響がまったく違うので、最初に整理しておきます。HDの作り方全体はHDの作り方の全体像で比較しています。
| HD化の方法 | 契約の当事者 | 主に確認すること |
|---|---|---|
| 株式移転 | 事業会社のまま | 株主の変更に関する条項(CoC条項) |
| 株式交換 | 事業会社のまま | 同上 |
| 株式譲渡(HDが株式を買う) | 事業会社のまま | 同上。株主が後継者側の会社に替わる |
| 会社分割(分社型・分割型) | 承継会社に包括的に移る | 譲渡禁止・承諾・解除の条項、賃貸借の承諾 |
| 事業譲渡 | 契約ごとに移す | 相手方の同意(民法539条の2)、契約の結び直し |
株式を動かす方法:契約は事業会社に残る
株式移転(会社法772条)や株式交換(767条)、HDによる株式の買取りでは、事業会社という法人はそのまま残ります。取引先と契約しているのは事業会社なので、契約の当事者は変わりません。
ただし、事業会社の株主は「オーナー個人」から「HD」に替わります。契約に株主の変更をきっかけにした条項があれば、ここで反応します。
事業を動かす方法:契約の当事者が替わる
会社分割では、分割契約(または分割計画)に定めた権利義務が、承継会社に包括的に移ります(会社法759条・764条)。とはいえ、取引先との契約に「契約上の地位の譲渡を禁止する」「会社分割をしたら解除できる」といった条項があれば、相手方の承諾をもらっておかないと後で争いになります。
事業譲渡は包括承継ではないため、契約ごとに相手方の同意を得て地位を移すのが原則です(民法539条の2)。取引先が多い会社ほど手間がかかります。事業を動かす方法は許認可にも影響するため、HD化と許認可もあわせて確認してください。
チェンジ・オブ・コントロール条項の4つの型
CoC条項といっても、書き方はさまざまです。効果の強さで分けると、おおむね次の4つになります。
| 型 | 典型的な書き方 | 影響 |
|---|---|---|
| 通知型 | 株主構成に重要な変更があったときは、遅滞なく通知する | 通知すれば足りる。怠ると契約違反 |
| 承諾型 | 支配権の変更には、事前に書面の承諾を要する | 承諾がなければ契約違反になる |
| 解除型 | 支配権が変わったときは、相手方は契約を解除できる | 相手方が解除するかどうかを選べる |
| 期限の利益喪失型 | 支配権の変更は、期限の利益の喪失事由とする | 借入などで、一括返済を求められるおそれ |
注意したいのは「支配権の変更」の定義です。「議決権の過半数を有する株主が変わったとき」のように直接の株主で定義している契約では、オーナーがHDの株式を100%持ち、実質的な支配者が変わらない場合でも、形式的には該当します。「最終的に支配する者が変わったとき」と定義していれば、該当しないと読める余地があります。
解釈が分かれるときは、自社に都合よく読んで黙って進めないことが大切です。後で相手方から「無断で株主を変えた」と言われると、取引関係そのものが傷みます。CoC条項の一般的な考え方はチェンジオブコントロール条項とはで詳しく解説しています。
確認する契約の一覧
HD化の前に、少なくとも次の契約は条項を確認します。
| 契約 | 見るべきところ |
|---|---|
| 主要な取引先との取引基本契約 | CoC条項、解除事由、反社・信用条項 |
| 代理店・フランチャイズ・ライセンス契約 | 支配権の変更、競業先の資本参加の禁止 |
| 事務所・店舗・倉庫の賃貸借契約 | 賃借権の譲渡・転貸、会社分割時の承諾 |
| 金銭消費貸借契約・銀行取引約定書 | 報告事項、期限の利益喪失事由、財務制限条項 |
| リース契約・割賦契約 | 合併・会社分割・株主変更の届出 |
| 官公庁・大口顧客との契約、入札参加資格 | 組織変更の届出、資格の継続 |
賃貸借については、小規模な会社の株主や経営者が替わっただけでは、賃借権の譲渡には当たらないとした最高裁判決があります(最高裁平成8年10月14日判決)。ただ、契約書で株主の変更を届出事項にしていることもあるため、条項は個別に確認します。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る相手方への説明の進め方
契約の確認から説明までは、次の順番で進めるのが実務的です。チェックリスト全体はHD化の前に確認するチェックリストにまとめています。
- 契約の洗い出し:契約書を集め、取引額の大きい順に並べる
- 条項の分類:通知型・承諾型・解除型・期限の利益喪失型に分ける
- 説明の順番を決める:承諾型・解除型の相手先、取引額の大きい相手先から
- 説明の内容をそろえる:目的(承継の準備・グループの整理)、事業会社は変わらないこと、経営陣・取引条件・窓口が変わらないこと
- 書面に残す:承諾書、または「本件は支配権の変更に当たらない」ことを確認する覚書
説明の時期は、株主総会の決議や登記より前が基本です。相手方の社内決裁に時間がかかることもあるので、効力発生日から逆算して1〜2か月前には着手します。
銀行の契約は、計画段階で相談する
借入の契約は、HD化でもっとも影響が大きい契約です。金銭消費貸借契約や銀行取引約定書では、合併・会社分割・株主の重要な変更などを報告事項や承諾事項にしていることが多く、黙って進めると、契約違反として期限の利益の喪失事由に当たるおそれがあります。
銀行にとってHD化は、借入先の会社の上に新しい会社ができ、グループ全体で見る必要が出てくる出来事です。説明では、HD化の目的、資本関係図、HDが借入をするかどうか、配当でHDに資金を移すかどうかをそろえて伝えます。代表の相亰の著書のモデルでは、銀行は債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))で返済力を見ており、HD化後もグループでこの数字が悪くならないことを示せると、話が進みやすくなります。銀行への説明はHD化を金融機関にどう説明するかで詳しく取り上げています。
クレフティは事務所としてHD化を支援してきた実績があり、資本関係図と資金計画を作って、金融機関への説明の段取りまでご相談をお受けしています。
まとめ
- 株式移転・株式交換・株式譲渡でHD化しても、契約の当事者は事業会社のまま。問題はCoC条項
- 会社分割・事業譲渡は当事者が替わる。とくに事業譲渡は契約ごとの同意が必要
- CoC条項は通知・承諾・解除・期限の利益喪失の4つの型で整理し、承諾型・解除型から先に説明する
- 「支配権の変更」の定義が直接の株主なら、オーナーが実質的な支配者のままでも形式的に該当しうる
- 借入の契約は報告事項になっていることが多い。計画段階で銀行に相談する
契約の確認は、HD化の手続きと同じくらい時間がかかります。クレフティの事業承継・M&A支援では、HD化の方法の選択から契約・許認可の確認、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
