HDを作ると、オーナー一族が持つのはHDの株式になります。つまり、承継の中心はHD株式の引き継ぎであり、そのルールを決めるのがHDの定款です。株式の譲渡制限、相続のときの扱い、議決権の配分など、後から変えるには株主の合意が必要になる事項も多いため、HDを作る段階で考えておきます。
この記事では、HDの定款で決めておきたい事項を、承継の設計から整理します。株式移転でHDを作る場合の手続きは株式移転でHDを作るをご覧ください。
- 譲渡制限は必須。承認機関(株主総会か取締役会か、代表取締役か)も承継に合わせて決める
- 相続人等に対する売渡請求は分散防止に有効だが、オーナーの相続で後継者側が請求される逆転リスクがある
- 種類株式(拒否権付株式、議決権制限株式、配当優先株式)で、財産と議決権を分けて渡せる
- 非公開会社なら属人的株式で、株主ごとに議決権などを変えることもできる
- 株式移転なら、HDの定款は株式移転計画で定める。後から変えるより、作るときに入れる
HDの定款で検討する主な事項
| 事項 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 株式の譲渡制限 | 株式を譲渡するには会社の承認が必要。承認機関を定める | 会社法107条1項1号、139条 |
| 相続人等に対する売渡請求 | 相続などで株式を取得した人に、会社への売渡しを請求できる | 会社法174条〜177条 |
| 種類株式 | 議決権・配当・拒否権などの内容が異なる株式を発行できる | 会社法108条 |
| 属人的株式 | 非公開会社で、株主ごとに議決権・配当などを異なる扱いにできる | 会社法109条2項 |
| 取締役の任期 | 非公開会社は最長10年まで伸ばせる | 会社法332条2項 |
| 機関設計 | 取締役会・監査役を置くか | 会社法326条2項 |
| 株券 | 株券を発行しない旨(現在は不発行が原則) | 会社法214条 |
| 事業年度・目的 | 子会社と決算期を揃えるか。株式の保有・グループの経営管理・不動産賃貸など | — |
譲渡制限と承認機関
非公開会社のHDでは、株式の譲渡に会社の承認を必要とする譲渡制限を定めるのが基本です(会社法107条1項1号)。承認機関は、取締役会設置会社なら取締役会、非設置会社なら株主総会が原則ですが、定款で別の定め(たとえば代表取締役)を置くこともできます(会社法139条1項)。
承継の途中では、HDの株主が「オーナーと後継者」の2人だけ、といった構成になることがよくあります。承認機関を誰にするかで、後継者が親族に株式を移すときに誰の了解が必要かが変わるため、承継の順番を考えて決めます。詳しくは譲渡制限株式の仕組みもご覧ください。
相続人等に対する売渡請求:使い方と落とし穴
相続や合併で株式を取得した人に対して、会社がその株式の売渡しを請求できる旨を定款で定められます(会社法174条)。請求するたびに株主総会の特別決議で決め(会社法175条1項、309条2項3号)、会社が相続などを知った日から1年以内に請求します(会社法176条1項)。価格は協議で決まらなければ、請求から20日以内に裁判所に申し立てます(会社法177条)。会社が買い取る形になるため、分配可能額の範囲内でしか買えません(会社法461条1項5号)。
親族以外に分散した株式が相続で広がるのを防ぐには有効な仕組みですが、次の逆転リスクがあります。
請求の対象になる相続人は、その株主総会で議決権を行使できません(会社法175条2項)。そのため、オーナーが亡くなったとき、残った少数株主だけで決議し、後継者が相続した株式の売渡しを請求する、という事態が理屈の上では起こりえます。対策としては、オーナーの生前にHD株式の承継を進めておく、少数株主の株式を先に買い取る、種類株式や属人的株式で議決権を調整する、などが考えられます。仕組みと事例は相続人等に対する売渡請求で詳しく解説しています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る種類株式:財産と議決権を分けて渡す
HDで種類株式を使うと、財産としての株式と議決権を分けて承継できます(会社法108条)。
| 種類株式 | 使い方の例 |
|---|---|
| 拒否権付株式(黄金株) | オーナーが1株だけ持ち、普通株式の大半を後継者に渡した後も、役員の選任や合併などに拒否権を残す |
| 議決権制限株式 | 会社を継がない子どもに渡し、財産は分けつつ、議決権は後継者に集める |
| 配当優先株式 | 議決権を持たない株主に、配当で報いる |
| 取得条項付株式 | 一定の事由(退職・死亡など)が生じたら、会社が取得できるようにする |
拒否権付株式は、オーナーが判断能力を失ったり亡くなったりしたときに、かえって経営の妨げになることがあります。取得条項を組み合わせる、承継が進んだら普通株式に戻す、といった出口も一緒に決めておきます。設計の詳細はHDで種類株式を使う、事業承継での種類株式の基本は事業承継に使う種類株式をご覧ください。
属人的株式
非公開会社では、株式の種類を分けなくても、株主ごとに議決権や配当の扱いを変える定めを置けます(会社法109条2項)。たとえば「オーナーが株主である間は、オーナーの株式1株につき議決権を10個とする」といった定めです。導入には、総株主の半数以上で、総株主の議決権の4分の3以上の賛成が必要です(会社法309条4項)。登記されないため柔軟ですが、税務上の株式の評価や、相続のときの扱いを事前に確認しておく必要があります。
株式移転で作るときの定款
株式移転では、HDの定款は事業会社が作り(会社法814条2項)、その内容を株式移転計画に定めて株主総会で承認します(会社法773条1項2号)。公証人の認証は不要です。譲渡制限、売渡請求、機関設計、取締役の任期などは、このときに入れておけば手続きを重ねずに済みます。
一方で、種類株式は株主ごとの割当てが絡むため、株式移転の前に事業会社の定款を変えて種類株式を発行しておくか、HD化した後にHDで新たに発行するかを、株価と手続きの両面から検討します。
支援事例と、銀行からの見え方
当事務所の支援事例では、本業と不動産業を営む経営者の方の「不動産業を息子に承継したい。当面は金融機関との折衝に自分も関わるが、経済面の相続は先に終えたい」というご要望に対し、ホールディングス化による組織再編、種類株式の設計と定款の整備、株価の算定、金融機関のご紹介を行い、地方銀行から1.6億円を調達して承継を実現しました。
金融機関は、融資の判断で「誰が会社を支配し、承継後も経営が安定するか」を見ます。定款と種類株式で議決権の行方がはっきりしていることは、後継者への融資を検討するうえでの安心材料になります。
まとめ
- HDの定款は、承継の中心であるHD株式のルールを決めるもの
- 譲渡制限と承認機関は、承継の順番を考えて決める
- 売渡請求は分散防止に有効だが、オーナーの相続での逆転リスクに注意する
- 種類株式・属人的株式で、財産と議決権を分けて渡せる。出口も一緒に決める
- 株式移転なら、定款は株式移転計画で定める
クレフティの事業承継・M&A支援では、定款・種類株式の設計から株価の算定、金融機関のご紹介までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
