「ホールディングス(HD)化にはどんなメリットがあるのか」。中小企業の経営者からよく受ける質問です。税金の話が先に出がちですが、実際には事業承継の選択肢が増えること、資金の流れを設計できること、経営管理が強くなることのほうが大きな意味を持ちます。
この記事では、HD化のメリットを4つの軸で10個に整理し、それぞれの根拠と注意点、銀行からの見え方をまとめます。デメリットはHD化のデメリットと落とし穴で整理しています。
- HD化のメリットは承継・株価・資金・経営管理の4つの軸で考える
- 承継:事業ごとに後継者を決められる、後継者のHDが株式を買い取ってオーナーが現金化できる、オーナーはHDの社長として残れる
- 株価:HD化の後に事業会社に積み上がった利益は、含み益として法人税等相当額を控除できる場合がある(評価通達186-2)
- 資金:100%子会社からの配当は全額益金不算入(法人税法23条)。グループ内で資金を集めて配分できる
- 経営:事業ごとのリスクの分離、M&Aの受け皿、一部の事業の売却、管理部門の集約
- 株価対策だけが目的のHD化は総則6項のリスクがある。承継と財務の強化という目的とセットで考える
メリットは4つの軸で考える
| 軸 | メリット | 根拠・関連する制度 |
|---|---|---|
| 承継 | ①事業ごとに承継できる | 会社ごとに株式・後継者を分けられる |
| 承継 | ②後継者のHDが株式を買い、オーナーは現金化 | 譲渡所得の分離課税(20.315%) |
| 承継 | ③オーナーは事業会社の代表を退き、HDで残る | 役員退職金・分掌変更(法人税基本通達9-2-32) |
| 株価 | ④HD化の後の利益の積上げ分の評価を抑える | 財産評価基本通達186-2 |
| 資金 | ⑤子会社の配当を税負担なくHDに集める | 法人税法23条(受取配当等の益金不算入) |
| 資金 | ⑥グループ内で資金を配分する | 法人税法37条2項・25条の2(グループ内の寄附金・受贈益) |
| 経営 | ⑦事業ごとにリスクを分ける | 株主の有限責任(会社法104条) |
| 経営 | ⑧M&Aで会社を買う受け皿になる | 買収先を兄弟会社として迎えられる |
| 経営 | ⑨事業の一部だけを売れる | 子会社株式の売却 |
| 経営 | ⑩経営管理を強くする | 事業ごとの損益、管理部門の集約 |
承継のメリット
①事業ごとに承継できる
本業と不動産業、あるいは複数の事業を1つの会社で営んでいると、後継者を1人に絞らざるをえません。HDの下で事業ごとに会社を分けておけば、「本業は長男、不動産は次男」「本業は社内の役員、資産はご家族」のように、承継の単位を分けられます。
②後継者のHDが株式を買い取る
後継者が出資して作ったHDが、金融機関から借入をして現オーナーから事業会社の株式を買い取る方法です。オーナーは株式の譲渡代金を受け取り(譲渡所得は20.315%の分離課税)、後継者は個人で多額の資金を用意せずに会社を引き継げます。返済は事業会社からHDへの配当が原資になります。詳しくは後継者が新会社(HD)を作って株式を買い取るで取り上げています。
③オーナーは事業会社の代表を退き、HDで残る
オーナーが事業会社の代表を後任に譲って退職金を受け取り、HDの社長としてグループ全体の方針には関わり続ける形です。役員退職金を損金にするには、事業会社で実質的に退職したと認められる必要があります(法人税基本通達9-2-32の分掌変更の考え方)。事業会社の経営判断に関わり続けていると否認されるおそれがあるため、役割の分け方が重要です。
株価のメリット
④HD化の後の利益の積上げ分の評価を抑える
オーナーがHDの株式を持つ形にすると、相続のときに評価するのはHDの株式です。HDの株式を純資産価額で評価するとき、HDが持つ事業会社株式の値上がり分(含み益)からは、法人税等相当額を控除できるのが原則です(財産評価基本通達186-2)。HD化の後に事業会社が利益を積み上げるほど、直接持つ場合と比べた評価の差が広がります。
ただし、HDが株式等保有特定会社(総資産に占める株式等の割合が50%以上)に当たる場合の評価方法や、現物出資・株式移転などで著しく低い価額で受け入れた株式の含み益の扱いなど、制限もあります。試算の例はHD化で株価が下がる仕組みで解説しています。
株価を下げることだけを目的にした再編は、通達どおりに評価しても「著しく不適当」として総則6項で否認されるリスクがあります。考え方は財産評価基本通達の総則6項をご覧ください。
資金のメリット
⑤子会社の配当を税負担なくHDに集める
HDが子会社の株式を100%持ち、配当の計算期間を通じて完全支配関係があれば、受け取った配当は全額が益金不算入です(法人税法23条1項・5項)。オーナー個人が配当を受け取ると総合課税になるのに対し、HDなら税負担なく資金を集められます。要件と注意点はHDが子会社から受ける配当は非課税?で詳しく解説しています。
⑥グループ内で資金を配分する
HDに集めた資金は、新規事業の子会社への出資や貸付、M&Aの資金に回せます。法人による完全支配関係がある会社の間の寄附は、出した側で全額損金不算入、受けた側で全額益金不算入となり(法人税法37条2項・25条の2)、グループ内の資金の移動で課税関係が生じにくくなります。配分の方法はグループ内の資金の配分で取り上げています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る経営管理のメリット
⑦事業ごとにリスクを分ける
新規事業や不動産を別の子会社にすれば、ある事業の失敗が本業の会社の財務を直接傷めにくくなります。ただし、HDや本業の会社が借入の連帯保証をすると、リスクは結局つながります。詳しくは事業ごとにリスクを分けるをご覧ください。
⑧M&Aで会社を買う受け皿になる
買収した会社を、既存の事業会社の子会社ではなく、HDの下の兄弟会社として迎えられます。社員の上下関係や社長の処遇の問題が起きにくく、統合を無理に急がずにすみます。
⑨事業の一部だけを売れる
事業ごとに子会社にしておけば、将来、ある事業だけを子会社株式の売却で手放すことができます。事業譲渡に比べて、契約や許認可の移し替えが少なくすみます。
⑩経営管理を強くする
会社ごとに決算書ができるので、事業ごとの採算や借入の状況が見えやすくなります。経理・総務などの管理部門をHDに集め、子会社から経営指導料を受け取る形にすることもあります。
銀行からの見え方
銀行は、HDと子会社をグループ全体で見ます。HD化で事業会社の決算書から重い不動産や余剰資金が外れると、事業会社単体の格付けは上がりやすくなります。一方で、HDが株式の買取資金を借りれば、グループの借入は増えます。
代表の相亰の著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全、20年超は厳しいとしています。HD化を銀行に説明するときは、グループ全体でこの数字がどう変わるか、配当で返済できるかを先に試算しておきます。
支援事例:HD化を用いた親族への事業承継で、地方銀行から1.6億円を調達
本業と不動産業を営む経営者の方から、「不動産業を息子に承継したい。当面は金融機関との折衝に自分も関わる必要があるが、経済的な面での相続は先に済ませておきたい」というご相談を受けました。HD化による組織再編、種類株式の設計、定款の整備、株価の算定、金融機関のご紹介などを経て、地方銀行から1.6億円の資金調達を実現し、事業承継につなげることができました。
承継・株価・資金の3つの軸を同時に動かせることが、HD化の強みです。
まとめ
- HD化のメリットは承継・株価・資金・経営管理の4つの軸で整理する
- 承継では、事業ごとの承継、後継者のHDによる買取り、オーナーの勇退とHDでの関与が選べる
- 株価では、HD化の後の利益の積上げ分の評価を抑えられる場合がある。ただし総則6項に注意
- 資金では、100%子会社からの配当が全額益金不算入。グループ内で資金を配分できる
- 銀行はグループ全体で見る。債務償還年数の変化を先に試算する
HD化は、目的に合った方法を選べば、承継と財務の両方を強くできる手段です。クレフティの事業承継・M&A支援では、HD化の方法の選択から株価の試算、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
