「後継者に会社を継がせたいが、後継者には株を買うお金がない。かといって、全部を贈与すると税金が重く、ほかの子どもとの公平も気になる」。こうしたときに検討されるのが、後継者が新会社(ホールディングス、HD)を設立し、その新会社がオーナーから事業会社の株式を買い取る方法です。
新会社は金融機関から買取資金を借り、事業会社からの配当で返済します。オーナーは株式を現金化でき、後継者は少ない自己資金で経営権を得られます。ただし、価格の決め方、税金、返済の計画を誤ると、承継後の資金繰りが苦しくなります。この記事では、この方法の流れと注意点を整理します。
- 後継者が新会社を設立し、新会社が借入でオーナーから株式を買い取り、事業会社の配当で返済する
- 価格は、オーナー(売り手)の立場で判定した税務上の時価が基準(所得税法59条、所得税基本通達59-6、最高裁令和2年3月24日判決)
- オーナーは譲渡所得として20.315%。株式は相続財産から外れ、現金に変わる
- 新会社が事業会社を100%持てば配当は全額益金不算入。ただし、買取り直後の最初の配当は全額にならないことがある
- 銀行はグループ全体の返済余力で見る。株価が低い時期なら贈与のほうが合う場合もある
スキームの全体像
この方法の良い点は次のとおりです。
- オーナー:株式を現金化でき、その後の事業会社の値上がりは相続財産に入らない。現金なら、後継者以外の子どもへの配分もしやすい
- 後継者:少ない自己資金で、新会社を通じて事業会社の経営権を得られる
- 株式の分散防止:オーナーの相続で株式が相続人に分かれることがなくなる
一方で、新会社は借入とその利息を負担し、事業会社の利益が落ちると返済が苦しくなります。オーナーの相続財産も、株式が現金に変わるだけで、なくなるわけではありません。
買取価格の決め方
売り手の立場で判定する時価
個人が法人に、時価の2分の1未満の価格で株式を譲渡すると、時価で譲渡したものとみなされます(所得税法59条1項2号、所得税法施行令169条)。この時価について、所得税基本通達59-6は、財産評価基本通達の例によりつつ、次のような条件をつけています(国税庁 所得税基本通達59-6)。
- 同族株主に当たるかどうかは、譲渡直前の議決権の数で判定する
- 売り手が中心的な同族株主に当たるときは、会社を常に小会社として評価する(純資産価額の割合が高くなる)
- 会社が持つ土地や上場有価証券は、譲渡の時の時価で評価する
- 純資産価額の計算で、評価差額に対する法人税額等相当額(令和8年4月1日以後の相続・贈与等の評価では38%)を控除しない
最高裁令和2年3月24日第三小法廷判決(平成30年(行ヒ)第422号)は、譲受人の立場で配当還元価額によって評価した原審の判断を、所得税法59条1項の解釈を誤ったものとして破棄しています(裁判所 裁判例情報)。オーナーが後継者の新会社に売る場合、オーナーは通常、中心的な同族株主に当たるため、相続税評価よりも高い価格が基準になりやすい点に注意します。
安すぎても高すぎても課税が起こる
| 価格 | オーナー | 新会社 | 新会社の株主(後継者) |
|---|---|---|---|
| 時価の2分の1未満 | 時価で譲渡したとみなされる(所得税法59条) | 時価との差額が受贈益になるおそれ(法人税法22条2項) | 新会社の株式の価値が増えた分、贈与とされるおそれ(相続税法9条) |
| 時価の2分の1以上で時価未満 | 実際の価格で譲渡所得を計算(同族会社の行為計算否認の規定に留意) | 時価との差額が受贈益になるおそれ | 同上 |
| 時価より高い | 時価を超える部分が、譲渡代金ではなく新会社からの経済的利益(一時所得など)とされるおそれ | 時価を超える部分が寄附金になるおそれ | — |
価格は、株価算定書をつくり、売り手・買い手の両方から見て説明できる水準に決めます。
オーナーの税金と、新会社の税金
オーナーは、売却益(譲渡価格-取得費-譲渡費用)に対して、所得税・復興特別所得税15.315%と住民税5%の合計20.315%の分離課税を受けます(国税庁 No.1463)。発行会社(事業会社)自身に売るとみなし配当として総合課税になりやすいのと比べ、税負担が予測しやすいのが特徴です。違いはHDへの株式売却とみなし配当・譲渡所得の違いで解説します。
新会社の側では、事業会社からの配当が返済の原資です。新会社が事業会社の株式を、配当の計算期間を通じて100%保有していれば、配当は全額が益金不算入です(法人税法23条。完全子法人株式等)。買取りの直後の配当は、計算期間の途中から保有したことになるため、全額が益金不算入にならないことがあります。最初の配当の時期は、買取りの日と事業会社の決算期から逆算して決めます。
融資と返済の計画
使える融資制度
日本政策金融公庫の中小企業事業の「事業承継・集約・活性化支援資金」は、利率の特例の対象として「事業会社の株式または事業用資産を取得する持株会社及び当該事業会社」を挙げています(日本政策金融公庫 事業承継・集約・活性化支援資金(中小企業事業))。民間の金融機関からの借入では、信用保証協会の事業承継に関する保証制度が使えることもあります(全国信用保証協会連合会 事業承継をお考えの方)。いずれも要件と審査があるため、早めに相談します。制度の比較は日本政策金融公庫の事業承継の融資制度とHD、信用保証協会の事業承継特別保証で取り上げます。
返済の試算
返済の計画は、事業会社の利益から逆算します(数字は説明のための例です)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 買取価格(事業会社株式100%) | 2億円 |
| 新会社の借入(期間15年・元金均等) | 2億円 |
| 年間の元金返済 | 約1,333万円 |
| 利息(年2%と仮定した初年度) | 400万円 |
| 新会社の維持費 | 約100万円 |
| 事業会社から必要な年間配当 | 約1,850万円 |
| 事業会社の税引後利益(例) | 4,000万円(配当性向は約46%) |
配当を出すと、事業会社の現預金と純資産はその分減ります。設備投資や運転資金の余裕を残せる配当性向かどうかを確認します。
銀行からの見え方
金融機関は、新会社の借入を、事業会社と合わせたグループ全体で見ます。著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)で、10年以内を健全な目安としています。新会社の借入を加えたグループの債務償還年数がどうなるか、事業会社に連帯保証や担保を求められるかを確認します。配当で返済する融資の注意点はHDが株式を買い取る資金の融資、グループでの保証・担保の組み方はHDと子会社の連帯保証・担保で解説します。
事務所の支援事例では、本業と不動産業を営む経営者の、不動産業を息子に承継したいというご相談に対し、ホールディングス化による組織再編、種類株式の設計、定款の整備、株価算定、金融機関の紹介を行い、地方銀行から1.6億円を調達して事業承継を実現しました。詳しくはクレフティの支援事例で紹介します。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る贈与との比較
株価が低い時期なら、売買ではなく贈与のほうが総コストが小さくなることがあります。
| 項目 | 新会社への売却(譲渡+融資) | 後継者への贈与 |
|---|---|---|
| オーナーの手取り | 現金が入る | 入らない |
| 税金 | オーナーに譲渡所得税(20.315%) | 後継者に贈与税(暦年課税または相続時精算課税) |
| 資金 | 新会社の借入が必要 | 不要 |
| 経営権 | 新会社(後継者)に移る | 後継者に移る。オーナーが拒否権付株式を持つ設計もある |
| 向く場面 | 株価が高い、オーナーが現金を必要とする、相続人間の公平を現金で図りたい | 株価が低い、オーナーに十分な資産がある |
贈与の進め方はHD株式を後継者に贈与する、拒否権付株式などの設計はHDで種類株式を使う、親族への低い価格での譲渡の注意点は後継者への低額譲渡を参照してください。
まとめ
- 後継者の新会社が借入で株式を買い取り、配当で返済する。後継者の自己資金は少なくて済む
- 価格は売り手の立場の時価が基準。オーナーが中心的な同族株主なら、相続税評価より高くなりやすい
- オーナーは20.315%の分離課税。発行会社に売るみなし配当とは異なる
- 配当は全額益金不算入が基本だが、最初の配当の時期に注意する
- 銀行はグループ全体の返済余力で見る。株価が低い時期なら贈与も比べる
