後継者が事業を継ぐのをためらう理由の一つが、会社の借入の個人保証です。この負担を軽くするために、信用保証協会には、事業承継の際に経営者保証を不要とする「事業承継特別保証」があります。ホールディングス(HD)が事業会社の株式を買い取るための「事業承継サポート保証」を取り扱う協会もあります。
この記事では、全国信用保証協会連合会(全信協)と東京信用保証協会の公式ページで確認した内容(2026年10月時点)をもとに、要件と使い方を整理します。
- 事業承継特別保証は、事業承継の際に経営者保証を求めない保証。既存の保証付きプロパー融資の借換えにも使える
- 要件は、資産超過、EBITDA有利子負債倍率10倍以内、法人・個人の分離、返済緩和中の借入がないの4つ
- 限度額は2億8,000万円。専門家の確認を受けると保証料率が大幅に軽減される
- 新設持株会社の株式取得資金には「事業承継サポート保証」がある(取扱いは協会ごとに確認)
- 要件に届かない場合も、保証料の上乗せで経営者保証を不要にできる制度がある
事業承継特別保証の対象と要件
全信協の「事業承継をお考えの方」のページによると、対象は次の(1)または(2)に当たり、かつ(3)の要件をすべて満たす中小企業者です。
- (1) 3年以内に事業承継を予定する事業承継計画を持つ法人
- (2) 事業承継から3年を経過していない法人(令和2年1月1日から令和7年3月31日までに事業承継を実施した場合に限る)
- (3) 次の4つをすべて満たすこと
| 要件 | 内容 | チェックのしかた |
|---|---|---|
| ① 資産超過 | 貸借対照表で資産が負債を上回る | 純資産がプラスか |
| ② EBITDA有利子負債倍率10倍以内 | (借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費) | 直近の決算書で計算 |
| ③ 法人・個人の分離 | 会社と経営者の資金・資産のやり取りが分かれている | 代表者への貸付金、私的な経費、会社資産の私的利用がないか |
| ④ 返済緩和中の借入がない | リスケジュール中の借入がない | 条件変更の有無 |
限度額は2億8,000万円です。専門家(経済産業省から事業承継の支援を委託された機関に所属する人)の確認を受けた場合は、保証料率が大幅に軽減されると案内されています。
EBITDA有利子負債倍率の計算例
次の数字は説明のための例です。
| 項目 | A社 | B社 |
|---|---|---|
| 借入金・社債 | 3億円 | 3億円 |
| 現預金 | 1億円 | 5,000万円 |
| 営業利益 | 1,500万円 | 1,500万円 |
| 減価償却費 | 500万円 | 500万円 |
| 倍率 | 2億円÷2,000万円=10倍 | 2.5億円÷2,000万円=12.5倍 |
B社は要件を満たしません。倍率は分母の利益と分子の純有利子負債の両方で決まるため、遊休資産を売って借入を返す、不要な借入を整理するといった対応で改善できることがあります。事業会社の貸借対照表を軽くする方法は事業会社の決算書を軽くするで解説しています。
HDの株式取得に使える保証
全信協のページでは、事業承継に関する保証として、次の制度も紹介されています(限度額はいずれも2億8,000万円)。
| 制度 | 対象 | 資金の使いみち |
|---|---|---|
| 事業承継サポート保証 | 新設持株会社 | 事業会社の株式取得資金 |
| 経営承継関連保証 | 経営承継円滑化法の認定を受けた中小企業者 | 株式・事業用資産の取得、相続税・贈与税の納付など |
| 特定経営承継関連保証 | 同法の認定を受けた代表者個人 | 株式・事業用資産の取得など |
| 特定経営承継準備関連保証 | 同法の認定を受けた、事業を営んでいない個人 | 株式・事業用資産の取得(EBOなど) |
| 経営承継借換関連保証 | 同法の認定を受けた中小企業者 | 経営者保証付きの借入を、保証なしの借入に借り換える |
東京信用保証協会の事業承継支援のページでも、「事業承継サポート保証制度(持株承継)」として、後継者が持株会社を設立して事業会社の株式を買い取る場合の保証が案内されています。取扱いの有無や細かな要件は協会ごとに違うため、地域の協会で確認します。
HDによる株式取得の全体像はHDが株式を買い取る資金の融資で解説しています。
要件に届かない場合:保証料上乗せ型の制度
2024年3月15日から、全国の信用保証協会で、保証料率の上乗せによって経営者保証を提供しないことを選べる制度の取扱いが始まりました(全信協のお知らせ)。東京信用保証協会の案内によると、主な要件は次のとおりです。
- 過去2年分の決算書などを、金融機関の求めに応じて提出している
- 直近の決算で代表者への貸付金などがなく、役員報酬が社会通念上相当と認められる範囲にある
- 直近の決算で債務超過でない、または直近2期の減価償却前経常利益が連続して赤字でない
- これらを継続して満たすことを誓約する
上乗せは、財務要件の両方を満たせば0.25%、一方だけなら0.45%です。事業承継に限った制度ではありませんが、後継者が保証を負わずに借りる手段の一つになります。
どの制度を選ぶかの目安
| 状況 | 検討する制度 |
|---|---|
| 承継を3年以内に予定し、4つの要件を満たす | 事業承継特別保証(既存の保証付き借入の借換えも) |
| 4つの要件のうち財務の要件に届かない | 財務の改善を先に行う。または保証料上乗せ型の制度 |
| 後継者が作った持株会社が株式を買い取る | 事業承継サポート保証(取扱いのある協会)、公庫の事業承継・集約・活性化支援資金 |
| 経営承継円滑化法の認定を受ける | 経営承継関連保証・特定経営承継関連保証など |
保証協会の保証付き融資と、民間銀行のプロパー融資の使い分けは保証協会付き融資とプロパー融資の違いでも解説しています。
HD体制で準備しておくこと
保証協会の制度でも、民間銀行の判断でも、共通して見られるのは法人と個人の分離と財務の健全さです。HD体制では、次の点をグループ全体で整えておきます。
- HD・事業会社からオーナーへの貸付金を解消する(役員貸付金と銀行の評価)
- 事業に使わない資産を整理し、事業会社の純有利子負債を減らす
- グループの決算書を毎期そろえて、取引銀行に開示する
- 事業承継計画を書面にし、承継の時期をはっきりさせる
保証協会の審査の一般的な見方は信用保証協会の審査のポイント、経営者保証を外す交渉全般は経営者保証を外すには、HD化と保証の関係はHD化と経営者保証の解除を参考にしてください。
まとめ
- 事業承継特別保証は、資産超過・EBITDA有利子負債倍率10倍以内・法人個人の分離・返済緩和なしの4要件
- 限度額は2億8,000万円。専門家の確認で保証料が軽減される
- 対象となる承継の時期の要件があるため、承継を予定する段階で早めに検討する
- HDの株式取得には事業承継サポート保証がある。協会ごとに取扱いを確認する
- 要件に届かなくても、保証料上乗せ型の制度で経営者保証を外せることがある
