「決算書に役員貸付金が1,000万円あるのですが、銀行から何か言われますか」。融資のご相談で、決算書を拝見したときによく確認する科目のひとつです。
役員貸付金は、会社が社長などの役員にお金を貸している状態を表す勘定科目です。貸借対照表では「資産」に載りますが、銀行の融資審査では、回収の見込みが薄い資産として、純資産の計算から差し引かれやすい科目です。金額が大きいと、格付けが下がるだけでなく、「融資したお金が社長個人に流れるのでは」と資金使途を疑われる原因にもなります。
この記事では、銀行が役員貸付金をどう見るのか、利息をつけないと何が起きるのか、そして解消する方法ごとの税金と注意点を、融資を受け続ける視点から整理します。
- 役員貸付金は、銀行の融資審査で資産から差し引かれやすい。純資産が薄く見え、格付けや資金使途の評価に響く
- 無利息で貸すと、利息の差額が役員への給与として課税されることがある。2026年中の貸付けの基準利率は年1.3%(会社が借りて貸した場合はその借入金の利率)
- 解消方法は「返済」「役員借入金との相殺」「資産の買取りと相殺」「報酬・賞与で返済」「債権放棄」など。債権放棄は役員賞与になり、会社の損金にならない
- いちばん大切なのは、新たに発生させない仕組みをつくること。経費の立替えや個人の支払いを会社の口座から出さない
役員貸付金とは?発生する典型的なパターン
役員貸付金は、会社のお金が社長個人に渡り、それが会社に戻っていない状態です。意図して貸したものだけでなく、経理の処理の結果として積み上がってしまうことが多いのが特徴です。
よくある発生のしかたは次のとおりです。
- 使途不明の出金:会社の口座から現金を引き出したが、領収書がなく経費にできない
- 個人の支払いを会社で払った:社長個人のクレジットカード代や税金、生活費を会社の口座から払った
- 仮払金の放置:出張や接待の仮払いを精算しないまま、期末に役員貸付金へ振り替えた
- 個人の投資や借入返済への流用:社長個人の不動産投資の頭金や、個人ローンの返済に会社のお金を使った
反対に、社長が会社にお金を貸している「役員借入金」は、銀行から自己資本に近いものとして見てもらえることがある科目です。名前は似ていますが、評価はまったく逆です。役員借入金の見え方は役員借入金は融資でどう見られる?で詳しく解説しています。
銀行は役員貸付金をどう見るか
実質的な純資産から差し引かれる
銀行は、決算書の数字をそのまま使うのではなく、資産の中身を一つずつ確かめて「実質的な純資産」を計算します。その際、役員貸付金は社長が本当に返済できるのか分からないとして、資産から差し引かれることが多い科目です。
たとえば、決算書の純資産が1,500万円で、役員貸付金が1,000万円ある会社は、銀行の目には実質的な純資産500万円の会社に映ります。役員貸付金が純資産より大きければ、決算書上は資産超過でも、実質的には債務超過と判断されることもあります。
| 項目 | 決算書の数字 | 銀行の見え方 |
|---|---|---|
| 総資産 | 1億円 | 9,000万円(役員貸付金1,000万円を除く) |
| 負債 | 8,500万円 | 8,500万円 |
| 純資産 | 1,500万円 | 500万円 |
| 自己資本比率 | 15% | 約5.6% |
格付けでは、自己資本比率や純資産の額が安全性の評価の中心です。著書のモデルでも、129点満点のうち安全性に34点が配分されており、純資産が目減りすれば点数は下がります。格付けの全体像は銀行の格付けを上げる方法をご覧ください。
「お金が社長に流れる会社」と見られる
数字以上に響くのが、資金使途への疑いです。銀行は、運転資金や設備資金として貸したお金が、本来の目的に使われることを前提に融資します。役員貸付金が毎期増えている会社は、「融資したお金が社長個人の支出に回っているのではないか」と見られます。
特に、融資を受けた直後に役員貸付金が増えていると、資金使途の違反を疑われることがあります。追加融資の審査で厳しくなるだけでなく、取引全体の信頼に関わります。
金額が小さくても、増え続けていると印象が悪い
役員貸付金は、金額の大きさだけでなく推移も見られます。3期分の決算書を並べて、毎期少しずつ増えていれば、公私混同が続いていると判断されがちです。逆に、残高が毎期減っていて、返済計画を説明できれば、評価は大きく変わります。
無利息で貸すと、給与として課税されることがある
基準となる利率
会社が役員に無利息や低い利率でお金を貸すと、本来受け取るべき利息との差額が、役員が受けた経済的利益として給与課税の対象になることがあります。国税庁のタックスアンサーNo.2606によると、基準となる利率は次のとおりです。
| 貸付けの状況 | 基準となる利率 |
|---|---|
| 会社が他から借り入れて、それを役員に貸した | その借入金の利率 |
| 上記以外 | 貸付けを行った年ごとの利率(2024年・2025年は年0.9%、2026年は年1.3%) |
ただし、災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要になった場合の貸付け、会社の平均調達金利など合理的な利率で貸した場合、基準の利率で計算した利息との差額が1年間で5,000円以下の場合は、課税されないとされています。
会社側では利息を収益に計上する
利息を取る場合、会社側では受取利息として収益に計上します。未収のまま放置すると、その未収利息も役員貸付金に積み上がっていきます。利息を取ることは課税を避けるためだけでなく、「本当に返してもらう貸付金だ」と示すためでもあります。
貸付けをするなら、金銭消費貸借契約書をつくり、返済期日・利率・返済方法を決め、その通りに返済されている状態をつくっておくことが、税務署にも銀行にも説明しやすい形です。
役員貸付金を解消する方法と、それぞれの税金
役員貸付金を減らす方法はいくつかあります。それぞれ税金のかかり方と、決算書への効き方が異なります。
| 方法 | 社長個人の税金 | 会社の決算書 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 個人の預金で返済 | かからない | 現預金が増え、評価が改善 | 返済資金の出どころを説明できるか |
| 役員借入金と相殺 | かからない | 資産・負債が両方減る | 両方の残高を契約書・帳簿で確認 |
| 個人資産を会社が買い取り相殺 | 譲渡所得の課税がありうる | 資産の中身が入れ替わる | 適正な価額での売買が前提 |
| 役員報酬・賞与を増やして返済 | 所得税・住民税・社会保険料が増える | 費用が増え利益は減る | 期中の増額に制約がある |
| 債権放棄 | 給与(賞与)として課税 | 損失が出るが損金にならない | 源泉徴収が必要 |
返済・相殺は最もシンプル
社長個人に預金があれば、返済するのが最もシンプルです。社長が会社に別途お金を貸している(役員借入金がある)場合は、両方を相殺して残高を整理することもできます。相殺するときは、合意した日付と金額を書面に残しておきます。
個人の資産を会社が買い取る
社長個人が持っている車や不動産などを会社が買い取り、その代金と役員貸付金を相殺する方法もあります。この場合は、適正な価額(時価)で売買することが前提です。時価より高く買い取れば、差額は役員への給与とみなされるおそれがあります。不動産であれば、社長個人に譲渡所得の課税が生じることもあります。
役員報酬や賞与を増やして返済に充てる
報酬を増やして、手取りから少しずつ返済していく方法です。ただし、法人税法上、役員報酬は原則として事業年度開始から3か月以内に改定しなければ、増額分が損金になりません。賞与で支給するなら、事前確定届出給与の届出が必要です。報酬の決め方は役員報酬の決め方で解説しています。
報酬を増やすと、所得税・住民税に加えて社会保険料も増えます。返済に回せる手取りがいくらになるかを試算してから決めることが大切です。
債権放棄は最後の手段
会社が役員貸付金を放棄すると、社長は返済を免れた金額について経済的利益を受けたことになり、臨時の役員給与(賞与)として扱われます。定期同額給与でも事前確定届出給与でもないため、会社側では原則として損金にならず、社長側では給与として課税され、会社は源泉徴収をしなければなりません。
税負担が会社・個人の両方に生じるうえ、銀行からは「回収できなかった」という事実が残ります。安易に選ぶ方法ではありません。
融資を受けたい会社が、まずやるべきこと
役員貸付金の問題は、残高を減らすことと同じくらい、新たに発生させない仕組みが大切です。
- 会社の口座から個人の支払いをしない:生活費、個人の税金、個人のカード代は個人の口座から払う
- 立替えや仮払いは月内に精算する:期末にまとめて役員貸付金へ振り替えない
- 領収書のない出金をなくす:使途が説明できない出金は、そのまま役員貸付金になる
- 残高を毎月の試算表で確認する:決算のときに初めて気づく、という状態をなくす
銀行に決算書を出す前には、役員貸付金がある理由と返済計画を説明できるように準備しておきます。「いつまでに、どうやって減らすか」を一言で説明できるだけでも、担当者が稟議書に書きやすくなります。決算書を出す前の確認点は銀行に決算書を出す前にやるべきことも参考にしてください。
不動産投資家が資産管理法人を持っている場合も同じです。法人の家賃収入を個人の生活費に回していると、役員貸付金が積み上がり、次の物件の融資審査で法人の純資産が削られて見えます。個人と法人のお金の流れを分け、必要なら役員報酬として正しく受け取る形にしておくことが、買い続けるための前提になります。
まとめ
- 役員貸付金は、銀行の融資審査で資産から差し引かれやすく、純資産が薄く見える原因になる
- 金額だけでなく推移も見られる。増え続けていると、資金使途や公私混同を疑われる
- 無利息の貸付けは、利息の差額が給与として課税されることがある。2026年中の貸付けの基準利率は年1.3%
- 解消方法は返済・相殺・資産の買取り・報酬での返済・債権放棄。債権放棄は役員賞与として損金にならず、源泉徴収も必要
- まずは新たに発生させない仕組みをつくり、残高と返済計画を銀行に説明できるようにしておく
クレフティでは、代表の相亰と髙橋が構築した独自の財務設計の手法(クレフティメソッド)にもとづき、決算書のどこを整えれば融資を受けやすくなるかを、金融機関出身のコンサルタントと税理士が一緒に整理します。役員貸付金の整理や、銀行への説明の準備でお困りの方は、融資・資金調達の支援をご覧ください。初回のご相談は無料です。
