「会社は継ぎたいが、何億円もの借入の保証人になるのは怖い」。後継者がこう考えるのは自然なことです。ホールディングス(HD)を使った事業承継では、借入をどの会社で行い、誰が保証するかを設計し直す機会があります。
この記事では、HD化と事業承継の場面で、後継者に経営者保証を引き継がないための準備を、ガイドライン、公的な制度、HD体制で整えることの順に整理します。
- 基準は経営者保証に関するガイドラインと、2019年12月に策定された事業承継時の特則
- 特則では、先代と後継者からの二重の保証は原則として取らないとされている
- 銀行が見るのは、法人と個人の分離、財務基盤、情報開示の3つ
- 公庫の経営者保証免除特例、保証協会の事業承継特別保証など、保証不要の制度もある
- 先代がHDの社長に残る場合は、実質的な経営権がどこにあるかを明確にする
経営者保証に関するガイドラインと事業承継の特則
全国銀行協会の経営者保証に関するガイドラインのページでは、ガイドライン本体と、2019年12月に策定された「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」が公表されています。特則のおもな考え方は次のとおりです。
| 論点 | 特則の考え方 |
|---|---|
| 二重の保証 | 前経営者と後継者の双方から保証を求めることは、原則として行わない |
| 前経営者の保証 | 実質的な経営権・支配権を持つといった特別の事情がなければ、第三者に当たる可能性があり、保証の継続は慎重に判断する |
| 後継者の保証 | 後継者に当然に保証を引き継がせるのではなく、必要性を改めて検討し、慎重に判断する |
| 説明 | 例外的に二重に保証を求める場合は、その理由や融資条件を双方に十分説明する |
特則は令和元年(2019年)12月に策定され、令和2年4月1日から適用されています。
銀行が見る3つの要件
ガイドラインで、保証を求めない、または外すかどうかの判断材料とされるのは、おおむね次の3つです。
- 法人と個人の分離:会社と経営者の資産・資金のやり取りが明確に分かれている
- 財務基盤:会社の資産や利益で返済できる力がある
- 情報開示:決算書や試算表などを、適時に正確に開示している
HD体制で整えること
HD体制では、銀行は事業会社だけでなく、HDとオーナー個人を含めたグループ全体で分離の状況を見ます。
| 整える点 | 具体的な内容 |
|---|---|
| オーナーへの貸付金 | HD・事業会社からオーナーへの貸付金を解消する(役員貸付金と銀行の評価) |
| オーナーからの借入金 | 役員借入金は、DESや返済で整理を検討する(役員借入金は相続財産) |
| 不動産の利用 | HDが持つ不動産をオーナーが私的に使っていないか。使うなら相場の家賃を払う |
| 役員報酬 | グループ全体で見て、業績に見合った水準か |
| 経費 | 私的な支出が会社の経費に混ざっていないか |
| 開示 | HD・事業会社の決算書を、毎期そろえて取引銀行に出しているか |
あわせて、HD化の際に、グループの借入にどの会社とどの個人の保証が付いているかを一覧にしておきます。グループ内の保証の組み方はHDと子会社の連帯保証・担保で解説しています。
先代がHDの社長に残る場合
HD体制では、先代が事業会社の代表を後継者に譲り、自身はHDの社長に残る形がよく取られます(オーナーは事業会社の社長を退きHDの社長へ)。この形は、先代が経営を見守りながら承継を進められる反面、保証の面では次の点に注意が必要です。
- 先代がHDを通じて実質的な経営権を持ち続けるなら、銀行は先代の保証を残すことを検討する
- 後継者がまだ実質的な経営権を持っていないと見られれば、後継者の保証を求められないこともある一方、先代の保証は外れにくい
- 誰がいつまでに、何を決める立場になるのかを、承継計画として書面にし、銀行に示す
特則では、前経営者は、実質的な経営権・支配権を持っているといった特別の事情がない限り、いわゆる第三者に当たる可能性があるとされ、保証の継続は慎重に判断するよう求められています。また、代表権は後継者に移ったが株式の大半は前経営者が持っている、といったことだけで二重の保証を判断しないよう留意するともされています。承継の段階ごとに、誰の保証が残るのかを銀行とすり合わせておきます。
保証を求めない公的な制度
| 制度 | 内容 | 公式ページ |
|---|---|---|
| 日本政策金融公庫 経営者保証免除特例制度 | 事業承継・集約・活性化支援資金を利用する法人などが対象。利率の上乗せなし | 公庫 |
| 信用保証協会 事業承継特別保証 | 資産超過、EBITDA有利子負債倍率10倍以内、法人・個人の分離、返済緩和なしの要件で、経営者保証を不要とする。限度額2億8,000万円 | 全国信用保証協会連合会 |
| 信用保証協会 事業者選択型経営者保証非提供制度 | 一定の要件のもと、保証料率の上乗せ(0.25%または0.45%)で経営者保証を不要にできる | 東京信用保証協会 |
制度ごとの要件は信用保証協会の事業承継特別保証と経営者保証と日本政策金融公庫の事業承継の融資制度とHDで解説しています。
交渉の進め方
- グループの借入と保証の一覧を作る
- 法人と個人の分離の状況を点検し、直せるところを直す
- 承継計画(誰が、いつ、どの立場になるか)を書面にする
- 決算書と試算表をそろえ、債務償還年数などで返済力を示す
- 借入ごとに、保証の解除・後継者への不承継を銀行に申し入れる
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)で、10年以内を健全としています。財務基盤を数字で示せることが、交渉の土台になります。経営者保証を外す交渉の一般的な進め方は経営者保証を外すには、事業承継での保証の扱いは事業承継と経営者保証や役員・従業員の承継と保証も参考にしてください。
まとめ
- 判断の基準はガイドラインと事業承継時の特則。二重の保証は原則として取らない
- 銀行が見るのは法人と個人の分離・財務基盤・情報開示。HD体制ではグループ全体で整える
- 先代がHDの社長に残るなら、実質的な経営権の所在を明確にし、保証の扱いを銀行とすり合わせる
- 公庫・保証協会の保証不要の制度も組み合わせる
- 借入と保証の一覧を作り、借入ごとに交渉する
