ホールディングス(HD)化は、税金や株価の話として語られがちですが、実際の相談の出発点は「誰に、何を、どんな形で引き継ぎたいか」という家族と経営の事情です。この記事では、税理士法人クレフティが支援した、HD化を用いた親族への事業承継で、地方銀行から1.6億円を調達した事例を紹介します。
ご相談者の特定につながらないよう、紹介する内容は事務所として公開している範囲に限り、株式の内容や借入の条件などの細部は省いています。後半の「設計の考え方」は、同じような相談に共通する一般論として書いています。
- 本業と不動産業を営む経営者から、不動産業を息子に承継したいというご相談
- 要望は「当面は金融機関との折衝に本人も関与しつつ、経済面の相続は先に終えたい」
- HD化による組織再編・種類株式の設計・定款の整備・株価算定・金融機関の紹介を行った
- その結果、地方銀行から1.6億円を調達して事業承継を実現した
- 「経営の関与」と「財産の承継」を分けて考えることが、設計の出発点になる
ご相談の内容
ご相談者は、本業と不動産業の両方を営む経営者でした。ご相談は、不動産業を息子さんに承継したいというものです。
要望は2つありました。
| 要望 | 背景にある考え方 |
|---|---|
| 当面は、金融機関との折衝に本人も関与したい | 不動産業は借入と一体の事業。銀行との関係をすぐに手放すのは不安 |
| 経済面の相続は、先に終えておきたい | 将来の相続で、株式や不動産の価値をめぐる問題を残したくない |
「経営への関与はしばらく残したいが、財産としての承継は先に済ませたい」。一見すると相反する要望ですが、事業承継の相談ではよくある組み合わせです。
行った支援
事務所では、次の5つを組み合わせて支援しました。
| 支援の内容 | 役割(一般論としての説明) |
|---|---|
| HD化による組織再編 | 承継する事業と、それ以外を整理し、引き継ぐ単位をはっきりさせる |
| 種類株式の設計 | 議決権と、財産としての価値を分けて考えられるようにする |
| 定款の整備 | 種類株式の内容、株式の譲渡制限など、設計を会社のルールとして定める |
| 株価算定 | 株式を移すときの価格の根拠を示す。税務と銀行への説明の両方に使う |
| 金融機関の紹介 | 承継のスキームを理解し、資金を出してくれる金融機関につなぐ |
結果
地方銀行から1.6億円を調達し、不動産業の事業承継を実現しました。
事務所としては、税務の設計だけで終わらせず、金融機関から資金を調達できる形にまとめた点が、この事例の要だったと考えています。HD化や種類株式の設計が税務上は成り立っていても、銀行が理解できない形では融資につながりません。スキームの説明、株価の根拠、承継後の返済の見通しを、銀行が審査できる形で示すことが必要です(銀行への説明の進め方はHD化を金融機関にどう説明するか)。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る同じような相談で考える設計の考え方(一般論)
ここからは、この事例の具体的な内容ではなく、同じような要望があるときに一般的に検討する考え方です。
「経営の関与」と「財産の承継」を分ける
会社の株式には、議決権(会社の重要なことを決める権利)と、財産としての価値(配当や、会社を売ったときの取り分)という2つの面があります。会社法では、議決権を制限した株式や、特定の決議に拒否権を持つ株式など、内容の異なる種類株式を発行できます(会社法108条)。
種類株式の種類と使い方は種類株式を使った事業承継やHDで種類株式を使うで、定款で決めておくことはHDの定款で決めておくことで解説しています。
株価算定は、税務と銀行の両方の根拠になる
株式を後継者やHDに移すときは、その価格が税務上の時価から大きく外れていないかが問われます。同時に、HDが借入で株式を取得する場合は、銀行も買取価格が妥当かを確認します。株価算定は、税務と融資の両方の説明に使う資料として作ります(非上場株式の評価の基本)。
不動産業は「借入と一体」で引き継ぐ
不動産業は、物件と借入がセットの事業です。承継後も金融機関との関係が続くため、銀行から見て、後継者に引き継いだ後の返済の見通しが立つかが重要になります。先代が当面の折衝に関わることは、銀行にとっても安心材料になり得ます。
相談から実行までの一般的な流れ
同じような相談では、一般に次の順番で検討を進めます(この事例の日程や手順をそのまま示すものではありません)。
| 段階 | 検討すること |
|---|---|
| 1. 要望の整理 | 誰に、何を、いつまでに引き継ぐか。先代がいつまで、どの立場で関わるか |
| 2. 現状の把握 | 株主構成、各社の決算書、借入と保証、不動産の一覧 |
| 3. スキームの比較 | HD化の方法、株式の移し方(譲渡・贈与など)、種類株式の要否 |
| 4. 株価の算定 | 移す株式の価格と、税負担の試算 |
| 5. 金融機関との協議 | スキームの説明、資金の必要額、返済の見通し |
| 6. 実行 | 定款の変更、株主総会の決議、登記、融資の実行 |
税務の試算だけを先に進め、金融機関との協議を最後に回すと、資金の手当てがつかずにスキームを組み直すことになりかねません。株価と融資の検討を、早い段階から並行して進めることが大切です。後継者がHDを作って株式を買い取る型の一般的な進め方は後継者が新会社(HD)を作って株式を買い取るで解説しています。
支援の体制
税理士法人クレフティは、公認会計士・税理士のパートナー2名(相亰、髙橋)を中心に、資金調達部長として元地方銀行員が在籍し、累計120億円超の融資承認、20行を超える金融機関との折衝の経験があります。代表の相亰と髙橋が構築した独自の財務設計の手法(クレフティメソッド)をもとに、組織再編・株価・融資を一体で設計します。
なお、税理士法人クレフティは認定経営革新等支援機関ではありません。事業承継税制の特例承継計画の作成支援など、認定支援機関でなければできない業務は、認定を受けた機関と連携して進めます。
まとめ
- 不動産業を息子に承継したいという相談に、HD化・種類株式・定款・株価算定・金融機関の紹介を組み合わせて対応した
- 地方銀行から1.6億円を調達し、事業承継を実現した
- 「経営の関与を残す」と「財産の承継を先に終える」は、株式の2つの面を分けることで両立を検討できる
- 税務の設計を、銀行が審査できる形にまとめることが、資金調達の鍵になる
HD化の事例をパターン別に知りたい方はHD化の事例集もご覧ください。
