ホールディングス(HD)が事業会社の株式を買い取る、M&Aで他社を買うといった場面では、HDの借入を子会社からの配当で返すのが基本の形です。ところが、配当は「子会社が利益を出していれば自由に出せる」ものではありません。会社法の制限、税務の区分、配当の時期、子会社自身の格付けと、いくつもの条件がそろって初めて返済が回ります。
この記事では、配当で返済する融資を組むときの注意点を整理します。
- 配当は分配可能額の範囲まで(会社法461条)。純資産300万円未満の会社は配当できない(458条)
- 100%子会社からの配当は、計算期間を通じた完全支配関係があれば全額益金不算入。最初の配当の時期に注意
- 配当は年1〜2回。HDの返済の時期とずれるため、HDに手元資金を残す
- 配当を出すと子会社の現預金と純資産が減り、子会社の格付けや許認可の要件に響く
- 返済計画は「子会社の返済・投資の後に残る額」から作る
配当で返す仕組みと、4つの関門
① 会社法の制限:分配可能額
株式会社が配当できるのは、分配可能額の範囲内に限られます(会社法461条1項8号、2項)。分配可能額は、おおむね次のように計算します(臨時決算をしない場合の簡略化した考え方)。
あわせて、次の制限があります。
- 純資産額が300万円未満の会社は配当できない(会社法458条)
- 配当をするときは、配当額の10分の1を、資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達するまで準備金に積み立てる(会社法445条4項、会社計算規則22条)
- 分配可能額を超えて配当すると、配当に関わった取締役などが、会社に対して支払う義務を負う(会社法462条)
次の数字は説明のための例です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| その他資本剰余金 | 0円 |
| その他利益剰余金(繰越利益剰余金) | 8,000万円 |
| 自己株式 | 0円 |
| 分配可能額 | 8,000万円 |
| 配当額(準備金の積立が必要な場合は、配当額の10分の1を積み立てる) | 3,000万円 |
子会社が赤字の年が続くと、利益剰余金が減り、分配可能額が足りなくなります。HDの返済計画は、子会社の利益のぶれを織り込んで作ります。
配当の決議と手続き
配当は、原則として株主総会の決議で、配当財産の種類と総額、効力発生日などを定めて行います(会社法454条1項)。HDが100%株主なら決議そのものは簡単ですが、議事録を作り、配当の支払いを銀行口座の記録で残しておくことが大切です。決議の日付と効力発生日は、受取配当の区分(計算期間を通じた完全支配関係)の判定にも関わります。
また、配当には源泉徴収が関わります。100%子会社など、完全子法人株式等や関連法人株式等に当たる株式の配当は、一定の要件のもとで所得税の源泉徴収が不要とされています(所得税法177条、212条3項)。要件に当たるかは、配当の前に顧問税理士と確認します。
② 税務の区分:受取配当等の益金不算入
HDが受け取る配当は、持株割合などで区分が決まります(法人税法23条)。
| 区分 | 主な要件 | 益金不算入の額 |
|---|---|---|
| 完全子法人株式等 | 配当の計算期間を通じて完全支配関係がある | 全額 |
| 関連法人株式等 | 3分の1超を、一定の期間保有している | 配当から負債利子相当額を差し引いた額 |
| その他の株式等 | 5%超3分の1以下 | 50% |
| 非支配目的株式等 | 5%以下 | 20% |
借入のあるHDでは、関連法人株式等の負債利子の控除(原則として配当の4%相当額、支払利子の10%相当額が上限。法人税法23条、同施行令19条)が効いてきます。100%を持ち、計算期間を通じて完全支配関係がある形にしておくのが基本です。
HDが株式を取得した直後の配当は、計算期間の途中から完全支配関係が始まるため、完全子法人株式等にならないことがあります。HD化や買収の計画の段階で、最初の配当をいつ出すかを決めておきます(HDが子会社から受ける配当は非課税?)。
③ 時期:配当は年1〜2回、返済は毎月
銀行への返済は毎月や四半期ごとですが、配当は通常、決算後の定時株主総会で年1回です。取締役会設置会社は、定款で定めれば、事業年度の途中で1回に限り中間配当ができます(会社法454条5項)。
- HDに、少なくとも次の配当までの返済額と経費を手元資金として残す
- 返済の据置期間を設ける、元金の返済を配当の時期に合わせるなど、返済の形を銀行と相談する
- 子会社からの経営指導料など、配当以外の収入も組み合わせる(金額は役務の実態に見合った水準で。HDが子会社から受け取る経営指導料)
④ 配当した後の子会社の財務
配当を出すと、子会社の現預金と純資産が減ります。子会社自身も借入があるなら、子会社の格付けや返済余力に影響します。
| 子会社の項目 | 配当の影響 | 銀行の見方 |
|---|---|---|
| 現預金 | 減る | 手元の資金が薄くなる |
| 純資産・自己資本比率 | 減る | 安全性の評価が下がる |
| 債務償還年数 | 現預金が減る分、長くなる | 返済能力の評価が下がる |
| 許認可の財産要件 | 純資産・現預金が減る | 人材派遣・建設業などでは要件を割るおそれ(業種別に必要な決算書の水準) |
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)で、10年以内を健全としています。配当を出した後の子会社単体と、HDを含むグループ全体の両方でこの水準を確認します。
返済計画の作り方
- 子会社の税引後利益の見込みを、保守的に置く
- 子会社自身の借入の返済と、必要な設備投資を先に差し引く
- 残りから、分配可能額の範囲で配当額を決める
- HDの経費と税金を差し引き、HDの返済に回せる額を出す
- その額で返せる借入額と返済期間を逆算する
借入額の試算の例はHDが株式を買い取る資金の融資で、M&Aの資金の場合はHDでM&A資金を借りるで紹介しています。HDに集めた資金をほかのグループ会社に回す方法はHDから他のグループ会社へ資金を回すで解説しています。
まとめ
- 配当は分配可能額の範囲まで。純資産300万円未満なら配当できず、超えれば取締役が責任を負う
- 計算期間を通じた完全支配関係で全額益金不算入。最初の配当の時期を計画しておく
- 配当は年1〜2回。HDの手元資金と返済の形で時期のずれを埋める
- 配当を出した後の子会社の財務と格付けまで確認する
- 返済計画は、子会社の返済・投資の後に残る額から逆算する
