ホールディングス(HD)があると、M&Aで買った会社をHDの下に兄弟会社として置けるため、既存の事業会社との上下関係や人事の軋轢を避けやすくなります(HDがあるとM&Aで会社を買いやすい)。では、その買収資金は、どの会社が、どんな形で借りればよいのでしょうか。
この記事では、HDが買収資金を借りるコーポレート型と、買収先のキャッシュフローを返済原資にするLBO型の違い、返済の仕組み、銀行の見方を整理します。
- コーポレート型は、HDがグループ全体の信用で借りる。条件は良いが、グループ全体が返済の責任を負う
- LBO型は、受け皿会社が買収先のキャッシュフローを返済原資・担保にして借りる。条件は厳しめ
- HDの返済原資は、買収先と既存の事業会社からの配当。100%保有なら全額益金不算入
- 買収先の分配可能額と配当の時期で、返済が回るかが決まる
- 銀行は、買収後のグループ全体の債務償還年数と、買収価格の妥当性を見る
2つの借り方の違い
| 項目 | コーポレート型(HDが借りる) | LBO型(受け皿会社が借りる) |
|---|---|---|
| 借り手 | HD | 買収のための受け皿会社(SPC) |
| 返済原資 | 既存の事業会社と買収先の配当など、グループ全体 | 主に買収先のキャッシュフロー |
| 担保・保証 | 既存の事業会社の保証、HDの資産、オーナーの保証など | 買収先の株式、買収先の資産、買収先の保証 |
| 財務制限条項 | 比較的ゆるやか | 純有利子負債÷EBITDAなどの厳しい条項が多い |
| 金利・手数料 | 比較的低い | 高めになりやすい |
| 買い手のリスク | 買収が失敗すると、グループ全体に影響 | 原則として受け皿会社と買収先に限られる |
| 向いている規模 | 中小企業のM&Aの多く | 比較的大きな案件、ファンドの買収 |
中小企業のM&Aでは、買い手がすでに事業と取引の実績を持っているため、コーポレート型で借りるのが一般的です。LBOの規模と銀行の考え方はLBOの規模と銀行で解説しています。
HDで借りるときの返済の仕組み
HDには事業がないため、返済原資は傘下の会社からの配当(と経営指導料など)です。
- HDが買収先の株式を100%持ち、配当の計算期間を通じて完全支配関係があれば、受取配当は全額益金不算入(法人税法23条)
- 買収した年度は、計算期間の途中から完全支配関係が始まるため、最初の配当の区分が変わることがある。配当の時期を事前に確認する
- 買収先が配当できるのは分配可能額の範囲まで(会社法461条)。買収直後に大きな配当を出すと、買収先の財務が弱くなる
配当による返済の注意点は配当で返済する融資の注意点で詳しく解説しています。
買収後に合併する選択肢
受け皿会社やHDが買収先と合併すれば、買収先のキャッシュフローで直接返せるようになります。ただし、合併すると、買収先の取引先や許認可、従業員への影響が生じ、HDの下に兄弟会社として置くメリットも失われます。買収先の過去の税務リスクも引き継ぐため、合併するかどうかは、税務・法務の確認をしたうえで判断します(合併は過去の税務リスクも引き継ぐ)。
銀行が見るポイント
- 買収後のグループ全体の返済力:著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)で、10年以内を健全としています。買収先を含めたグループ全体で計算します
- 買収価格の妥当性:のれんが大きいほど、買収の失敗時の損失が大きい。のれんの減損と銀行の見方はのれんの減損と銀行
- デューデリジェンスの結果:簿外債務、未払いの残業代、税務リスクなど
- 買収後の統合の計画:誰が経営し、どう利益を出すのか
- 返済期間:M&Aの融資の返済期間の考え方はM&A融資の返済期間
次の数字は説明のための例です。
| 項目 | 既存の事業会社 | 買収先 | グループ(HDの借入を含む) |
|---|---|---|---|
| 借入金 | 2億円 | 1億円 | 6億円(HDの買収資金3億円を含む) |
| 現預金 | 1億円 | 5,000万円 | 1.5億円 |
| 経常利益+減価償却費-法人税等 | 4,000万円 | 2,500万円 | 6,500万円 |
| 債務償還年数 | 2.5年 | 2年 | 約6.9年 |
グループ全体で10年以内に収まれば、銀行に説明しやすくなります。買収資金の融資全般はM&Aの買収資金の融資やM&Aの融資を銀行はどう見るかも参考にしてください。
買収先の借入と保証の付け替え
買収先に借入がある場合、その多くには、売り手である前の経営者の個人保証が付いています。売り手は、株式を譲渡した後も保証が残ることを嫌うため、クロージングまでに保証をどう外すかを、買収先の取引銀行と協議する必要があります。
| 対応の方法 | 内容 | 注意 |
|---|---|---|
| 保証の解除 | 買収先の財務と、買い手グループの信用を示して、保証を外してもらう | 銀行の判断。時間がかかることがある |
| HDなどの保証に替える | 前の経営者の個人保証を、HDや買い手の会社の保証に替える | グループの保証が増え、リスクの分離が弱まる |
| 借り換え | HDの買収資金とあわせて、買収先の借入を買い手側の銀行で借り換える | 期限前返済の手数料、担保の付け替え |
保証の扱いは、売り手との株式譲渡契約の条件にも関わります。M&Aでの保証の外し方はM&Aでの経営者保証の解除で解説しています。
使える公的な制度
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 日本政策金融公庫 事業承継・集約・活性化支援資金(中小企業事業) | 事業の承継・集約を行う人が対象。後継者不在などで承継が難しい会社から承継する場合の利率引下げや、株式等(のれん代を含む)で担保を取らない場合の引下げ措置がある |
| 信用保証協会 経営承継準備関連保証など | 経営承継円滑化法の認定を受けた中小企業者の、M&Aでの株式・事業用資産の取得など。限度額2億8,000万円 |
公的な制度の全体はM&Aで使える公的な融資制度や日本政策金融公庫の事業承継の融資制度とHDで解説しています。
まとめ
- 中小企業のM&Aは、HDがグループ全体の信用で借りるコーポレート型が一般的
- LBO型は買収先のキャッシュフローで返す。条件は厳しく、規模の大きい案件向き
- HDの返済原資は配当。100%保有と、最初の配当の時期を確認する
- 買収後の合併は、キャッシュフローを直接使える反面、HD体制のメリットとリスクの分離を失う
- 銀行はグループ全体の債務償還年数と、買収価格、デューデリジェンスの結果を見る
