吸収合併では、消える会社(被合併法人)の資産・負債だけでなく、権利義務のすべてが合併法人に移ります。そこには、まだ表に出ていない申告漏れや、源泉所得税の徴収漏れ、未払いの残業代のような過去のリスクも含まれます。
グループ内の合併だと「自分たちの会社なのだから、中身はわかっている」と考えがちです。しかし、実際に調べてみると、別の会社で処理していた取引や、昔の担当者の経理で問題が残っていることは珍しくありません。この記事では、合併で何が引き継がれるのか、合併の前に何を確認するのかを整理します。
- 合併法人は、被合併法人の権利義務を包括的に承継する(会社法750条1項)。国税の納付義務も承継する(国税通則法6条)
- 過去の申告の誤りは、合併後に合併法人への税務調査で指摘され、加算税・延滞税も合併法人の負担になる
- グループ内の合併でも、申告・源泉・消費税・役員との取引・労務・保証は事前に確認する
- 問題が見つかったら、合併の前に修正申告などで解消する。清算しても税務リスクは消えない
- 銀行は、合併後に問題が出て返済原資が減ることを最も嫌う。確認した内容を説明できるようにしておく
合併で引き継がれるもの
吸収合併の効力が生じると、合併法人は、被合併法人の権利義務を包括的に承継します(会社法750条1項)。個々の資産や契約を移す手続きをしなくても、すべてが移る代わりに、知らない債務も一緒に移るのが合併の特徴です。
| 方法 | 承継の範囲 | 過去の税務リスク |
|---|---|---|
| 吸収合併 | すべて(包括承継) | 合併法人が引き継ぐ |
| 事業譲渡 | 契約で選んだ資産・負債・契約 | 原則として譲渡した会社に残る |
| 清算 | ― | 清算後も調査の対象。清算人・株主に第二次納税義務 |
税務で確認すること
国税の更正などができる期間は、原則として法定申告期限から5年、偽りその他不正の行為がある場合は7年です(国税通則法70条)。被合併法人についても、この期間の申告が確認の対象です。
| 確認項目 | 典型的な問題 |
|---|---|
| 法人税の申告 | 売上の計上時期、在庫の計上漏れ、根拠の薄い経費、交際費の区分 |
| 役員給与 | 定期同額でない報酬、過大な退職金、役員への経済的利益(社宅・車両・私的な経費) |
| 役員との貸借 | 役員への貸付金の利息、役員借入金の扱い、低額での資産の譲渡 |
| 源泉所得税 | 外注先が実質は従業員、報酬の源泉漏れ、役員への経済的利益の源泉漏れ |
| 消費税 | 課税区分の誤り、インボイスの保存、免税・簡易課税の判定 |
| 繰越欠損金 | 青色申告の継続、欠損金の発生の経緯(引き継げるか、使って問題ないか) |
| グループ間取引 | 低額・高額の取引、寄附金とされるもの、経営指導料の根拠 |
特に、役員との取引とグループ会社間の取引は、同族のグループで指摘されやすい項目です。会社ごとに担当者が違うと、同じ取引を一方は売上、一方は費用として処理していない、といった不整合が起きます。
欠損金を引き継ぐ予定なら、その欠損金がどのように生じたかも確認します。過大な役員退職金や架空に近い経費で作られた欠損金は、引継ぎの要件を満たしても、合併後の調査で否認されるおそれがあります(合併で欠損金は引き継げる?)。
税務以外で確認すること
- 保証・担保:被合併法人が他社や個人の借入を保証していないか。合併後は合併法人の保証債務になります
- 労務:未払残業代、社会保険の加入漏れ、退職給付の未計上
- 契約:合併を解除事由や承諾事項とする条項(チェンジ・オブ・コントロール条項など)
- 許認可:合併で承継できるか、事前の届出や認可が必要か
- 訴訟・クレーム:係争中の案件、過去の事故
契約の確認はHD化と取引先との契約、許認可はHD化と許認可で扱っています。
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事業承継・M&A支援を見る問題が見つかったときの対処
- 合併の前に修正申告・納付をする:被合併法人の名前で修正申告し、加算税・延滞税を含めて解消します。調査の通知を受ける前に自主的に修正すれば、加算税が軽くなる場合があります
- 合併の時期を見直す:問題の大きさによっては、合併を急がず、決算を一度きれいにしてから進めます
- 存続会社を見直す:問題のある会社を存続会社にするか消滅会社にするかで、合併後の事業や許認可への影響が変わることがあります。ただし、存続会社をどちらにしても、税務リスクが合併後の会社に残ることに変わりはありません
- 合併以外の方法を検討する:必要な資産だけを移したいなら、事業譲渡や資産の売買を検討します(流通税や譲渡益の課税は増えます)
清算でもリスクは消えない
「問題のある会社は合併せずに清算すればよい」という考えもありますが、清算結了後も、未納の国税がある限り調査の対象となりえます。残余財産を分配した清算人や分配を受けた株主は、未納の国税について第二次納税義務を負うことがあります(国税徴収法34条)。清算人には清算結了から10年の帳簿保存義務もあります(会社法508条)。清算と合併の比較は複数の法人を合併で整理するで解説しています。
銀行の見え方
銀行にとって、合併後に過去の追徴税額が出てくることは、返済原資の予期しない流出です。追徴が大きければ、合併後の会社の自己資本が減り、格付けが下がることもあります。著書のモデルでは、債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))10年以内を健全の目安としていますが、追徴税額の分だけ現預金が減れば、この年数は延びます。
逆に、合併の前に確認を行い、問題を解消したうえで合併したことを説明できれば、銀行にとってはグループの管理が行き届いているという評価材料になります。確認の結果は簡単な報告書にまとめ、合併後の貸借対照表と返済計画とあわせて銀行に示しましょう。
調査の範囲の目安
| 会社の状況 | 確認の範囲 |
|---|---|
| 同じ担当者が長年、両社の経理・申告をしている | 主要な申告書と役員・グループ間取引の確認 |
| 担当者や顧問税理士が会社ごとに違う | 過去5年の申告書、帳簿のサンプル確認、源泉・消費税 |
| 過去に買収した会社、休眠していた会社 | M&Aに準じた税務・財務・労務の確認 |
M&Aの場面での確認の手法は、税務デューデリジェンスが参考になります。
まとめ
- 合併法人は、被合併法人の権利義務と国税の納付義務を包括的に承継する
- 過去5年(不正があれば7年)の申告が、合併後に合併法人への調査で指摘されうる
- グループ内の合併でも、申告・源泉・消費税・役員取引・グループ間取引・労務・保証を確認する
- 問題は合併の前に修正申告などで解消する。清算してもリスクは消えない
- 確認と解消の経緯を銀行に説明できれば、グループ管理の評価につながる
