組織再編税制

合併で欠損金は引き継げる?支配関係5年の判定と引継ぎ制限の要件

赤字の会社を黒字の会社に合併すれば、赤字の会社の繰越欠損金を使って黒字の会社の法人税を減らせる。これは半分正しく、半分は誤りです。欠損金を引き継げるのは適格合併に限られ、さらに、両社の関係が生じてからの期間によっては、欠損金の一部が引き継げなくなります。

この記事では、合併で欠損金を引き継ぐための要件と、引継ぎが制限されるケースを、条文に沿って整理します。適格合併そのものの要件は組織再編税制の基本をご覧ください。

この記事の結論
  • 欠損金を引き継げるのは適格合併だけ(法人税法57条2項)。非適格合併では引き継げない
  • 適格合併でも、支配関係(50%超)が「合併法人の合併事業年度開始の日の5年前の日」または設立の日から続いていなければ、支配関係が生じる前の欠損金などは引き継げない(同条3項)
  • 5年は親族グループの持株を合算して判定。100%である必要はない
  • 制限は、みなし共同事業要件を満たすか、時価純資産超過額の特例(施行令113条)で外せることがある
  • 合併法人側の欠損金にも同じ趣旨の制限がある(同条4項)。逆さ合併は否認のリスクも

欠損金を引き継げる基本の要件

内国法人を合併法人とする適格合併が行われた場合、被合併法人の合併の日前10年以内に開始した事業年度の未処理欠損金額は、合併法人の欠損金とみなされます(法人税法57条2項)。ただし、被合併法人がその欠損金の生じた事業年度について確定申告書を提出していることなどが前提です(同法施行令112条1項)。

欠損金の引継ぎの判定の流れ
欠損金のある会社を合併する
↓ 適格合併か?(いいえ → 引き継げない)
両社に支配関係(50%超)があるか
↓ ない(共同事業要件による適格合併)→ 制限なし
支配関係が5年前の日(または設立の日)から続いているか
↓ 続いている → 制限なし/続いていない → 次へ
みなし共同事業要件または時価純資産の特例に当たるか
↓ 当たる → 制限なし(または緩和)
当たらない → 一部の欠損金が切り捨て支配関係前の欠損金+支配関係後の特定資産の譲渡等損失から成る部分

支配関係5年の判定

何を基準に5年を数えるか

基準日は、合併法人の、合併の日を含む事業年度の開始の日の5年前の日です(法人税法57条3項、同法施行令112条4項1号)。合併の日の5年前ではない点に注意してください。

たとえば3月決算の合併法人が、2027年1月1日を効力発生日として合併する場合、合併事業年度の開始の日は2026年4月1日で、その5年前の日は2021年4月1日です。この日から合併まで継続して支配関係があれば、制限はかかりません。

親族グループの合算で判定する

支配関係は、個人株主であれば、その人と親族など特殊の関係のある個人の持株を合わせて50%超かで判定します(法人税法2条12号の7の5、同法施行令4条の2第1項)。100%である必要はありません。親族の範囲は完全支配関係の適格要件で解説しています。

ケース状況5年の判定
1父が10年前からA社・B社とも100%を保有○ 制限なし
2父がA社を10年前から、B社を2年前に第三者から買収× B社の支配関係は2年。制限の対象
3父がA社を、子がB社を、それぞれ8年前から保有○ 親族合算で8年
43年前に父がB社を設立し、設立時からA社・B社とも父が100%○ 設立の日から継続(例外に当たらない限り)
5A社の事業を移すために、2年前にB社を新設してA社から事業を移した△ 新設法人の例外(施行令112条4項2号)に当たるかを確認

ケース3のように、親族グループで両社の過半数を5年以上持っていれば、その後に株式移転でHDを作り、HDの下の子会社同士で合併する場合でも、5年の要件は満たしえます。逆に、親族以外の株主が多数を持っていた時期があれば、親族グループが過半数を持った時から数え直しになります。

制限がかかると何が切り捨てられるか

5年の要件を満たさず、みなし共同事業要件にも当たらない場合、次の欠損金は引き継げません(法人税法57条3項各号)。

  1. 支配関係事業年度前(最後に支配関係を持った日を含む事業年度より前)に生じた欠損金
  2. 支配関係事業年度以後に生じた欠損金のうち、支配関係が生じる前から持っていた資産(特定資産)の譲渡や評価替えなどによる損失から成る部分

つまり、「欠損金を持った会社を買ってきて、すぐに合併して使う」ことはできないようになっています。

制限を外す2つの方法

  • みなし共同事業要件(同法施行令112条3項):事業関連性と、規模(5倍以内)・規模の変動(2倍以内)、または支配関係前からの特定役員の引継ぎ。中身は共同事業要件とはで解説しています
  • 時価純資産超過額の特例(同法施行令113条):支配関係事業年度の前事業年度の終了の時に、被合併法人の時価純資産が簿価純資産を上回り、その差額(含み益)が支配関係前の欠損金以上であれば、制限はかかりません。差額が欠損金より少なければ、足りない部分だけが制限されます。適用には、確定申告書への明細の添付と、時価の算定資料の保存が必要です
株主構成の整理から、承継・売却まで一緒に考えます

M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。

事業承継・M&A支援を見る

合併法人側の欠損金も制限される

制限は被合併法人の欠損金だけではありません。合併法人自身の欠損金にも、支配関係が5年続いていない場合などに、同じ趣旨の制限があります(法人税法57条4項)。「赤字の会社を存続会社にすれば制限を避けられる」という発想は成り立ちません。休業中の赤字会社を存続会社にして黒字会社を吸収した、いわゆる逆さ合併を否認した公表裁決もあります。

また、特定資産の含み損を合併後に実現させて損失を使う行為も、特定資産譲渡等損失額の損金不算入(同法62条の7)で制限されます。

要件を満たしても否認されることがある

条文の要件を形式的に満たしていても、欠損金を使うことが主な目的で、経済的な合理性を欠く再編は、組織再編成に係る行為計算否認(法人税法132条の2)で否認されることがあります。完全支配関係のある会社の間の適格合併で欠損金の引継ぎが否認された事例として、TPR事件(東京地裁令和元年6月27日判決、東京高裁令和元年12月11日判決)がよく知られています。詳しくは組織再編の行為計算否認をご覧ください。

欠損金の「質」にも注意が必要です。過大な役員退職金や根拠の薄い経費で作られた欠損金は、引継ぎ自体ができても、使い方によっては税務調査で目立ちます。不動産の売却益に一度に充てるような使い方をするなら、欠損金が生じた経緯を説明できる資料を整えておきましょう。

欠損金の使い方と銀行の見え方

控除の限度と期間

引き継いだ欠損金は、合併法人の合併事業年度から使えます。繰越期間は、平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金は10年です。中小法人等は所得の全額まで控除でき、それ以外の法人は所得の50%が限度です(法人税法57条1項・11項、タックスアンサーNo.5762)。

銀行は欠損金をどう見るか

欠損金を引き継ぐ合併は、裏を返せば、赤字の会社の純資産の悪化も一緒に引き継ぐ合併です。被合併法人が債務超過なら、合併法人の自己資本は減ります。銀行はまず合併後の貸借対照表で自己資本と債務償還年数を見ます。著書のモデルでは、債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))10年以内が健全の目安です。

一方で、欠損金の引継ぎで当面の法人税が減れば、そのぶん返済に回せる現預金は増えます。「自己資本は一時的に減るが、税金の減少で何年で回復するか」を数字で示すと、銀行の理解を得やすくなります。会計処理の具体例は吸収合併の会計処理と仕訳の例で扱っています。M&Aで買った会社の欠損金はM&Aと繰越欠損金、条文と裁決の詳細は合併で繰越欠損金を引き継げる場合・引き継げない場合も参考にしてください。

まとめ

  • 欠損金を引き継げるのは適格合併だけ。被合併法人の確定申告などの要件もある
  • 支配関係(50%超)が、合併事業年度開始の日の5年前の日または設立の日から続いていなければ、支配関係前の欠損金などは引き継げない
  • 5年は親族グループの持株を合算して判定する。100%である必要はない
  • 制限は、みなし共同事業要件または時価純資産超過額の特例で外せることがある
  • 合併法人側の欠損金にも制限がある。要件を満たしても、行為計算否認と欠損金の質に注意する

よくある質問

欠損金の引継ぎ制限の「5年」は、100%の関係が5年必要ですか?
いいえ。基準は完全支配関係(100%)ではなく、支配関係(50%超)です(法人税法57条3項)。個人株主の場合は、その人と親族などの持株を合わせて50%超かを判定します。親族グループで両社の株式の過半数を5年以上持っていれば、その間に持株割合が変わっていても、5年の要件は満たします。
設立から3年の会社でも、制限なく欠損金を引き継げることはありますか?
あります。被合併法人または合併法人の設立の日から継続して支配関係がある場合は、5年に満たなくても原則として制限はかかりません。ただし、支配関係のある他の会社の事業を移すために新設した会社などには例外があり(法人税法施行令112条4項)、その場合は制限がかかることがあります。
引き継いだ欠損金は、いつから、どれだけ使えますか?
合併の日を含む合併法人の事業年度から使えます。欠損金は、生じた事業年度ごとに10年間(平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じたもの)繰り越すことができ、引き継いだ欠損金は被合併法人で生じた事業年度に応じて合併法人の事業年度に割り当てられます。中小法人等は所得の全額まで控除でき、それ以外の法人は所得の50%が限度です(タックスアンサーNo.5762)。

※本記事は2026年10月30日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

RELATED

あわせて読みたい

組織再編税制

会社分割の税務:適格分割の要件と、不動産を移すときの流通税・株価の注意

会社分割は、分社型と分割型で株主の課税が違い、適格要件にも分割特有の項目があります。法人税法2条12号の11と施行令4条の3の要件、100%グループ内で不動産を移すときに不動産取得税の非課税要件が別である点、登録免許税、分割後の株価への影響を解説します。

2026年10月30日
組織再編税制

グループ通算制度は中小企業に必要?HD化で検討するときのメリット・デメリットと判断基準

HD体制の100%グループは、グループ通算制度を選ぶと子会社の赤字と親会社の黒字を通算できます。一方で、15%の軽減税率の特例が使えない、時価評価・欠損金の切捨て、e-Tax義務と連帯納付、やめにくさなどの負担もあります。中小企業の判断基準を解説します。

2026年10月30日
組織再編税制

グループ内で資産を移すと税金は?譲渡損益の繰延べ(法人税法61条の11)の仕組みと注意点

HDと子会社など100%グループ内で土地・建物・株式を売買すると、譲渡損益は法人税法61条の11で繰り延べられます。対象になる資産と1,000万円基準、繰り延べた損益が戻る事由、寄附金・受贈益の扱い、消費税や登記費用、銀行の見方を解説します。

2026年10月30日
FREE CONSULTATION

決算書と融資のこと、
まずはお気軽にご相談ください。

初回のご相談は無料です。まずは担当者がお話を伺い、内容に応じて担当税理士や金融機関出身のコンサルタントがご提案します。