HD化や複数法人の整理で使う合併・会社分割・株式交換・株式移転には、組織再編税制というルールがかかります。同じ合併でも、税務上の適格要件を満たすかどうかで、会社にも株主にも、まったく違う課税が起きます。
この記事では、組織再編税制の全体像を、「誰に」「何の」課税が起きるのか、という視点で整理します。個別の要件は、完全支配関係の適格要件や共同事業要件で詳しく扱います。
- 組織再編税制は、資産の移転を時価で課税するか(非適格)、簿価で引き継ぐか(適格)を決めるルール
- 課税の当事者は移転する会社・受け入れる会社・株主の3者。非適格だと、会社の譲渡損益と株主のみなし配当が同時に起きうる
- 適格要件は、①完全支配関係(100%)、②支配関係(50%超)、③共同事業の3類型+対価要件(株式以外を交付しない)
- 中小企業のグループ内の再編は、多くが①で判定する。親族の持株の合算と、再編後の関係の継続が要
- DES(個人の貸付金の株式化)は適格現物出資にならず、債務消滅益が出ることがある
組織再編税制とは何を決めるルールか
会社の資産や負債を別の会社に移すとき、原則は時価で譲渡したものとして扱われ、含み益があれば課税されます。合併で消える会社も、資産を合併法人に時価で譲渡したものとされます(法人税法62条1項)。
ただし、グループ内の再編のように、実質的に資産への支配が続いているものまで毎回課税すると、再編が進みません。そこで、一定の要件を満たす再編を適格組織再編成とし、資産・負債を帳簿価額で引き継いだものとして、課税を繰り延べます(合併は法人税法62条の2)。
3者の課税関係:合併の場合
いちばんわかりやすい吸収合併で、3者の課税を比べます。
| 当事者 | 適格合併 | 非適格合併 |
|---|---|---|
| 消える会社(被合併法人) | 資産・負債を簿価で引き継ぐので、譲渡損益は出ない(法人税法62条の2) | 資産・負債を時価で譲渡したものとされ、含み益に法人税(同法62条) |
| 存続する会社(合併法人) | 簿価で受け入れ、資本金等の額・利益積立金額も引き継ぐ。欠損金も引き継げる(制限あり、同法57条2項・3項) | 時価で受け入れる。差額は資産調整勘定(税務上ののれん)などに(同法62条の8)。欠損金は引き継げない |
| 株主 | 旧株の簿価を新株に付け替え、課税なし | 利益積立金に相当する部分はみなし配当(同法24条1項1号、所得税法25条1項1号)。金銭等の交付があれば株式の譲渡損益も |
非適格合併で特に重いのが、個人株主のみなし配当です。消える会社に利益の蓄積があると、合併の対価として株式しか受け取っていなくても、その一部が配当とされ、配当所得として総合課税されます。手元に現金がないのに税金だけがかかる、という事態になります。
適格要件の3つの類型
適格要件は、再編の当事者の関係によって3つに分かれます。合併を例にすると次のとおりです(法人税法2条12号の8、同法施行令4条の3第2項〜4項)。
| 類型 | 当事者の関係 | 主な要件 |
|---|---|---|
| ① 完全支配関係 | 100%の親子、または同一の者(個人なら親族を含む)による100%の兄弟 | 対価要件、再編後の完全支配関係の継続見込み |
| ② 支配関係 | 50%超100%未満の関係 | ①に加え、従業者のおおむね80%以上の引継ぎ、主要な事業の継続見込み |
| ③ 共同事業 | 50%以下、または資本関係がない | 事業関連性、規模(5倍以内)または特定役員の引継ぎ、従業者80%、事業継続、支配株主による株式の継続保有 |
会社分割は、②でさらに「主要な資産・負債の移転」が加わり、分割型分割には④独立して事業を行うための分割(スピンオフ)の類型もあります(同法2条12号の11)。株式交換・株式移転も、ほぼ同じ構造です(同法2条12号の17・12号の18)。
対価要件:株式以外を交付しない
どの類型でも、原則として合併法人などの株式以外の資産を交付しないことが求められます。ただし、次のものは交付しても対価要件に反しません(同法2条12号の8かっこ書き)。
- 株主への剰余金の配当として交付される金銭
- 反対株主の株式買取請求に基づく対価
- 合併の直前に合併法人が被合併法人の株式の3分の2以上を持っている場合に、ほかの株主に交付する金銭など
少数株主に現金を払って整理しながら合併する、といった設計は、この例外の範囲かどうかを確認します。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る中小企業の実務での押さえどころ
オーナー一族が株式を持つグループの再編は、ほとんどが①の完全支配関係で判定します。押さえるべき点は3つです。
- 親族の持株を合算して100%か:個人株主は、その人と親族など特殊の関係のある個人の持株を合わせて判定します(同法施行令4条の2第2項、4条1項)。親族以外の株主が1株でもいると、①に当たりません
- 再編後も関係が続く見込みか:同一の者による完全支配関係なら、合併後もその者と合併法人の間で完全支配関係が続く見込みが必要です。合併直後に株式を親族以外に売る予定があると、要件を外れることがあります
- 無対価で行う場合の持株割合:株式を交付しない無対価合併は、兄弟会社の間では、両社の株主の持株割合が等しい場合などに限って適格になります(同法施行令4条の3第2項2号)
さらに、適格かどうかとは別に、欠損金の引継ぎには支配関係が5年続いているかなどの制限があり(合併で欠損金は引き継げる?)、形式的に要件を満たしていても租税回避と見られれば否認される規定(同法132条の2)があります。否認の事例は組織再編の行為計算否認で解説します。
DESは組織再編税制の外にある
HD化とあわせてよく検討されるDES(デット・エクイティ・スワップ:オーナーの会社への貸付金を株式に変える方法)は、組織再編税制の適格現物出資には当たりません。適格現物出資は、現物出資をする側が法人であることが前提だからです(法人税法2条12号の14)。
- 個人がDESをすると、会社は債権を時価で受け入れ、その時価だけ資本金等の額が増えます(法人税法施行令8条1項1号)
- 受け入れた債権は、会社自身への債権なので混同で消え、借入金(額面)との差額が債務消滅益として益金になります
- 例:額面5,000万円の役員借入金、会社は債務超過で債権の時価が1,000万円と評価されると、差額4,000万円が債務消滅益。繰越欠損金があれば相殺できます
- 債権を額面で評価してDESをしても、税務上の時価が額面より低ければ、差額は債務消滅益と認定されえます。評価額の根拠を残すことが大切です
- 法人が子会社に対して持つ債権の現物出資は、完全支配関係などがあれば適格現物出資となり、簿価で引き継がれます。合理的な再建計画による非適格のDESでは、取得した株式の取得価額は時価とされます(法人税基本通達2-3-14)
DESの実務と銀行の評価は、役員借入金は相続財産:DESで解消する方法とDESの実務:銀行の評価・手続きをご覧ください。
銀行は再編をどう見るか
銀行にとって、組織再編は「借入人が変わる」「担保や保証の付け替えが必要になる」出来事です。適格・非適格の違いは、銀行にとっても重要です。非適格で多額の法人税や株主の税金が出ると、その分だけグループの現預金が減り、返済余力が落ちるからです。
再編を計画したら、適格要件の判定結果、税金の試算、再編後のグループの貸借対照表と返済計画をそろえて、早めに説明しましょう。説明の進め方はHD化を金融機関にどう説明するかで扱っています。
まとめ
- 組織再編税制は、資産の移転を時価で課税するか、簿価で引き継ぐかを決めるルール
- 非適格になると、会社の譲渡損益と、株主のみなし配当が同時に起きうる
- 適格要件は、完全支配関係・支配関係・共同事業の3類型と、対価要件の組み合わせ
- グループ内の再編は、親族合算での100%、再編後の継続見込み、無対価の条件を確認する
- DESは組織再編税制の外。債権の時価が額面を下回れば債務消滅益が出る
既存の組織再編の適格要件の解説もあわせてご覧ください。
