役員借入金をDES(デット・エクイティ・スワップ、債務の株式化)で解消すると、決算書の負債が減り、純資産が増えます。「債務超過が解消して、銀行の評価が上がる」と期待されることが多い手法です。
ただし、銀行の評価がどこまで変わるかは、その金融機関が役員借入金をもともとどう見ていたかで違います。手続きを誤ると現物出資の効力や登記で手間取り、資本金を増やしすぎると税務上の不利益も生じます。この記事では、DESの実務を、銀行の評価、手続き、資本金の注意点の順に整理します。DESの税金と相続の論点は役員借入金は相続財産:DESで解消する方法と注意点で解説しています。
- DESで負債が減り純資産が増える。自己資本比率が上がり、債務超過が解消することもある
- ただし、役員借入金をもともと自己資本に近いものと見ていた金融機関では、評価の変化は小さいことがある。事業計画とセットで説明する
- 手続きは、株主総会の決議、現物出資の検査役の調査(弁済期到来の金銭債権なら省略可)、登記と登録免許税
- 資本金が1億円を超えると、中小法人の税制上の扱いを失い、外形標準課税の対象にもなりうる
- 株式会社は増資額の2分の1まで資本準備金にできる。増えすぎた資本金は減資で調整する方法もある
銀行の評価はどう変わるか
決算書の数字は良くなる
DESをすると、役員借入金という負債が資本(純資産)に替わります。例えば、次のような会社です(数字は説明のための例)。
| 項目 | DESの前 | DESの後(役員借入金8,000万円をDES) |
|---|---|---|
| 総資産 | 3億円 | 3億円 |
| 銀行借入 | 2億円 | 2億円 |
| 役員借入金 | 8,000万円 | 0円 |
| その他の負債 | 4,000万円 | 4,000万円 |
| 純資産 | △2,000万円(債務超過) | 6,000万円 |
| 自己資本比率 | マイナス | 20% |
債務超過は、金融機関の格付けで大きな減点要因です。債務超過が解消すれば、新しい融資の審査で前向きに見てもらえる材料になります。債務超過と融資の関係は債務超過の会社は融資を受けられる?、自己資本比率の目安は自己資本比率の目安で解説しています。
もともと自己資本に近いと見られていることもある
一方で、代表者からの借入金は、かつて金融庁の金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)で、一定の場合に自己資本相当額に加味できるという考え方が示されていました。マニュアルは2019年12月に廃止されましたが、会社と経営者を一体で見る考え方は、多くの金融機関の実務に残っています。
役員借入金をすでに自己資本に近いものとして見ていた金融機関では、DESをしても実質的な評価はあまり変わらないことがあります。その場合でも、決算書の形が整うこと、相続で役員借入金の返済を求められるリスクが消えることは、評価の安定につながります。役員借入金の見られ方は役員借入金は融資でどう見られる?を参照してください。
債務償還年数への影響
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)で、10年以内を健全な目安としています。役員借入金を借入金に含めて計算する金融機関なら、DESで分子が小さくなり、債務償還年数は短くなります。
ただし、DESで債務消滅益が生じて法人税がかかると、その期の法人税等が増え、現預金も減ります。DESの効果を見込むなら、課税を含めたその期の決算見込みを金融機関に示します。
「形だけのDES」と見られないために
DESは決算書の見た目を変える手法でもあるため、金融機関は「数字を整えただけではないか」という目でも見ます。DESの目的(承継の準備、財務の健全化)と、DES後の事業計画・資金繰り計画をセットで説明すると、評価につながりやすくなります。財務の改善全般は銀行の格付けを上げる方法も参考にしてください。
手続きの流れ
| 手順 | 内容 | 根拠など |
|---|---|---|
| 1. 株価の算定 | 新しく発行する株式の価格を決める。安すぎる・高すぎると株主間の利益移転になる | 株価算定書 |
| 2. 募集事項の決定 | 発行する株式の数、払込金額、現物出資の内容と価額などを決める。非公開会社は原則として株主総会の特別決議 | 会社法199条、309条2項5号 |
| 3. 現物出資の調査 | 原則は裁判所が選任する検査役の調査。弁済期が到来している金銭債権を、その帳簿価額以下で出資する場合は省略できる | 会社法207条1項・9項5号 |
| 4. 給付(出資) | オーナーが会社に債権を給付し、債権は混同で消滅する | — |
| 5. 変更登記 | 資本金の額、発行済株式の総数などの変更登記。効力発生から2週間以内 | 会社法915条 |
| 6. 税務 | 異動届出書の提出。債務消滅益の計上と申告 | — |
検査役の省略と弁済期
役員借入金には返済期限が決まっていないことが多くあります。検査役の調査を省略するには、出資する債権の弁済期が到来していることが必要です。返済期限の定めがない場合の扱いや、会社が期限の利益を放棄して弁済期を到来させる方法などは、司法書士と事前に確認します。帳簿価額以下で出資すること、登記の際に会計帳簿などの添付が必要になることも押さえておきます。
登録免許税
資本金を増やす登記には、増加した資本金の額の1,000分の7(最低3万円)の登録免許税がかかります(登録免許税法別表第一24号(1)ニ)。資本金の増加額を抑えると、登録免許税も抑えられます。
資本金が増えすぎるときの注意点
DESで資本金が大きく増えると、税務上の扱いが変わります。
| 資本金の額 | 主な影響 |
|---|---|
| 1,000万円以上 | 新しく設立した会社では、基準期間がない事業年度でも消費税の免税にならない(消費税法12条の2。既存の会社のDESでは通常影響しない) |
| 1,000万円超 | 法人住民税の均等割の区分が上がる(資本金等の額などで判定) |
| 1億円超 | 法人税の中小法人の扱いを受けられない:軽減税率(年800万円以下の所得に15%)、欠損金の繰越控除の限度(中小法人以外は所得の50%まで)、交際費の定額控除などが使えない。事業税の外形標準課税の対象になりうる |
特に、1億円を超えると影響が大きくなります。DESをきっかけに大企業並みの課税を受けるのは本末転倒です。
資本準備金に回す
株式会社では、払込み・給付を受けた額の2分の1を超えない額を、資本金ではなく資本準備金にできます(会社法445条2項・3項)。例えば、8,000万円をDESするなら、資本金を4,000万円、資本準備金を4,000万円とする設計です。ただし、直接「その他資本剰余金」に全額を計上することはできません。
法人住民税の均等割は、資本金だけでなく資本金等の額などで判定されるため、資本準備金に回しても負担が変わらない場合がある点に注意します。
減資で調整する
すでに資本金が大きくなっている場合は、減資(資本金の額の減少)で資本金をその他資本剰余金などに振り替える方法があります。株主総会の決議(会社法447条)と、官報公告などの債権者保護手続(会社法449条。異議を述べる期間は1か月以上)が必要です。金融機関も債権者として公告を目にするため、事前に説明しておきます。外形標準課税については、減資によって対象から外れる場合の見直しも行われているため、減資の前に適用関係を確認します。
資本金の額と融資の関係は資本金の額は融資に影響する?でも解説しています。
HD体制でのDES
ホールディングス(HD)の下にある事業会社でDESをすると、オーナーが事業会社の株式を直接持つことになり、HDの100%保有が崩れます。受取配当の全額益金不算入やグループ法人税制の扱いが変わるおそれがあるため、HDを通した整理を比べて検討します。詳しくは役員借入金は相続財産:DESで解消する方法と注意点を参照してください。
まとめ
- DESで負債が減り純資産が増え、債務超過の解消や自己資本比率の改善につながる
- 役員借入金をもともと自己資本に近いと見ていた金融機関では評価の変化は小さいことがある。目的と事業計画をセットで説明する
- 手続きは、株主総会の決議、検査役の調査(弁済期到来の金銭債権は省略可)、変更登記と登録免許税
- 資本金が1億円を超えると中小法人の扱いを失う。資本準備金への計上で資本金の増加を抑える
- 増えすぎた資本金は減資で調整できるが、債権者保護手続と外形標準課税の確認が必要
