オーナーが自社株を手放すとき、誰に売るかで税金は大きく変わります。ホールディングス(HD)など別の法人に売れば、株式の譲渡所得として20.315%の分離課税です。一方、株式を発行した事業会社自身に買い取ってもらうと、受け取った金額の大部分がみなし配当となり、総合課税で最高約55%の税率帯に入ることがあります。
この記事では、みなし配当の仕組みと計算、HDに売る場合との税額の差、相続で取得した株式を発行会社に売る特例(租税特別措置法9条の7)との違い、法人株主の扱い、資本の払戻しをめぐる最高裁判決までを整理します。
- HD(別の法人)に売る:株式の譲渡所得。売却益に20.315%の分離課税
- 発行会社に売る(自己株式の取得):資本金等の額を超える部分がみなし配当(所得税法25条1項5号)。総合課税で、金額が大きいと実効税率が約2倍になることもある
- 相続で取得した株式なら、期限内に発行会社へ売るとみなし配当にならない特例がある(措法9条の7)。取得費加算(措法39条)も使える
- 法人株主のみなし配当は益金不算入の対象だが、自己株式取得が予定された株式の除外や、100%グループ内の扱いに注意
- 資本剰余金と利益剰余金の両方を原資とする配当の計算は、最高裁令和3年3月11日判決で一部の政令が無効とされた
売り先で変わる税金
みなし配当の仕組み
法人が自己株式を取得し、株主に金銭などを交付した場合、その金額のうち、取得された株式に対応する資本金等の額を超える部分は、配当とみなされます(所得税法25条1項5号)。残りの部分は、株式の譲渡収入として扱われます(租税特別措置法37条の10第3項。国税庁 No.1536)。
- みなし配当 = 交付された金額 - 取得された株式に対応する資本金等の額
- 譲渡収入 = 取得された株式に対応する資本金等の額 → これから取得費を引いた額が譲渡所得
創業者が設立時に出資した株式なら、資本金等の額も取得費も小さいため、受け取った金額のほとんどがみなし配当になります。みなし配当は、支払いの際に所得税等が源泉徴収され、確定申告で総合課税の配当所得として精算します。配当控除はありますが、金額が大きいと所得税45%・住民税10%の税率帯に入ります。
税額の試算
設立時に5,000万円を出資した創業者が、1,000株すべてを5億円で売る場合を比べます(ほかの所得はない、取得費は出資額と同じ、という仮の条件。復興特別所得税を含む概算)。
| 項目 | HDに売る | 発行会社に売る |
|---|---|---|
| 受け取る金額 | 5億円 | 5億円 |
| みなし配当 | なし | 4億5,000万円(5億円-資本金等の額5,000万円) |
| 譲渡所得 | 4億5,000万円(5億円-取得費5,000万円) | 0円(譲渡収入5,000万円-取得費5,000万円) |
| 税額(概算) | 約9,142万円(20.315%) | 約2億1,700万円(配当控除後の総合課税) |
| 実効税率(受取額に対して) | 約18.3% | 約43% |
同じ5億円を受け取っても、税額は2倍以上の差になります。発行会社による自己株式の取得が、オーナーのExitの方法として選ばれにくい理由です。HDへの売却との比較はオーナーのExit:HDへの株式売却と退職金の比較、自己株式取得のみなし配当の詳細は自己株式の買取りとみなし配当でも解説しています。
なお、HDに売る場合も、価格は売り手の立場で判定した税務上の時価が基準です(所得税法59条、所得税基本通達59-6)。最高裁令和2年3月24日第三小法廷判決(平成30年(行ヒ)第422号)は、譲受人の立場を理由に配当還元価額で評価した原審を破棄しています(裁判所 裁判例情報)。
相続で取得した株式を発行会社に売る特例
相続の場面では、発行会社への売却でもみなし配当にならない特例があります(国税庁 No.1477)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 相続・遺贈で財産を取得し、納付すべき相続税額がある個人 |
| 対象の株式 | 相続税の課税対象となった非上場株式 |
| 売り先 | その株式を発行した会社 |
| 期間 | 相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで |
| 手続き | 譲渡の日までに、発行会社へ「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を提出。発行会社は翌年1月31日までに税務署へ提出 |
| 効果 | みなし配当課税を行わず、全額を株式の譲渡所得の収入金額とする(20.315%) |
| 根拠 | 租税特別措置法9条の7、同法施行令5条の2 |
同じ期間内の譲渡なら、支払った相続税のうち売った株式に対応する部分を取得費に加算する特例(租税特別措置法39条)も使えます。取得費加算はHDなど発行会社以外への売却にも使えますが、9条の7の特例は発行会社への売却に限られます。
HDへの売却と、9条の7の特例の使い分け
| 比較 | 生前にHDへ売る | 相続後に発行会社へ売る(9条の7) |
|---|---|---|
| 税金 | 譲渡所得20.315% | 譲渡所得20.315%(取得費加算あり) |
| 売る人 | オーナー本人 | 相続人 |
| 資金の出し手 | HD(借入が多い) | 発行会社(分配可能額の範囲内。会社法461条) |
| 相続税 | 株式は現金に変わって相続財産になる | 株式のまま相続財産になり、相続税の納税資金を売却で用意する |
| 向く場面 | 生前に承継と現金化を終えたい | 相続税の納税資金が足りない |
9条の7の特例は、相続税の納税資金を用意するための制度です。生前の承継設計として、HDへの売却とどちらを使うかを比べます。特例の詳細は相続した株式を発行会社に売る特例、相続税の納税資金の準備は非上場株式の相続税の納税資金で解説しています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る法人株主の場合
HD体制では、HDが事業会社の株式を持っています。HDが持つ事業会社株式を事業会社に買い取らせる(事業会社の自己株式取得)場合、HDの側でも資本金等の額を超える部分はみなし配当になりますが、受取配当等の益金不算入の対象になります(法人税法23条)。
ただし、次の点に注意が必要です。
- 自己株式として取得されることが予定されている株式を取得し、その予定どおり取得された場合のみなし配当は、益金不算入の対象から除かれます(法人税法23条3項)
- HDと事業会社の間に完全支配関係がある場合、自己株式の取得によるHD側の譲渡損益は計上せず、資本金等の額で調整する扱いがあります(法人税法61条の2第17項)
法人株主の自己株式の譲渡は、税務上の扱いが個人と大きく異なります。グループ内での資本の動かし方はグループ法人税制とはで取り上げます。
資本の払戻しとみなし配当:最高裁令和3年3月11日判決
HDなどの法人株主が、子会社から資本剰余金を原資とする配当(資本の払戻し)を受けた場合も、みなし配当の計算が必要です。
最高裁令和3年3月11日第一小法廷判決(令和元年(行ヒ)第333号)は、利益剰余金と資本剰余金の両方を原資とする剰余金の配当について、その全体が資本の払戻しに当たるとしたうえで、払戻しに対応する資本金等の額を計算する法人税法施行令の規定のうち、減少した資本剰余金の額を超える金額を算出する限度で、法の委任の範囲を超えて無効としました(裁判所 判決全文(PDF))。この判決を受けて、その後の税制改正で計算方法が見直されています。
グループ内で資本剰余金を動かすときは、どの剰余金を原資にするかで、配当とみなされる金額が変わります。決議の前に、原資と計算を確認します。
まとめ
- HDに売れば譲渡所得20.315%、発行会社に売ればみなし配当(総合課税)。同じ金額でも税額が2倍以上違うことがある
- みなし配当は、交付された金額のうち資本金等の額を超える部分(所得税法25条1項5号)
- 相続で取得した株式は、期限内に発行会社へ売ればみなし配当にならない特例(措法9条の7)。取得費加算(措法39条)も使える
- 法人株主のみなし配当は益金不算入の対象だが、予定された自己株式取得の除外や100%グループ内の扱いに注意
- 資本剰余金と利益剰余金の両方を原資とする配当は、最高裁令和3年判決を踏まえて計算を確認する
