オーナーの勇退と後継者

家族をHDの役員にするときの注意点:報酬・責任・承継の準備

ホールディングス(HD)を作ると、「配偶者や子どもをHDの役員にしよう」という話がよく出ます。HDは現場の仕事が少ないので、家族を役員にしやすく、報酬も払いやすいように見えるからです。

しかし、家族を役員にするときは、報酬が職務の対価として説明できるか、取締役としての責任を本人が理解しているか、そしてそれが承継の準備として意味のある配置になっているか、の3点を整理しておく必要があります。この記事では、家族をHDの役員にするときの考え方を順に見ていきます。

この記事の結論
  • 家族への役員報酬は、職務の実態があってはじめて損金になる。HDでの担当と記録を決めておく
  • 取締役になれば、名前だけでも会社と第三者に対する責任(会社法423条・429条)を負う
  • 同族会社では、家族が使用人兼務役員になれない場合や、役員でなくてもみなし役員になる場合がある
  • 後継者は、事業会社の取締役 → 事業会社の代表 → HDの役員と、承継の段階に合わせて配置する
  • 銀行は家族役員を「保証人候補」「経営の継続性」の観点で見る。役割と報酬の根拠を説明できるようにする

家族を役員にする前に決めておくこと

HDの役員構成は、株主の意向をそのまま映すものです。オーナーが代表、後継者が取締役、配偶者が取締役または監査役、という形がよく見られます。取締役会を置かない株式会社なら取締役1人でも設立できるため(会社法326条1項)、家族を役員にするかどうかは、必要だからそうするという理由で決めるべきです。

家族の役員配置の例(承継の途中段階)
HD
代表取締役オーナー(グループの方針・資金・人事)
取締役後継者(グループ全体を学ぶ)
取締役配偶者(資金管理・経理確認)
事業会社
代表取締役後継者(現場の経営)
取締役オーナー(非常勤・助言)
取締役幹部社員
オーナーはHDで全体を見て、事業会社の経営は後継者と幹部に任せていく形。役員にする家族には、それぞれ担当を決める

決めておきたいのは次の3点です。

決めること内容記録に残すもの
担当する職務資金管理、経理の確認、グループ会社の管理、不動産の管理など職務分掌、取締役会・株主総会の議事録
報酬の額職務の重さ、勤務の頻度、HDの収益に見合う額株主総会での報酬総額の決議、配分の決定書
就任の時期と期間承継の段階に合わせる。任期も定款で決める登記、任期管理の一覧

報酬:職務の実態がないと損金にならない

役員に払う給与は、定期同額給与などの形で払っていても、職務の内容、会社の収益、使用人の給与、同業他社の水準などに照らして不相当に高額な部分は損金になりません(法人税法34条2項、同法施行令70条1号)。家族役員の場合、この「職務の内容」が問われます。

特にHDは、事業会社に比べて業務が少ないことが多く、オーナー以外の家族にどんな職務があるのかを説明しにくい立場です。HDに不動産の管理、グループの資金管理、子会社の経理の確認といった実際の機能を持たせ、家族がそれを担っている、という形でなければ、報酬の根拠は弱くなります。HDの収入源が配当だけで、家族への報酬でHDが赤字になっている形は、HD化後のオーナーの役員報酬で解説したとおり、税務上も効率がよくありません。

同族会社で気をつける2つのルール

  • 使用人兼務役員になれない場合がある:同族会社では、持株割合が一定以上の役員(その人の株主グループが10%超、本人と配偶者で5%超など)は、部長などの肩書があっても使用人兼務役員になれません(法人税法34条6項、同法施行令71条1項5号)。その人の給与は全額が役員給与となり、使用人分としての賞与は損金になりません
  • 役員でなくても役員とみなされる場合がある:同族会社の使用人で、一定の株式を持ち、会社の経営に従事している人は、役員とみなされます(法人税法2条15号、同法施行令7条)。後継者の子に株式を移した後、肩書は社員のまま経営判断をしている場合は、役員給与のルールが適用される可能性があります

家族への給与の考え方は、家族への給与と不動産所得や配偶者の役員報酬と退職金でも扱っています。

責任:名前だけの取締役でも責任を負う

役員になるということは、会社法上の責任を負うということです。

  • 会社に対する責任:任務を怠って会社に損害を与えた場合(会社法423条1項)
  • 第三者に対する責任:職務について悪意または重大な過失があり、第三者に損害を与えた場合(同法429条1項)

取締役は、ほかの取締役の業務執行を監視する義務も負うと考えられています。「名前を貸しているだけで、何も知らない」は、責任を免れる理由になりにくいのです。家族を役員にするなら、本人に責任の範囲を説明し、取締役会の資料に目を通してもらう、重要な決定には参加してもらう、という運用が必要です。

また、HDが株式買取りなどで借入をしている場合、銀行から家族役員に連帯保証を求められることがあります。経営者保証ガイドラインのもとでは、経営に関与していない第三者の保証は原則として求めない運用になっていますが、役員として経営に関与していると、保証人の候補として見られます。保証の範囲は事前に確認しておきましょう。

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承継の準備:段階に合わせて役員に就ける

家族をHDの役員にする最大の意味は、承継の準備です。後継者が、事業会社の現場だけでなく、グループ全体の資金、銀行との関係、子会社間の役割分担を学ぶ場になるからです。

段階後継者の配置オーナーの配置目的
1. 準備事業会社の取締役事業会社の代表+HDの代表現場の経営を任せ始める
2. 経営の引継ぎ事業会社の代表+HDの取締役HDの代表(事業会社は非常勤)銀行・資金・人事を一緒に見る
3. 完了HDの代表HDの取締役または相談役最終的な意思決定を移す

株式(財産)の承継と、経営の承継は、時期をずらしてもかまいません。当事務所の支援事例でも、本業と不動産業を営む経営者が、不動産業を子に承継したいというご相談で、当面は金融機関との折衝に本人も関わりつつ、経済面の承継は先に終えたいというご要望がありました。HD化による組織再編、種類株式の設計、定款の整備、株価算定、金融機関の紹介を行い、地方銀行から1.6億円を調達して承継を実現しています。このように、議決権と役職をどう配置するかで、親が経営に関与し続けながら財産の承継を先に進めることもできます。種類株式の使い方はHDで種類株式を使うをご覧ください。

なお、事業承継税制(非上場株式等の贈与税の納税猶予)など、後継者が一定期間役員であることを要件とする制度もあります。使う可能性があるなら、贈与の予定時期から逆算して就任時期を決めておきます。HDが資産管理会社に当たると使えない場合もあるため、HDと事業承継税制もあわせてご確認ください。

銀行は家族役員をどう見るか

銀行は、役員構成を「経営の継続性」と「保証人」の観点から見ます。

  • 後継者が役員にいるか:経営者に万一のことがあったとき、誰が経営を引き継ぐのかが見えると、長期の融資を判断しやすくなります
  • 家族役員の報酬がグループの利益を圧迫していないか:家族への報酬が多いと、グループ全体の経常利益が薄くなり、返済余力の評価が下がります。著書のモデルでは、債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))10年以内を健全の目安としています
  • 後継者を誰がどう育てるか:決算報告の場に後継者が同席すると、銀行との関係の引継ぎが進みます

後継者の育て方と役職の作り方は、後継者のポジションづくりで詳しく扱っています。

まとめ

  • 家族をHDの役員にするなら、担当する職務と報酬の根拠を先に決め、記録を残す
  • HDの業務が少ないと、家族役員の報酬は過大役員給与と見られやすい。HDに実際の機能を持たせる
  • 同族会社では、使用人兼務役員になれない、みなし役員になる、という2つのルールに注意する
  • 名前だけの取締役でも、会社法上の責任と、銀行からの保証の要請がありうる
  • 後継者は、承継の段階に合わせて事業会社とHDの役員に配置し、銀行との関係も一緒に引き継ぐ

よくある質問

配偶者をHDの取締役にして、毎月報酬を払っても問題ありませんか?
職務の実態があれば問題ありません。役員報酬が損金になるかは、職務の内容や会社の収益などに照らして判断されます(法人税法34条2項、同法施行令70条1号)。経理の確認、資金管理、取締役会への出席など、実際に担う職務を決め、議事録や業務の記録を残しておくことが大切です。出社もせず職務の説明もできない場合は、報酬の全部または一部が損金にならないおそれがあります。
名前だけの取締役でも、責任を問われることはありますか?
あります。取締役は、任務を怠って会社に損害を与えれば会社に対して(会社法423条)、職務について悪意や重大な過失があれば第三者に対して(同法429条)、損害賠償責任を負います。ほかの取締役の業務執行を監視する義務もあるため、名前を貸しているだけという言い分は通りにくいと考えておくべきです。
後継者の子は、HDと事業会社のどちらの役員にするのがよいですか?
段階によって変わります。現場を任せるなら事業会社の取締役から始め、経営を任せる段階で事業会社の代表に、グループ全体の資金や人事を学ぶ段階でHDの取締役に、という順番が一般的です。事業承継税制など、後継者の役員としての期間が要件になる制度もあるため、承継の時期から逆算して就任させます。

※本記事は2026年10月30日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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