吸収合併をしたら、合併法人の帳簿にはどんな仕訳が入るのか。消えた会社の帳簿はどう閉じるのか。合併の手続きと同じくらい、決算の現場では会計処理が問題になります。
この記事では、オーナー一族のグループ内で行う合併を前提に、兄弟会社の合併、親会社が子会社を合併する場合、債務超過で欠損金のある会社の合併の3つの仕訳例を、税務上の扱いとあわせて解説します。数字はいずれも説明のための例です。
- グループ内の合併は、会計上は共通支配下の取引。消える会社の資産・負債を適正な帳簿価額で引き継ぐ
- 兄弟会社の合併では、株主資本を払込資本として受けるか、内訳(資本・利益剰余金)をそのまま引き継ぐ処理ができる
- 親会社が子会社を合併すると、子会社株式(抱合せ株式)と受け入れた純資産の差額が、会計上は抱合せ株式消滅差損益になる。税務上は資本金等の額で調整し、課税されない
- 債務超過の会社を合併すると、合併法人の純資産が減る。欠損金の引継ぎとの損得を数字で比べる
- 被合併法人は合併の日の前日で事業年度が終わり、最後の申告が必要
会計処理の基本:共通支配下の取引
同じ株主(オーナー一族やHD)が支配する会社同士の合併は、企業結合会計基準では共通支配下の取引として処理します。グループ全体で見れば資産の支配者は変わらないため、消える会社の資産・負債は時価ではなく、合併直前の適正な帳簿価額で引き継ぎます。
税務上も、適格合併であれば資産・負債を帳簿価額で引き継ぎ(法人税法62条の2)、被合併法人の資本金等の額と利益積立金額を引き継ぎます(同法施行令8条1項5号、9条1項2号)。会計と税務の処理が近いのが、グループ内の適格合併の特徴です。
仕訳例1:兄弟会社の合併(黒字の会社)
父が100%持つA社が、同じく父が100%持つB社を吸収合併し、B社の株主(父)にA社の株式を交付するケースです。B社の合併直前の貸借対照表は、現預金3,000万円、資本金300万円、利益剰余金2,700万円とします。
B社の帳簿を閉じる仕訳(合併の日)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 資本金 | 300万円 | 現預金 | 3,000万円 |
| 利益剰余金 | 2,700万円 |
A社の受入仕訳(株主資本の内訳を引き継ぐ処理)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現預金 | 3,000万円 | その他資本剰余金 | 300万円 |
| 利益剰余金 | 2,700万円 |
B社の資本金300万円をA社の資本金にするか資本剰余金にするかは、合併契約で定めます。資本金を増やすと登録免許税(増加した資本金の0.15%、最低3万円)がかかるうえ、資本金が1億円を超えると中小法人の特例が使えなくなるので、資本剰余金で受けることが多いです。
税務上の処理は、資本金等の額が300万円、利益積立金額が2,700万円増えます。会計と一致していれば、別表五(一)での調整は通常は必要ありません。
合併後の資金の使い道
引き継いだ現預金の使い道は、主に次の3つです。
- 消える会社の役員だった人への退職金(実質的な退職であることと、適正額の根拠が必要)
- 合併法人がHDの子会社なら、HDへの配当(完全子法人株式等の要件を満たせば益金不算入)
- 合併法人の事業資金、借入の返済
退職金は、同じ年や近い年に他の会社からも退職金を受け取ると、所得税の退職所得控除の計算で勤続期間の重複部分が調整されます。支給の時期は事前に設計しておきます。
仕訳例2:親会社が100%子会社を合併する
HDまたは親会社P社が、100%子会社S社を吸収合併するケースです。親子の合併は、株式を交付しない無対価合併が一般的です。P社が持つS社株式の帳簿価額は1,000万円、S社の純資産は、資産6,000万円、負債2,500万円、資本金1,000万円、利益剰余金2,500万円とします。
P社の受入仕訳(会計)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 諸資産 | 6,000万円 | 諸負債 | 2,500万円 |
| 子会社株式(抱合せ株式) | 1,000万円 | ||
| 抱合せ株式消滅差益(特別利益) | 2,500万円 |
会計上は、受け入れた純資産3,500万円と抱合せ株式1,000万円の差額2,500万円を、抱合せ株式消滅差益として特別利益に計上します。
税務上の処理では、この差益は益金になりません。適格合併では、S社の利益積立金額2,500万円を引き継ぎ、資本金等の額は「S社の資本金等の額1,000万円−抱合せ株式の帳簿価額1,000万円」で増減なし、となります(法人税法施行令8条1項5号)。会計上の特別利益2,500万円は、別表四で減算し、別表五(一)で利益積立金額として調整します。抱合せ株式の帳簿価額とS社の資本金等の額が違えば、その差額は資本金等の額で調整します。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る仕訳例3:債務超過で欠損金のある会社を合併する
A社が、兄弟会社のC社を吸収合併するケースです。C社は収益の悪い物件を抱えており、合併直前の貸借対照表は、現預金200万円、土地・建物5,000万円、借入金9,000万円、資本金100万円、利益剰余金△3,900万円(純資産△3,800万円の債務超過)、税務上の繰越欠損金は3,500万円とします。
A社の受入仕訳(株主資本の内訳を引き継ぐ処理)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現預金 | 200万円 | 借入金 | 9,000万円 |
| 土地・建物 | 5,000万円 | その他資本剰余金 | 100万円 |
| 利益剰余金 | 3,900万円 |
| 合併の効果 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 要件を満たせば、繰越欠損金3,500万円を引き継ぎ、A社の利益と相殺できる |
| メリット | 不動産は合併なら不動産取得税が非課税。登録免許税は固定資産税評価額の0.4% |
| デメリット | A社の純資産が3,800万円減る。自己資本比率と格付けに影響 |
| デメリット | 借入金9,000万円も承継。金融機関との条件・保証の調整が必要 |
欠損金を引き継げるかは、支配関係5年などの判定が先です(合併で欠損金は引き継げる?)。銀行は合併後の貸借対照表で自己資本の減少を見るので、欠損金の引継ぎによる税金の減少で、何年で自己資本が回復するのかを試算して説明します。
被合併法人の最後の申告
被合併法人の事業年度は、合併の日の前日で終わります(法人税法14条1項2号)。この最後事業年度の確定申告は、合併法人が被合併法人の納税義務を承継して行います。期中の合併なら、通常の決算と同じように、期首から合併の日の前日までの決算を締めます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 最後事業年度 | 事業年度開始の日から合併の日の前日まで |
| 申告期限 | 最後事業年度終了の日の翌日から2か月以内 |
| 申告する人 | 合併法人(被合併法人の納税義務を承継) |
| 合併法人の申告 | 合併の日を含む事業年度の確定申告に、合併契約書の写しと主要な事項の明細書を添付(法人税法施行規則35条) |
申告と届出の全体は合併の税務申告・届出書類とスケジュールで整理しています。
まとめ
- グループ内の合併は共通支配下の取引。帳簿価額で引き継ぐ
- 兄弟会社の合併は、株主資本の内訳を引き継ぐ処理ができ、利益剰余金は配当原資にもなる
- 親子の合併は、会計上の抱合せ株式消滅差損益を、税務上は資本金等の額と利益積立金額で調整する
- 債務超過の会社の合併は、欠損金の引継ぎと自己資本の減少を数字で比べる
- 被合併法人は合併の日の前日で事業年度が終わる。最後の申告を忘れない
税務上の資本と利益の区分は、合併の後の配当や自己株式の取得でも効いてきます。グループ内の資金の動かし方はグループ法人税制とはもあわせてご覧ください。
