組織再編税制

合併の税務申告・届出書類とスケジュール:会社法の手続きから最後の申告まで

吸収合併は、契約書に判を押せば終わり、ではありません。会社法の手続き(株主総会、債権者保護手続、登記)と、税務の手続き(最後の申告、添付書類、届出)を、決められた順番と期限で進める必要があります。特に債権者保護手続は最低1か月かかり、スケジュール全体を左右します。

この記事では、オーナー一族のグループ内で行う吸収合併を前提に、標準的なスケジュールと、税務署などへの申告・届出書類を整理します。合併の会計処理は吸収合併の会計処理と仕訳の例をご覧ください。

この記事の結論
  • 準備から効力発生まで4〜6か月が目安。債権者保護手続(1か月以上)が最も時間を食う
  • 会社法の流れは、合併契約 → 事前開示 → 株主総会の特別決議 → 債権者保護手続 → 効力発生 → 2週間以内に登記 → 事後開示
  • 被合併法人は合併の日の前日で事業年度が終わり、合併法人が2か月以内に最後の申告をする
  • 合併法人の確定申告書には、合併契約書の写しと主要な事項の明細書を添付する
  • 異動届出書、消費税の消滅届出書、地方税・社会保険・給与支払事務所の届出も忘れない

標準的なスケジュール

吸収合併の流れ(4〜6か月)
準備適格要件・欠損金の確認、銀行との事前協議、専門家の手配
↓ 1か月目
合併契約の締結・事前開示取締役会(取締役)の決定、合併比率の算定
↓ 2か月目
株主総会の特別決議・債権者保護手続の開始官報公告と個別催告
↓ 1か月以上
効力発生日2週間以内に合併の登記
↓ 2か月以内
被合併法人の最後の申告・各種届出事後開示は6か月備置き
時期会社法の手続き税務・その他
準備(0か月)存続会社・効力発生日の決定適格要件・欠損金の判定、税務の確認、銀行への事前説明
1か月目合併契約の締結(会社法749条)、事前開示書類の備置き(782条・794条)合併比率の算定、許認可の承継の確認
2か月目株主総会の特別決議(783条・795条、309条2項)、債権者保護手続の開始(789条・799条)取引先・従業員への説明
3〜4か月目債権者の異議申述期間の満了(1か月以上)金融機関の同意、保証・担保の変更の準備
4か月目効力発生(750条)、2週間以内に登記(921条)、事後開示(801条)不動産の所有権移転登記
5〜6か月目―被合併法人の最後の申告、異動届出書など

株主総会を省略できる場合

合併法人が被合併法人の株式の90%以上を持つ場合は、被合併法人の株主総会を省略できます(略式合併、会社法784条1項)。また、合併法人が交付する対価の額が、合併法人の純資産額の5分の1以下であれば、原則として合併法人の株主総会を省略できます(簡易合併、同法796条2項)。ただし、被合併法人が債務超過で合併差損が生じる場合などは、簡易合併は使えません。オーナー一族だけが株主のグループなら、総会を開いても負担は小さいので、議事録をきちんと残すことを優先しましょう。

債権者保護手続

合併する両社は、それぞれ、合併をすること、相手方の商号・住所、計算書類に関する事項、債権者が1か月以上の期間内に異議を述べることができる旨を官報に公告し、知れている債権者には個別に催告します(会社法789条2項、799条2項)。定款で公告方法を日刊新聞紙または電子公告と定めている会社が、官報とあわせてその方法でも公告すれば、個別の催告は省略できます(同法789条3項、799条3項)。

官報の掲載には申込みから日数がかかるため、公告の日から1か月以上の期間をとると、実際には2か月近くを見ておく必要があります。

株主構成の整理から、承継・売却まで一緒に考えます

M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。

事業承継・M&A支援を見る

税務の申告と届出

被合併法人の最後事業年度の申告

被合併法人の事業年度は、その事業年度の開始の日から合併の日の前日までで終わります(法人税法14条1項2号)。この最後事業年度の確定申告は、終了の日の翌日から2か月以内に、被合併法人の納税義務を承継した合併法人が行います(国税通則法6条)。法人住民税・事業税、消費税の申告も同じです。

合併法人の確定申告書の添付書類

合併法人の、合併の日を含む事業年度の確定申告書には、通常の添付書類に加えて、次のものを添付します(法人税法施行規則35条)。

添付書類内容
合併契約書の写し組織再編成に係る契約書
組織再編成に係る主要な事項の明細書移転した資産・負債の種類、適格・非適格の区分、株式の保有関係など
完全支配関係がある法人との関係を系統的に示した図事業等の概況に関する書類に含める(同条1項5号)
欠損金の明細書(別表七関係)被合併法人の欠損金を引き継ぐ場合。引継制限の計算や時価純資産の特例を使う場合は、その明細も

被合併法人の利益積立金額・資本金等の額を引き継いだ結果は、別表五(一)に反映します。様式の番号や付表は年度によって変わるので、申告する年度の「法人税申告書の記載の手引」で確認してください。

届出書

届出提出先・時期
異動届出書(合併の旨)合併法人・被合併法人の納税地の所轄税務署へ、異動後速やかに(国税庁:異動事項に関する届出)
合併による法人の消滅届出書(消費税)被合併法人が課税事業者だった場合に、合併法人が速やかに提出(国税庁:合併による法人の消滅届出手続)
給与支払事務所等の廃止届出書など被合併法人の給与支払事務所を閉じる場合
地方税の異動届都道府県税事務所・市町村へ
社会保険・労働保険被合併法人の適用事業所の全喪、従業員の資格の移動

消費税の確認ポイント

合併法人の消費税の納税義務は、被合併法人の基準期間の課税売上高も加味して判定します(消費税法11条)。合併前は免税事業者だった合併法人が、合併で課税事業者になることがあります。簡易課税制度などの選択の届出は、事業者ごとのものなので、被合併法人の選択は引き継がれません。合併の後の事業年度でどの方式を使うかは、合併の前に決めておきます。合併と消費税の関係は組織再編と消費税で扱います。

登記と流通税

項目内容
合併の登記効力発生から2週間以内。存続会社の変更登記と消滅会社の解散登記
登録免許税(商業登記)存続会社の変更登記は増加した資本金の額の0.15%(資本金が増えなくても最低3万円)。消滅会社の解散登記は別途
不動産の所有権移転登記固定資産税評価額の0.4%
不動産取得税合併による取得は非課税(地方税法73条の7第2号)
抵当権の変更登記借入の承継に伴い必要。司法書士報酬も含めて見積もる

不動産の流通税は組織再編と不動産取得税・登録免許税で詳しく扱います。

金融機関との関係はスケジュールの最初に

スケジュールで見落とされがちなのが、金融機関の同意です。被合併法人の借入は合併で合併法人に移りますが、金銭消費貸借契約には、合併を期限の利益喪失事由や事前承諾事項としているものがあります。合併契約を結ぶ前に、各行に計画を説明し、保証・担保・条件の扱いを決めておくのが安全です。銀行との協議は、債権者保護手続の個別催告より前に済ませておきましょう。説明のポイントは複数の法人を合併で整理するとHD化を金融機関にどう説明するかをご覧ください。

まとめ

  • 吸収合併は準備から4〜6か月。債権者保護手続と官報の掲載が時間を食う
  • 会社法の手続きは、合併契約・事前開示・株主総会・債権者保護・登記・事後開示の順
  • 被合併法人の最後の申告は、合併の日の前日までの事業年度について、合併法人が2か月以内に行う
  • 合併法人の申告書には、合併契約書の写しと主要な事項の明細書を添付する
  • 異動届出・消費税の消滅届出・地方税・社会保険の届出と、金融機関の同意も計画に入れる

登録免許税や手続きの費用全般は、印紙税・登録免許税とM&Aも参考にしてください。

よくある質問

合併の準備から効力発生まで、どのくらいの期間が必要ですか?
グループ内の吸収合併でも、適格要件の確認や銀行との事前協議を含めて4〜6か月程度を見ておくのが一般的です。会社法上、債権者が異議を述べることができる期間は1か月以上必要で(会社法789条2項、799条2項)、官報公告の掲載までの日数も加わるため、ここが最も時間を要します。決算期との関係も考えて効力発生日を決めます。
合併したら、税務署にはどんな書類を出しますか?
主に、被合併法人の最後事業年度の確定申告書、合併法人の確定申告書に添付する合併契約書の写しと組織再編成に係る主要な事項の明細書(法人税法施行規則35条)、異動届出書です。消費税の課税事業者だった被合併法人については、合併による法人の消滅届出書を合併法人が提出します。給与支払事務所の廃止や、地方税の届出も必要です。
合併の官報公告で、決算の内容が公になってしまいますか?
債権者保護手続の公告では、各社の計算書類に関する事項(最終の貸借対照表の要旨など、または決算公告の掲載場所)を示す必要があるため、貸借対照表の内容は公になります。債務超過や赤字も見えるので、取引先や他の金融機関に知られることを前提に準備します。

※本記事は2026年10月30日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

RELATED

あわせて読みたい

組織再編税制

会社分割の税務:適格分割の要件と、不動産を移すときの流通税・株価の注意

会社分割は、分社型と分割型で株主の課税が違い、適格要件にも分割特有の項目があります。法人税法2条12号の11と施行令4条の3の要件、100%グループ内で不動産を移すときに不動産取得税の非課税要件が別である点、登録免許税、分割後の株価への影響を解説します。

2026年10月30日
組織再編税制

グループ通算制度は中小企業に必要?HD化で検討するときのメリット・デメリットと判断基準

HD体制の100%グループは、グループ通算制度を選ぶと子会社の赤字と親会社の黒字を通算できます。一方で、15%の軽減税率の特例が使えない、時価評価・欠損金の切捨て、e-Tax義務と連帯納付、やめにくさなどの負担もあります。中小企業の判断基準を解説します。

2026年10月30日
組織再編税制

グループ内で資産を移すと税金は?譲渡損益の繰延べ(法人税法61条の11)の仕組みと注意点

HDと子会社など100%グループ内で土地・建物・株式を売買すると、譲渡損益は法人税法61条の11で繰り延べられます。対象になる資産と1,000万円基準、繰り延べた損益が戻る事由、寄附金・受贈益の扱い、消費税や登記費用、銀行の見方を解説します。

2026年10月30日
FREE CONSULTATION

決算書と融資のこと、
まずはお気軽にご相談ください。

初回のご相談は無料です。まずは担当者がお話を伺い、内容に応じて担当税理士や金融機関出身のコンサルタントがご提案します。