組織再編を検討するとき、法人税の適格要件には目が向いても、消費税は後回しになりがちです。しかし消費税は、法人税のグループ法人税制や適格要件とは別のルールで動きます。同じ「不動産を別の会社に移す」でも、合併・会社分割なら課税対象外、事業譲渡や売買なら建物に消費税がかかる、というように、方法によって結果が大きく変わります。
さらに、再編の後には「どの会社が課税事業者になるか」という納税義務の判定が必要です。この記事では、HD(ホールディングス)化と組織再編で使う主な方法ごとに、消費税の扱いを整理します。
- 合併・会社分割は包括承継で、資産の移転は一般に不課税。法人税の適格・非適格は関係しない
- 事業譲渡・売買は資産ごとに判定。建物・設備・のれんは課税、土地・売掛金は非課税
- 株式移転・株式交換・株式譲渡で動くのは株式。株式の譲渡は非課税で、法人株主は課税売上割合に影響する
- 再編の後は納税義務の特例(合併・分割、資本金1,000万円以上の新設法人、特定新規設立法人)で課税事業者かを判定する
- 簡易課税の届出は引き継がれない。インボイスの登録も会社ごとに確認する
方法ごとの消費税の扱い
| 方法 | 消費税の扱い | 実務のポイント |
|---|---|---|
| 合併 | 不課税(包括承継) | 被合併法人の納税義務・届出の扱いを確認 |
| 会社分割(分社型・分割型) | 不課税(包括承継) | 適格・非適格を問わない |
| 事業譲渡 | 資産ごとに課税・非課税 | 対価を資産ごとに区分。負債の引受けも対価 |
| 売買(HDへの不動産の売却など) | 資産ごとに課税・非課税 | グループ法人税制で法人税が繰り延べられても、消費税はかかる |
| 現物出資 | 資産の譲渡等に当たる(消費税法施行令2条1項2号) | 対価は取得する株式の時価(同45条2項3号) |
| 株式移転・株式交換・株式譲渡 | 株式の譲渡は非課税 | 法人株主は課税売上割合の分母に影響 |
合併・会社分割:包括承継なので不課税
消費税の「資産の譲渡」は、資産の同一性を保ったまま他人に移転させることで、売買・交換・現物出資などをいいます。国税庁のタックスアンサー(No.6145)は、相続による移転は資産の譲渡に当たらないとしています。合併や会社分割も、会社法の手続きで資産・負債・契約関係をまとめて引き継ぐ包括承継であり、一般に資産の譲渡等に当たらないものとして扱われています。
注意したいのは、法人税の非適格の合併・分割でも、消費税は不課税のままという点です。法人税と消費税は別々に判定します。
事業譲渡・売買:資産ごとに判定
事業譲渡は、個々の資産を譲渡する契約を束ねたものです。建物・設備・車両・在庫・のれん(営業権)は課税、土地・売掛金・有価証券は非課税として、資産ごとに判定します。対価が区分されていないときは、時価の比率で按分します(消費税法施行令45条3項)。詳しくは事業譲渡の消費税で解説しています。
HD体制で多いのは、事業会社の不動産をHDに売る場面です。100%グループ内なら法人税の譲渡損益は繰り延べられますが(グループ内で資産を移す:譲渡損益の繰延べ)、消費税にはその仕組みがありません。建物には消費税がかかり、売った側は納税、買ったHDは課税事業者であれば仕入税額控除の対象になります。
株式移転・株式交換:動くのは株式
株式移転や株式交換でHDを作る場合、事業会社の資産は動かず、動くのは株主が持つ株式です。個人のオーナーは事業者として株式を譲渡するわけではないので、消費税の問題は通常生じません。法人の株主が株式を譲渡する場合は、株式の譲渡は非課税で、課税売上割合の計算では譲渡対価の5%を分母に含めます(消費税法施行令48条5項)。
再編の後の「納税義務の判定」
課税対象かどうかと並んで大切なのが、再編の後にどの会社が課税事業者になるかです。消費税は、原則として基準期間(法人なら前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下なら納税義務が免除されますが、組織再編には特例があります(国税庁タックスアンサーNo.6531)。
| 場面 | 判定の特例 | 根拠 |
|---|---|---|
| 吸収合併・新設合併 | 被合併法人の課税売上高も使って判定 | 消費税法11条、基通1-5-6 |
| 新設分割・吸収分割 | 分割親法人・分割法人の課税売上高も使って判定 | 消費税法12条、基通1-5-6の2 |
| 新設法人(株式移転のHDなど) | 事業年度開始の日の資本金が1,000万円以上なら免除なし | 消費税法12条の2 |
| 特定新規設立法人 | 資本金1,000万円未満でも、課税売上高5億円超の会社などに50%超を支配されていれば免除なし | 消費税法12条の3 |
株式移転で作ったHDの判定
株式移転で作るHDは新設法人です。HDの資本金は株式移転計画で決めますが、資本金が1,000万円以上なら、設立から2事業年度は課税事業者になります。資本金1,000万円未満でも、HDの株主であるオーナー個人とその親族、またはオーナーが支配する会社などの課税売上高が5億円を超えるといった要件に当たると、特定新規設立法人として課税事業者になります。
HDの収入は、子会社からの配当(不課税)、経営指導料(課税)、不動産の賃料(住宅は非課税、事務所・店舗は課税)が中心です。課税事業者になるかどうかで、経営指導料や家賃の設計、子会社から受ける請求書(インボイス)の扱いも変わります。経営指導料の決め方はHDが子会社から受け取る経営指導料で解説しています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る届出書とインボイスの注意点
組織再編では、消費税の届出の効力が引き継がれない点に注意が必要です。
- 簡易課税制度選択届出書:被合併法人・分割法人が出していても、合併法人・分割承継法人には効力が及ばない(基通13-1-3の3・13-1-3の4)。簡易課税を使うなら自社で届け出る
- 課税事業者選択届出書:同様に、会社ごとに判断して提出する
- インボイス(適格請求書発行事業者)の登録:登録は会社ごとです。新しく設立したHDや分割承継法人が、取引先にインボイスを交付する必要があるかを確認し、必要なら登録申請を行う
届出は期限を過ぎると適用時期が1期ずれることがあります。再編の効力発生日から逆算して、税理士とスケジュールを確認します。
銀行から見た消費税:資金繰りへの影響
消費税は利益にかかる税金ではありませんが、資金繰りには大きく影響します。
- 事業譲渡・不動産の売買:買い手は建物の消費税を代金と一緒に払い、仕入税額控除で戻るのは申告の後です。数千万円の消費税を一時的に立て替えることになるため、銀行に「消費税分のつなぎ資金」を相談するケースもあります
- 合併・分割:資産の移転に消費税はかかりませんが、合併後の会社の納税額は2社分の売上をもとに計算され、中間申告の回数が増えることがあります
- 課税売上割合の変動:不動産の売買や株式の譲渡があった年は課税売上割合が下がり、仕入税額控除が減ることがあります
銀行は、再編の後の資金繰り表に消費税の納付・還付の時期が入っているかを見ています。税額の試算を資金繰り表に落とし込んでから説明すると、話がスムーズです。
まとめ
- 合併・会社分割は包括承継で、資産の移転は一般に不課税。法人税の適格・非適格とは別に判定する
- 事業譲渡・売買は資産ごとに課税・非課税を判定。グループ内の売買でも建物には消費税がかかる
- 株式移転・株式交換で動くのは株式で、株式の譲渡は非課税
- 再編の後は、合併・分割の特例、資本金1,000万円以上の新設法人、特定新規設立法人で納税義務を判定する
- 簡易課税の届出は引き継がれない。インボイスの登録とあわせて、効力発生日から逆算して準備する
組織再編は、法人税だけでなく消費税・不動産の税金・資金繰りを同時に検討する必要があります。不動産の税金は組織再編と不動産取得税・登録免許税で解説しています。クレフティでは、再編の方法の比較から届出のスケジュール管理まで支援しています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺ったうえで、担当の税理士または金融機関出身のコンサルタントが対応します。
