M&Aで会社を買うとき、「どの会社が買い手になるか」は意外と見落とされがちです。多くの中小企業では、本業の事業会社がそのまま買い手になります。しかし、ホールディングス(HD)があれば、HDが買収の受け皿になり、買った会社を既存の事業会社と並ぶ兄弟会社として迎えられます。
この記事では、HDが買い手になるメリット、買収資金の借入と配当による返済、税務の注意点、銀行からの見え方を整理します。
- HDが買えば、買収先は兄弟会社になる。上下関係・社長の処遇・人事の軋轢を避けやすい
- 買収先に問題が出ても、本業の会社に直接波及しにくく、将来の売却や合併も選びやすい
- 買収資金はHDが借り、買収先からの配当で返済するのが基本形
- 第三者から買った会社の最初の配当は、完全子法人株式等に当たらず益金不算入が一部になることがある
- 買収前の利益を原資にした多額の配当は、子会社株式の簿価減額の特例に注意(施行令119条の3第10項)
- 銀行は、買収先のキャッシュフローとグループ全体の債務償還年数を見る
事業会社が買う場合と、HDが買う場合
| 観点 | 事業会社が買う | HDが買う |
|---|---|---|
| 社員の関係 | 親会社と子会社の上下関係になりやすい | 兄弟会社として対等 |
| 社長の処遇 | 買収先の社長が親会社の部下のように見える | それぞれの会社で社長を残しやすい |
| 統合のスピード | 親会社のやり方に急いで合わせがち | 無理に統合せず、段階的に進められる |
| 問題が出たとき | 親会社の連結の財務に直接響く | HDの下で切り離しやすい |
| 買収資金の借入 | 事業会社の借入が増える | HDの借入になり、事業会社の決算書は軽いまま |
| 将来の選択肢 | 親会社との合併が中心 | 売却・合併・存続から選びやすい |
人の面:兄弟会社として迎える
M&Aで失敗する原因として多いのが、買収後の人の問題です。事業会社の子会社として迎えると、買収先の社員は「買われた側」として扱われていると感じやすく、キーパーソンが辞めてしまうこともあります。HDの下の兄弟会社なら、それぞれの会社の看板と社長を残したまま、HDが経営管理で関わる形を取れます。買収後の統合の進め方は買収後のPMIで解説しています。
財務の面:本業の会社を守る
デューデリジェンスで見つけきれなかった簿外債務や、統合の失敗による赤字が出ても、HDの下の別会社なら、本業の会社の決算書には直接響きません。本業の会社が許認可や入札で一定の財務の基準を求められる業種なら、なおさら意味があります。事業ごとにリスクを分ける考え方は事業ごとにリスクを分けるをご覧ください。
買収資金の借入と、配当による返済
HDが買い手になる場合、買収資金はHDが金融機関から借り、買収した会社からの配当で返済するのが基本形です。
HDの手元資金と借入の組み合わせ、返済期間、買収先が毎年出せる配当の額を、買収の前に試算します。HDでM&A資金を借りるときの組み方はHDでM&A資金を借りる、金融機関の審査の見方はM&A融資で銀行が見るポイントで取り上げています。
税務の注意点
買収直後の配当は、益金不算入が一部になることがある
HDが100%子会社から受ける配当は、配当の計算期間を通じて完全支配関係があれば、完全子法人株式等として全額が益金不算入です(法人税法23条1項・5項)。ところが、第三者から買った会社は、買収前は別の株主に支配されていたため、買収した期の配当は計算期間を通じた完全支配関係の要件を満たしません。関連法人株式等の要件(原則として基準日の6か月前から3分の1超を保有)も満たさなければ、その他の株式等として50%の益金不算入にとどまることがあります(施行令22条・22条の2)。
返済計画では、最初の配当を次の計算期間まで待つか、買収前に売り手側で配当を済ませるかを検討します。益金不算入の要件はHDが子会社から受ける配当は非課税?で詳しく解説しています。
子会社株式の簿価減額の特例
買収した会社の、買収前に貯まっていた利益を配当で受け取り、その後に株式を売って譲渡損を出す。こうした取引を防ぐため、50%超の支配関係がある子会社から、株式の帳簿価額の10%を超える配当を受けた場合は、益金不算入の額だけ子会社株式の帳簿価額を減らす特例があります(施行令119条の3第10項)。
| 適用されない主な場合 | 内容 |
|---|---|
| 内国株主割合 | 買収先の設立から買収の日まで、内国の普通法人や居住者などが90%以上を持っていた |
| 買収後の利益 | 配当が買収後に増えた利益剰余金の範囲内 |
| 少額 | その事業年度の配当の合計が2,000万円以下 |
| 10年超 | 買収から10年を超えている |
日本の個人オーナーが設立から持っていた会社を買う場合は、内国株主割合の除外に当たることが多いのですが、外国の株主がいた会社やファンドが持っていた会社では確認が必要です。
買収金額は損金にならない
株式を買う場合、買収金額は子会社株式の取得価額になり、損金にはなりません。事業譲渡で買う場合の資産調整勘定(税務上ののれん、5年で償却)のような扱いもありません。
中小企業が経営力向上計画などの認定を受けて株式を取得する場合は、取得価額の一定割合を準備金として積み立て、損金に算入できる制度があります(中小企業事業再編投資損失準備金)。計画の認定を受ける時期など要件が細かいため、中堅・中小グループ化税制の仕組みで確認してください。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る銀行からの見え方
HDが借りて会社を買う形は、銀行から見ると、HD単体には事業の収益がなく、返済は買収先の配当に頼る融資です。銀行は次の点を見ます。
| 銀行が見る点 | 確認すること |
|---|---|
| 買収先のキャッシュフロー | 税引後の利益から、毎年の返済額を配当できるか |
| 買収価格 | 利益に比べて高すぎないか、返済期間が長くなりすぎないか |
| グループ全体 | HDの借入を加えた債務償還年数、既存の事業会社の財務 |
| 保全 | 買収先株式の担保、既存の事業会社やオーナーの保証 |
代表の相亰の著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全、20年超は厳しいとしています。HDの買収借入を加えたグループ全体で、この数字がどの程度になるかを先に試算し、返済計画とともに銀行に示します。買収資金の調達全体はM&Aの買収資金の融資も参考になります。
HDがまだない会社が買収を機にHDを作る場合は、HD化の手続きと買収のスケジュールを両立させる必要があります。HD化を先に済ませておけば、買収のときに慌てずにすみます。
まとめ
- HDが買えば、買収先は兄弟会社になり、人の問題と財務の波及を抑えやすい
- 買収資金はHDが借り、買収先の配当で返済するのが基本形
- 第三者から買った会社の最初の配当は、益金不算入が50%にとどまることがある
- 買収前の利益を原資にした多額の配当は、簿価減額の特例を確認する
- 銀行は、買収先のキャッシュフローとグループ全体の債務償還年数を見る
M&Aの受け皿としてのHDは、買う前から準備しておくほど効果を発揮します。クレフティの事業承継・M&A支援では、買収のスキームの設計、配当と返済の計画、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
