「新規事業を始めたいが、本業の会社で失敗したら社員に申し訳ない」「不動産の借入が本業の会社の決算書を重くしている」。こうした悩みに対して、ホールディングス(HD)の下で事業ごとに会社を分けるという方法があります。
会社を分ければ、ある事業の失敗が他の事業に直接及びにくくなります。ただし、保証の付け方や税務の扱いによっては、分けた意味が薄れることもあります。この記事では、事業ごとにリスクを分ける効果と限界、銀行からの見え方を整理します。
- 株主の責任は出資の範囲まで(会社法104条)。事業ごとに子会社にすれば、失敗の影響を子会社の中にとどめやすい
- ただし、HD・本業の会社の連帯保証やオーナーの個人保証があれば、リスクはつながる
- 会社ごとに法人税を計算するため、子会社の赤字は本業の黒字と相殺できない(グループ通算制度を使わない場合)
- 撤退時は、売却・事業譲渡・清算・合併から選ぶ。100%子会社の清算では、欠損金をHDが引き継げる場合がある(法人税法57条2項)
- 銀行は、本業と不動産を分けるとそれぞれの返済力で見やすくなる。一方でグループ全体の保証を求めることもある
一体型と分離型の違い
| 事業 | 主なリスク | 分ける意味 |
|---|---|---|
| 本業 | 景気・取引先・人材 | 許認可や入札に必要な財務を保ちやすくする |
| 不動産 | 金利・空室・修繕・価格の下落 | 長期の借入と減価償却を本業の決算書から外す |
| 新規事業 | 立ち上げの赤字・撤退 | 失敗したときの損失の範囲を出資と貸付にとどめる |
| M&Aで買った会社 | 簿外債務・統合の失敗 | 問題が出ても本業に波及させず、切り離せるようにする |
事業の分け方
事業を別の会社にする方法は、主に次の3つです。
| 方法 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 新設 | HDが出資して新しい子会社を作り、そこで始める | これから始める新規事業 |
| 会社分割 | 既存の会社の事業や不動産を、別の会社に移す | すでに営んでいる不動産業などの切り出し |
| 事業譲渡 | 事業を売買の形で別の会社に移す | 移す資産や契約が少ない場合 |
新規事業なら、最初から子会社で始めるのがもっとも簡単です。すでに本業の会社が持っている不動産を切り出すなら、会社分割や売買を検討します。不動産の切り離しの方法は本業の会社から不動産を切り離すで解説しています。
分離が崩れるとき
連帯保証・クロス保証
もっとも多いのが、保証でリスクがつながるケースです。新規事業の子会社が借入をするとき、銀行がHDや本業の会社の連帯保証を求めることがあります。グループ会社同士がお互いの借入を保証し合う(クロス保証)と、ある会社の失敗が保証を通じて他の会社に及びます。
オーナー個人の経営者保証も同じです。会社を分けても、オーナーがすべての会社の借入を個人で保証していれば、最終的なリスクはオーナー個人に集まります。保証の組み方はHDと子会社の連帯保証・担保、経営者保証の外し方は経営者保証を外す方法で取り上げています。
子会社への支援
子会社が債務超過になったとき、HDや本業の会社が貸付金を放棄したり、無利息で貸したりして支援することがあります。こうした支援は、合理的な再建計画に基づくものなどでなければ、寄附金とされることがあります(法人税基本通達9-4-1・9-4-2)。「子会社だから助けるのが当然」と支援を続けると、結局は本業の財務が傷みます。
実態が一体のまま
会社を分けても、経理・資金・人員が混ざったままで、実態は一つの事業と変わらない状態だと、取引先や債権者から一体として扱うよう求められることもあります。会社ごとに口座、帳簿、契約、意思決定をきちんと分けておきます。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る税務の扱い
赤字と黒字は通算できない
会社を分けると、法人税は会社ごとに計算します。新規事業の子会社が赤字でも、本業の会社の黒字と相殺することはできません。一体型なら社内で相殺されていた赤字が、分離型では子会社に欠損金として残ります。
赤字と黒字を通算したい場合はグループ通算制度がありますが、事務の負担が大きく、中小企業には向かないことも多い制度です。検討の考え方はグループ通算制度は中小企業に必要?をご覧ください。
撤退するときの欠損金
子会社の事業から撤退するときの方法と、税務の扱いは次のとおりです。
| 撤退の方法 | 税務の主な扱い |
|---|---|
| 子会社株式の売却 | HDで株式の譲渡損益。グループ外への売却なら損失を計上できる |
| 子会社の清算(100%子会社) | HDで子会社株式の消滅損は損金にならない(法人税法61条の2第17項)。残余財産が確定すれば、子会社の欠損金をHDが引き継げる(57条2項) |
| 他の子会社との合併 | 適格合併なら欠損金を引き継げる場合がある。支配関係の期間などの制限あり |
清算や合併で欠損金を引き継ぐ場合は、支配関係ができてから5年を経過しているか(または設立のときから支配関係が続いているか)などによって制限がかかります(法人税法57条3項)。最初からHDが出資して作った子会社なら、制限がかからないことが多いのですが、M&Aで買った会社は確認が必要です。合併の欠損金の扱いは合併で欠損金は引き継げる?で解説しています。
銀行からの見え方
本業と不動産を別の会社に分けると、銀行はそれぞれの返済力で見やすくなります。本業の会社は事業の利益で、不動産の会社は物件の賃料収入で返済できるかを判断できるからです。本業の会社から長期の借入と減価償却の重い不動産が外れれば、本業の会社の格付けが上がることもあります。
一方で、銀行は最終的にはグループ全体の返済力も見ます。代表の相亰の著書のモデルでは、債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))を10年以内に保つのが健全の目安です。新規事業の子会社が赤字のうちは、子会社単体ではこの数字が成り立たないため、銀行はHDや本業の会社の保証を求めがちです。
分離の効果を保つには、新規事業はまずHDの手元資金で出資して始め、事業が軌道に乗って子会社単体で返済力を示せるようになってから借入をする、という順番が現実的です。
まとめ
- 事業ごとに子会社にすれば、失敗の影響を子会社にとどめやすい(会社法104条)
- 連帯保証・クロス保証・個人保証があれば、リスクはつながる
- 子会社への安易な支援は寄附金とされることがある
- 会社ごとに法人税を計算するため、赤字と黒字は相殺できない
- 100%子会社の清算では、欠損金をHDが引き継げる場合がある
- 新規事業は、まずHDの資金で出資し、返済力がついてから借入をする
事業ごとにリスクを分けるには、資本関係だけでなく、保証と資金の流れの設計が欠かせません。クレフティの事業承継・M&A支援では、グループの組み方から、借入と保証の設計、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
