ホールディングス(HD)の下に事業会社がある体制になると、借入をどの会社で行い、誰が連帯保証をし、何を担保に入れるかの組み合わせが増えます。HDが借りて子会社が保証する、子会社が借りてHDが保証する、オーナー個人が両方を保証する。組み方を誤ると、一社の不調がグループ全体に波及したり、後継者に過大な保証が残ったりします。
この記事では、HDと子会社の間の保証と担保の組み方、会社法と税務の注意点、銀行の見方を整理します。
- グループの保証には上向き(子会社がHDの借入を保証)と下向き(HDが子会社の借入を保証)がある
- HDの株式買取資金の融資では、子会社の保証や子会社株式への質権を求められることが多い
- 保証は会社法上の「借財」に当たり得る。取締役会等の決議と利益相反の確認をする
- グループ内の保証料は、寄附金の論点に注意。兄弟会社どうしは特例の対象外
- 相互保証を重ねすぎると、一社の不調がグループ全体の期限の利益喪失につながる
グループの保証と担保の4つの形
| 形 | 借りる会社 | 保証・担保 | よく使われる場面 |
|---|---|---|---|
| 上向き保証 | HD | 子会社が連帯保証 | HDが事業会社の株式を買い取る資金 |
| 株式の質権 | HD | HDが持つ子会社株式に質権 | 同上。保証とあわせて求められることが多い |
| 下向き保証 | 子会社 | HDが連帯保証 | 新しい子会社や、財務の弱い子会社の借入 |
| 物的担保の提供 | 子会社 | HDが持つ不動産に抵当権 | 不動産をHDに集めた後の、子会社の借入 |
HDの借入を子会社が保証する場合
HDが後継者やオーナーから事業会社の株式を買い取る資金を借りる場合、HD自身には事業がなく、返済の原資は事業会社からの配当です。銀行から見ると、HDに貸すことは実質的に事業会社のキャッシュフローに貸すことなので、事業会社の連帯保証や、HDが持つ事業会社株式への質権を求めることがよくあります(詳しくはHDが株式を買い取る資金の融資)。
会社法の手続き
子会社がHDの債務を保証するのは、子会社にとっては自社の利益に直接ならない債務を負う行為です。
- 取締役会設置会社では、多額の借財の決定は取締役会の決議事項です(会社法362条4項2号)。保証もこれに含めて扱うのが実務です
- HDの代表者が子会社の取締役を兼ねている場合など、取締役と会社の利益が相反する取引に当たる可能性があります(会社法356条1項3号、365条)。株主総会または取締役会の承認を得て、議事録を残しておきます
- 子会社にオーナー一族以外の少数株主がいる場合は、少数株主の利益を害する取引として争いになる余地があるため、特に慎重に判断します
子会社の格付けへの影響
子会社が保証をすると、子会社の決算書の注記や銀行への報告で保証債務として把握されます。子会社が別の銀行から借りるとき、その銀行は保証債務を潜在的な負債として見ます。
子会社の借入をHDが保証する場合
新しく始めた事業の子会社や、M&Aで買った会社は、単独では信用が足りないことがあります。そこで、資産や資金を持つHDが保証したり、HDの不動産を担保に入れたりします。
注意したいのは、HDの保証を重ねるほど、HDの株式の価値が子会社の業績に左右されやすくなることです。リスクを分けるためにHD体制にしたのに、保証でつなげてしまえば、分けた意味が薄れます(事業ごとにリスクを分ける)。
子会社株式への質権
HDが持つ事業会社の株式に質権を設定すると、HDが返済できなくなったときに、銀行は株式を処分して回収を図れます。非上場会社の株式は売りにくいため、銀行にとっては補完的な担保ですが、事業会社の支配権がHDから離れるおそれがある点は、オーナー家にとって重い意味を持ちます。質権の設定には、株券の発行の有無や譲渡制限の定めに応じた手続きが必要になるため、定款と株主名簿を事前に確認します。
グループ内の保証料と税務
グループ内の保証で保証料を取るかどうかは、税務上の論点になり得ます。
- 保証の実態があり、保証料を払う側に経済的な利益がある場合に、相場から離れた保証料をやり取りすると、寄附金(法人税法37条)として扱われるおそれがある
- HDが子会社の株式を100%持つ、法人による完全支配関係のある会社どうしなら、寄附金は全額損金不算入、受け取った側の受贈益は益金不算入になる(法人税法37条2項、25条の2)
- オーナー個人が株式を持つ兄弟会社どうしは、この特例の対象外。寄附金は通常の損金算入限度額の計算になり、受贈益は課税される
保証料の有無と水準は、契約書と、決め方の根拠を残したうえで、顧問税理士と事前に確認してください。グループ内の取引の扱い全般はグループ法人税制とはで整理しています。
相互保証を重ねすぎない
グループの会社が互いに保証し合うと、借入の契約に入っている期限の利益喪失の条項(一社の延滞や、保証人の信用不安を理由に一括返済を求められる条項)が、グループ全体に波及することがあります。
| 組み方 | 平時 | 一社が不調になったとき |
|---|---|---|
| 各社が自社の借入だけ | 借入の条件はやや厳しめ | 影響はその会社にとどまりやすい |
| 必要なところだけ保証 | 条件が改善しやすい | 保証した会社に影響が及ぶ |
| 全社で相互保証 | 枠は最も取りやすい | グループ全体で一括返済を求められるおそれ |
銀行との交渉では、「どの借入にどの会社の保証が付いているか」を一覧にして管理し、新しい借入のたびに、保証を増やさずに済む方法(担保の差し替え、コベナンツ付き融資など)を検討します。コベナンツの考え方はコベナンツ付き融資・協調融資を参考にしてください。
オーナー個人の保証はどうなるか
HD化の後も、多くの借入にはオーナー個人の連帯保証が残ります。銀行は、HDと事業会社、オーナー個人の間で、資金や資産のやり取りがきちんと分かれているか(法人と個人の分離)を、グループ全体で見ます。
- HDからオーナーへの貸付金がない
- HDが持つ不動産をオーナーが私的に使っていない
- 役員報酬がグループ全体で見て過大でない
- グループ全体の決算書を、毎期そろえて提出している
こうした体制が整っていれば、事業承継の局面で、後継者に保証を引き継がない交渉がしやすくなります(HD化と経営者保証の解除)。
まとめ
- HDの借入は事業会社の配当が返済原資。子会社の保証や株式への質権を求められやすい
- 子会社の保証は取締役会等の決議と利益相反の承認を確認する
- グループ内の保証料は寄附金の論点。兄弟会社どうしは特例の対象外
- 相互保証を重ねると、一社の不調がグループ全体に波及する。保証の一覧で管理する
- オーナー個人の保証を外すには、グループ全体で法人と個人の分離を整える
