不動産とHD

本業の会社から不動産を切り離すには?会社分割と売買の税金・登記費用・融資を比較

本業の会社が本社ビルや賃貸物件、昔からの土地を持っていると、決算書は重くなり、承継や売却のときにも「事業」と「不動産」を一緒に扱わなければなりません。そこで検討されるのが、本業の会社から不動産を切り離すことです。

切り離す方法は、大きく会社分割と売買の2つです。税金、登記の費用、手続き、そして資金の動きが大きく異なります。この記事では、HD(ホールディングス)体制を前提に、2つの方法を比べます。

この記事の結論
  • 不動産の切り離しは、会社分割(分割型・分社型)か、HDなどへの売買で行う
  • 適格分割なら法人税の課税はなく、消費税も不課税。不動産取得税は、事業の要件を満たせば非課税。登録免許税は2.0%
  • HDへの売買は、完全支配関係があれば譲渡損益を繰り延べられる(法人税法61条の11)が、建物の消費税・不動産取得税・登録免許税はかかる
  • 売買の最大の利点は、HDが借入をして事業会社に現金を入れられること。事業会社の決算書を軽くできる
  • 銀行には、切り離し後の両社の返済計画(家賃・配当で回るか)を示す

なぜ不動産を切り離すのか

切り離しの目的は、会社によって異なります。

  • 承継:事業は後継者に、不動産は別の家族に、と分けて継がせたい
  • 決算書を軽くする:事業会社の総資産と借入を減らし、ROAや自己資本比率を改善したい
  • 許認可・入札:建設業や人材派遣業など、決算書の基準を毎期満たす必要がある業種で、重い不動産を外したい
  • M&A:将来、事業だけを売る可能性に備えたい

決算書の軽量化は事業会社の決算書を軽くする:資産をHDへ、融資で資金化、業種別の基準は業種別に必要な決算書の水準、売却前の切り離しは売却前の不動産の切り離しで扱います。

2つの方法の流れ

会社分割と売買で不動産を切り離す
会社分割(分割型の例)
オーナー
↓ 100%
事業会社不動産を分割
↓ 不動産と関連する負債を承継
不動産会社株式はオーナーへ
現金は動かない
売買(HD体制の例)
金融機関HDに融資
↓ 借入
HD不動産を買う
↓ 代金(現金) ↑ 不動産
事業会社現金が入り決算書が軽く
分割は株式を対価に移し、売買は現金を対価に移す。売買なら事業会社に資金が残る

会社分割:分割型と分社型

  • 分割型分割:事業会社が不動産を新会社(または既存の兄弟会社)に移し、その会社の株式を事業会社の株主(オーナー)に渡す。事業会社と不動産会社は兄弟になる
  • 分社型分割:不動産を移した会社の株式を、事業会社自身が持つ。不動産会社は事業会社の子会社になる

HD体制をつくる目的なら、逆に事業の方を分社型分割で子会社に出し、元の会社を不動産を持つHDにする方法もあります。分割の全体像は会社分割(分社型・分割型)でHD体制にする方法をご覧ください。

適格分割の要件

グループ内の分割では、主に次の要件で適格かどうかを判定します(法人税法2条12号の11、同施行令4条の3)。

  • 対価が承継会社の株式だけであること(分割型分割では株主の持ち株割合に応じて交付)
  • 分割前に完全支配関係(または支配関係)があり、分割後もそれが継続する見込みであること
  • 50%超100%未満の支配関係の場合は、主要な資産・負債の移転、従業者のおおむね80%以上の引継ぎ、事業の継続も必要

分割の直後に承継会社の株式を売る予定があると、継続の見込みがないとして非適格になります。非適格分割型分割では、株主にみなし配当が生じることもあります。税務の詳細は会社分割の税務:適格分割の要件と不動産の移転で解説します。

税金と費用の比較

項目適格会社分割HDへの売買(完全支配関係あり)
法人税簿価で移転。課税なし帳簿価額1,000万円以上の土地・建物は譲渡損益を繰延べ(法人税法61条の11)
消費税不課税(包括的な承継)土地は非課税、建物は課税(HDが課税事業者なら仕入税額控除の対象)
不動産取得税要件を満たせば非課税課税(本則4%。土地・住宅は令和9年3月31日まで3%、宅地等は課税標準2分の1)
登録免許税(所有権移転)2.0%(その他の原因)土地1.5%(令和11年3月31日まで)、建物2.0%
資金の動きなしHDから事業会社へ代金。HDは借入が必要なことが多い
手続き分割契約・株主総会・債権者保護手続(1か月以上)・登記売買契約・取締役会等の承認・登記

登録免許税の税率は国税庁 タックスアンサーNo.7191で確認できます。合併による移転は0.4%ですが、分割は売買と同じ「その他の原因」の2.0%で、合併ほど有利ではありません。

不動産取得税の非課税は「事業」の要件に注意

会社分割による不動産の取得が非課税になるのは、地方税法施行令37条の14の要件を満たす分割です。対価が株式だけであることに加え、分割する事業に係る主要な資産・負債の移転、事業の継続、従業者のおおむね80%以上の引継ぎが求められます。法人税の適格要件では、完全支配関係のグループ内の分割に事業の要件は課されませんが、不動産取得税ではグループ内でも事業の要件がかかる点が違います。

不動産を1棟だけ移すような分割は、「事業」の移転と言えるかが問題になります。賃貸事業として管理の担い手や契約を一体で移すのか、事前に設計し、所在地の都道府県税事務所で確認しておくべきです。不動産の税金の全体は組織再編と不動産取得税・登録免許税で整理します。

売買は「繰延べ」であって免除ではない

HDへの売買で繰り延べた譲渡益は、HDがその不動産を外部に売ったとき、減価償却したとき、HDと事業会社の完全支配関係がなくなったときなどに、事業会社側で戻し入れます。将来、事業会社をM&Aで売却すると、その時点で繰り延べた譲渡益が一度に課税されることがあります。グループ内の資産移転の仕組みはグループ内で資産を移す:譲渡損益の繰延べをご覧ください。

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売買で「資金化」するという考え方

会社分割は現金が動かないため、事業会社の総資産と負債は減りますが、現預金は増えません。これに対して売買では、HDが金融機関から借入をして代金を払えば、事業会社に現金が入ります。昔に取得した土地なら、土地の譲渡は消費税が非課税なので、消費税の負担なく資金を引ける点も大きい利点です。

HDの返済原資は、事業会社からの家賃と配当です。事業会社からHDへの配当は、計算期間を通じて完全支配関係があれば全額益金不算入になります(法人税法23条)。ただし、家賃を払うようになる分、事業会社の利益は減ります。家賃の決め方はHDが不動産を持ち子会社に貸す:家賃の決め方で扱います。

銀行からの見え方

金融機関が見るのは、切り離した後の両社がそれぞれ回るかです。

  • 事業会社:総資産が減り、ROAや自己資本比率が改善する。一方、家賃の支払いで利益が減る
  • HD・不動産会社:家賃収入で借入を返せるか。債務償還年数は、著書のモデルでは10年以内が健全の目安
  • グループ全体:連結で見て、借入が増えただけになっていないか

既存の借入に不動産の担保が付いている場合は、担保の付け替えや借入の承継について、金融機関の同意が必要です。分割では債権者保護手続の中で、売買では担保解除と代金決済の段取りの中で、事前の協議が欠かせません。どの会社で借りるかはHD体制での不動産融資で解説します。

まとめ

本業の会社から不動産を切り離す方法は、会社分割と売買の2つです。適格分割は法人税も消費税もかからず、不動産取得税も事業の要件を満たせば非課税ですが、登録免許税は2.0%で、債権者保護手続などの手間がかかります。HDへの売買は譲渡損益を繰り延べられる一方、建物の消費税・不動産取得税・登録免許税がかかり、その代わりに融資で事業会社に資金を入れられます。

どちらを選ぶかは、事業会社に現金が必要か、HDが借入をできるか、不動産が「事業」として移せるかで決まります。税金と費用の試算に加えて、金融機関への説明まで含めて設計することが大切です。

よくある質問

会社分割で不動産を移すと、不動産取得税はかかりませんか?
一定の要件を満たす分割なら非課税です(地方税法73条の7第2号、同施行令37条の14)。対価が承継会社の株式だけであることに加え、分割する事業の主要な資産・負債の移転、事業の継続、従業者のおおむね80%以上の引継ぎが求められます。不動産だけを移す分割では、この事業の要件を満たせず課税されることがあるため、事前に都道府県税事務所で確認します。
HDに不動産を売ると、事業会社に法人税がかかりますか?
HDと事業会社の間に完全支配関係があり、土地・建物の帳簿価額が1,000万円以上なら、譲渡損益は繰り延べられます(法人税法61条の11)。HDが外部に売る、償却する、グループから外れるなどの時点で、繰り延べた損益を計上します。法人税は繰り延べられても、建物の消費税、不動産取得税、登録免許税はかかります。
会社分割と売買のどちらを選ぶべきですか?
事業会社に資金を残したい、またはHDが借入をして事業会社に現金を入れたいなら売買、現金を動かさず税金と登記費用をなるべく抑えたいなら会社分割が候補になります。分割は手続きが重く、債権者保護手続や許認可の確認が必要です。売買は手続きが軽い代わりに、消費税・不動産取得税・登録免許税の負担と、HDの借入が伴います。

※本記事は2026年10月30日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
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