融資と金融機関

事業会社の決算書を軽くする|長期保有の不動産をHDへ移し、融資で資金化する

本業の会社が、創業のころから持つ土地や本社ビル、投資用の不動産を抱えたままになっている。こうした会社では、決算書の資産が大きく膨らみ、借入も多いため、銀行から見た効率(総資産に対する利益)が悪く見えがちです。

ここで検討されるのが、長期保有の不動産をホールディングス(HD)に売り、HDが融資を受けて代金を払う方法です。代表の相亰は2026年5月のセミナーで、この方法の一番の価値を「融資を引いて資金化できること」と紹介しました。この記事では、仕組み、税金、価格の決め方、銀行の見方を整理します。

この記事の結論
  • 事業会社の不動産をHDに売り、HDが融資で代金を払うと、事業会社に現金が戻り、決算書が軽くなる
  • 100%グループ内の譲渡なら、帳簿価額1,000万円以上の土地・建物の譲渡損益は繰り延べ(法人税法61条の11)
  • 土地の譲渡は消費税が非課税。建物は課税で、消費税には繰延べの仕組みがない
  • 価格は時価で。鑑定などで根拠を残さないと、寄附金や受贈益の問題になる
  • HDの返済原資は、事業会社からの家賃と配当。家賃は相場の範囲で決める

仕組み:不動産をHDへ、現金を事業会社へ

不動産をHDに売って資金化する
移す前
HD
↓ 100%
事業会社事業資産+長期保有の不動産+借入
移した後
HD長期保有の不動産+買取資金の借入
↓ 100% ↑ 家賃・配当
事業会社事業資産+現金
事業会社は売却代金で借入を返すか、手元の資金を厚くする
  1. 事業会社が、長期保有の不動産をHDに時価で売る
  2. HDは、金融機関から融資を受けて代金を払う(不動産を担保にすることが多い)
  3. 事業会社は、受け取った代金で自社の借入を返すか、手元の資金を厚くする
  4. 事業会社は、引き続き使う不動産について、HDに家賃を払う

決算書はどう変わるか

次の数字は説明のための例です(帳簿価額1億円の土地を、時価3億円でHDに売る場合)。

項目移す前移した後(代金3億円で借入を返済)
総資産10億円9億円
うち不動産4億円3億円
現預金1億円1億円
借入金5億円2億円
純資産(会計上)3億円5億円(譲渡益2億円を含む。税効果は考慮していない)
自己資本比率30%約56%

会計上は、時価で売れば譲渡益が計上され、事業会社の純資産が増えます。一方、税務上は次に説明するグループ法人税制により譲渡益の計上が繰り延べられるため、決算書の利益と申告書の所得がずれます。銀行には、この差の理由を説明できるようにしておきます。

グループ全体で見れば、不動産と借入が事業会社からHDに移っただけです。銀行は最終的にグループ全体(連結のイメージ)でも見るため、「事業会社の格付けが上がった」だけでなく、「グループとして借入が増えすぎていないか」も確認します(HD化すると銀行の見方はどう変わる?)。

税金:グループ法人税制と消費税

法人税:譲渡損益の繰延べ

HDと事業会社の間に完全支配関係があるとき、土地・建物・有価証券などで帳簿価額が1,000万円以上の資産(譲渡損益調整資産)を譲渡すると、譲渡損益は譲渡した事業会社でいったん繰り延べられます(法人税法61条の11、同施行令122条の12)。

論点扱い
対象資産固定資産、土地(土地の上に存する権利を含む)、有価証券、金銭債権、繰延資産で、帳簿価額1,000万円以上のもの(売買目的有価証券などは除く)
譲渡した事業会社譲渡損益を繰り延べる(申告書の別表で調整)
買ったHD時価(買った価額)で受け入れる
繰り延べた損益が実現するときHDがグループ外に売る、償却・除却する、完全支配関係がなくなる など

制度の全体はグループ内で資産を移す:譲渡損益の繰延べで解説しています。

消費税:土地は非課税、建物は課税

消費税には、グループ法人税制のような繰延べの仕組みはありません。

  • 土地の譲渡は非課税(消費税法6条1項、別表第二)。古くから持つ土地なら、消費税の負担なく資金化できる
  • 建物の譲渡は課税。事業会社が課税事業者なら消費税の納税が生じる。HDが課税事業者で、仕入税額控除を受けられるかもあわせて検討する

不動産の移転にかかるその他の税金

HDが不動産を取得すると、不動産取得税と、所有権移転登記の登録免許税がかかります。売買による移転は、合併などの組織再編と比べて、これらの税負担が重くなることが多い点も試算に入れます(組織再編と不動産取得税・登録免許税)。

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価格と家賃の決め方

グループ内の売買でも、時価で行うのが原則です。時価より安く売れば、差額は事業会社からHDへの寄附金、HDの受贈益の問題になります。法人による完全支配関係がある会社どうしなら寄附金の損金不算入と受贈益の益金不算入の特例(法人税法37条2項、25条の2)がありますが、時価から外れた取引は、銀行への説明でも不利になります。

  • 価格:不動産鑑定評価や、複数の査定で根拠を残す
  • 家賃:近隣の賃料相場や鑑定をもとに決める。HDの返済に合わせて家賃を高くしすぎると、事業会社の利益が減り、税務上も問題になる

銀行の見方とHDの返済

事業会社にとっては、総資産が減り、借入が減ることで、総資産利益率(ROA)や自己資本比率が改善しやすくなります。借入を返さずに現金で持てば、手元の資金の厚さが評価されます。

HDの側では、不動産を担保にした融資を、事業会社からの家賃と配当で返していきます。HDが受け取る配当は、100%子会社なら計算期間を通じた完全支配関係を前提に全額益金不算入です(HDが子会社から受ける配当は非課税?)。

この方法は、人材派遣業や建設業のように、許可の維持に決算書の基準がある業種でも検討されます(業種別に必要な決算書の水準)。本業から不動産を切り離す方法の比較は本業の会社から不動産を切り離す、HD体制で不動産の融資をどの会社で受けるかはHD体制での不動産融資で解説しています。

まとめ

  • 長期保有の不動産をHDに時価で売り、HDが融資で払うと、事業会社に資金が戻り決算書が軽くなる
  • 100%グループ内なら、帳簿価額1,000万円以上の資産の譲渡損益は繰り延べ。会計と税務のずれを説明できるようにする
  • 土地は消費税が非課税、建物は課税。不動産取得税・登録免許税も試算する
  • 価格と家賃は時価・相場で決め、根拠を残す
  • 銀行は事業会社単体だけでなくグループ全体でも見る

よくある質問

事業会社がHDに不動産を売ると、譲渡益に法人税がかかりますか?
HDと事業会社の間に完全支配関係があり、譲渡する資産が土地・建物などで帳簿価額が1,000万円以上なら、譲渡損益調整資産として譲渡益の計上が繰り延べられます(法人税法61条の11)。HDがその資産をグループ外に売ったときなどに、繰り延べた損益が事業会社で計上されます。会計上は譲渡益が出るため、決算書の利益と税務の所得がずれる点に注意します。
土地をHDに売るとき、消費税はかかりますか?
土地の譲渡は消費税の非課税取引です(消費税法6条1項、別表第二)。建物の譲渡は課税取引で、売る側の事業会社が課税事業者なら消費税の納税が生じます。グループ法人税制のような消費税の繰延べの仕組みはないため、建物を含む場合は消費税の負担と、買う側のHDでの仕入税額控除を合わせて検討します。
HDが不動産を買う資金は、どうやって返済しますか?
主な返済原資は、事業会社がHDに払う家賃と、事業会社からの配当です。家賃は相場に見合った水準で決め、配当は受取配当等の益金不算入の範囲で受け取ります。家賃を高くしすぎると事業会社の利益が減って格付けが下がり、税務上も問題になるため、不動産鑑定や近隣の賃料を根拠にします。

※本記事は2026年10月30日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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