HD(ホールディングス)体制で新しく不動産を買うとき、迷うのが「どの会社で借りるか」です。HDで借りるのか、本業の事業会社で借りるのか、物件ごとの子会社をつくって借りるのか。どれを選ぶかで、返済原資、担保と保証、決算書の見え方が変わります。
この記事では、HD体制での不動産融資を、借りる会社ごとに比べ、金融機関がどこを見るかを整理します。
- 借りる会社は、返済原資が生まれる会社で決めるのが基本。物件の家賃で返すなら物件を持つ会社、事業の利益で返すなら事業会社か、HDが借りて配当・家賃で返す
- HDが借りて配当で返す形は、子会社の分配可能額(会社法461条)と利益の安定性に左右される
- 物件子会社で借りる場合は、HDの連帯保証や担保の組み方をグループで設計する
- 金融機関はどの形でもグループ全体(連結)で見る。1社の債務超過がグループ全体の評価に響く
- 物件ごとに会社を分けるなら、全取引行に全体像を開示する
借りる会社の3つの選択肢
| 借りる会社 | 返済原資 | 利点 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ① HD | HDの家賃収入、子会社からの配当・家賃 | 物件と借入をHDに集め、事業会社の決算書を軽く保てる | 配当頼みだと、子会社の利益と分配可能額に左右される |
| ② 事業会社 | 本業の利益と、物件の家賃 | 本業の利益が厚ければ審査が通りやすい | 事業会社の総資産・借入が膨らみ、ROAや自己資本比率が下がる |
| ③ 物件子会社 | その物件の家賃 | 物件ごとに収支と担保が明確。将来、会社ごと売却しやすい | 単体では小さく、HDの保証が求められやすい。法人数が増える |
① HDで借りる:配当と家賃が返済原資
HDが物件を持ち、自ら借りる形です。HDに家賃収入があれば、それが第一の返済原資になります。足りない分は、事業会社からの配当や家賃で補います。
事業会社からHDへの配当は、計算期間を通じて完全支配関係があれば全額益金不算入です(法人税法23条)。配当でHDに資金を集めて返済に回す形は、税金の面では効率的です。ただし、次の点に注意が必要です。
- 子会社が配当できるのは分配可能額の範囲まで(会社法461条)。赤字が続くと配当できない
- 配当すると子会社の現預金と純資産が減り、子会社単体の格付けが下がる
- HD化の直後は、配当の計算期間を通じた完全支配関係の条件を満たすかを確認する
配当で返す融資の注意点は配当で返済する融資の注意点:子会社の利益と配当可能額で詳しく扱います。また、事業会社が持っていた不動産をHDが買い取る場合は、HDの借入で事業会社に資金が入り、決算書を軽くできます(本業の会社から不動産を切り離す:会社分割と売買)。
② 事業会社で借りる:本業の利益が厚いとき
本業の利益が厚く、事業会社の格付けが高い場合は、事業会社で借りた方が条件がよいことがあります。一方で、事業会社の総資産と借入が膨らみ、ROAや自己資本比率が下がります。建設業や人材派遣業のように、決算書の基準を毎期満たす必要がある業種では、不動産を事業会社に持たせない方がよい場合もあります(業種別に必要な決算書の水準)。
将来、事業会社を後継者に継がせる、またはM&Aで売る可能性があるなら、不動産と借入を事業会社に積み上げるほど、後で切り離す手間が増える点も考えておきます。
③ 物件子会社で借りる:保証と担保をグループで設計
物件ごとにHDの下に子会社をつくり、その子会社で借りる形です。物件ごとの収支と担保がはっきりし、将来は会社ごと売る選択肢も持てます。一方、子会社単体は規模が小さく、HDの連帯保証や、他の物件の担保の提供を求められることが多くなります。保証が網の目のように広がると、1社の不調がグループ全体に波及します。保証・担保の組み方はHDと子会社の連帯保証・担保:グループでの借入の組み方をご覧ください。
物件ごとに会社を分けること自体は違法ではありません。ただし、特定の金融機関にグループの全体像を伝えずに借入を重ねるやり方は、後で発覚したときに信用を大きく損ない、融資契約の報告義務との関係でも問題になりえます。物件子会社を使うなら、全取引行に全体像を開示したうえで進めるべきです。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る金融機関はグループ全体で見る
どの会社で借りても、金融機関はオーナーが支配する会社をグループ全体で審査します。HD化すると、なおさら連結での見方が強まります(HD化すると銀行の見方はどう変わる?、グループ連結で見る銀行の評価)。
債務償還年数はグループで計算する
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいとされます。HD体制では、グループ内の家賃・配当・貸付を相殺したうえで、グループ全体の数字で計算されると考えておきましょう。物件を買い増すたびに、グループの債務償還年数がどう動くかを試算しておくと、金融機関への説明がぶれません。
1社の債務超過が全体に響く
法人を分けていても、1社が債務超過になれば、グループの評価に影響します。代表の相亰は2019年、減価償却が速い物件が多く、貸借対照表上の資産の簿価よりも負債が大きい債務超過の状態に陥ったことで、複数の銀行から融資を止められました。物件ごとの減価償却のペースと、その会社の純資産の推移は、借りる前から見ておく必要があります。
確認しておきたい項目
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| 返済原資 | 家賃・配当・経営指導料のどれで返すか。グループ内で二重に数えていないか |
| 分配可能額 | 配当で返すなら、子会社の利益剰余金が毎期足りるか |
| 保証・担保 | HDの保証がどこまで広がるか。担保の共有で身動きが取れなくならないか |
| 財務制限条項 | 純資産・DSCR・LTVなどの条件がどの会社に付くか(DSCR・LTVと財務制限条項) |
| 開示 | 全取引行にグループの全体像を伝えているか |
まとめ
HD体制での不動産融資は、返済原資が生まれる会社で借りるのが基本です。HDで借りて家賃・配当で返す形は、事業会社の決算書を軽く保てる一方、子会社の分配可能額と利益の安定性に左右されます。事業会社で借りる形は本業が強いときに有利ですが、決算書が重くなります。物件子会社で借りる形は、保証と担保をグループで設計する必要があります。
どの形を選んでも、金融機関はグループ全体で返済力を見ます。借入の前に、グループの債務償還年数と各社の純資産の推移を試算し、全体像を開示したうえで相談することが、融資を受け続けるための近道です。
