「父の資産管理会社がビルを持ち、事業会社はそこを借りている」「資産管理会社と事業会社の株主は、どちらも父」。オーナー経営者の家では、こうした形がよく見られます。資産管理会社と事業会社の関係を整理しないまま承継の時期を迎えると、家賃の決め方、株価、誰がどちらを継ぐかで迷うことになります。
この記事では、資産管理会社と事業会社の関係を「兄弟型」と「親子型(HD型)」に分けて、税務、株価、事業承継税制、銀行からの見え方の違いを整理します。
- 資産管理会社と事業会社の関係は、個人が両方を持つ兄弟型と、資産管理会社が事業会社を持つ親子型(HD型)に分かれる
- 兄弟型は個人による完全支配関係。グループ内の寄附金・受贈益の非課税の仕組み(法人税法37条2項・25条の2)が使えない
- 親子型では、配当は全額益金不算入、グループ内の寄附・受贈も課税関係が生じにくい。一方、資産管理会社は株式等保有特定会社になりやすい
- 資産管理会社は事業承継税制の資産保有型・資産運用型会社に当たりやすい。事業実態要件を確認する
- 銀行は兄弟型でも親子型でもグループ全体で見る。家賃や配当の流れを説明できるようにしておく
資産管理会社とHDは何が違うか
法律上、「資産管理会社」「HD(ホールディングス)」という決まった区分があるわけではありません。一般に、オーナー家の不動産・預金・有価証券を持つ会社を資産管理会社、子会社の株式を持ってグループを支配する会社をHD(持株会社)と呼びます。資産管理会社が事業会社の株式を持てば、HDの役割も兼ねます。種類の整理はHDの種類:純粋持株会社・事業持株会社・資産管理会社の違い、資産管理会社そのものの基本は資産管理会社とはで解説しています。
問題になるのは名前ではなく、事業会社との資本関係です。
兄弟型と親子型で税務がどう違うか
| 項目 | 兄弟型(個人が両方を保有) | 親子型(資産管理会社が事業会社を保有) |
|---|---|---|
| 完全支配関係 | 個人による完全支配関係 | 法人による完全支配関係 |
| グループ内の資産の売買 | 譲渡損益の繰延べあり(法人税法61条の11) | 同じく繰延べあり |
| 安い家賃・無償の融通 | 寄附金(限度超過は損金不算入)と受贈益の課税 | 寄附金は全額損金不算入、受贈益は全額益金不算入(37条2項・25条の2) |
| 配当 | 事業会社から個人へ。総合課税 | 事業会社から資産管理会社へ。完全子法人株式等は全額益金不算入(23条) |
| 株価 | 事業会社と資産管理会社を別々に評価 | 資産管理会社の株価に事業会社株式が含まれる |
兄弟型の落とし穴:家賃と資金の融通
兄弟型では、資産管理会社と事業会社は個人を通じた兄弟です。グループ法人税制のうち、資産の譲渡損益の繰延べは適用されますが、寄附金の全額損金不算入と受贈益の全額益金不算入は、法人による完全支配関係に限られます(国税庁 タックスアンサーNo.5281)。
そのため、資産管理会社が事業会社に相場より安い家賃で貸すと、差額は資産管理会社から事業会社への寄附金とされ、損金算入限度額を超える部分は損金になりません。事業会社側では、受けた利益に課税されます。両社の株価の変動を通じて、株主の間で贈与の問題が生じる余地もあります。家賃の決め方はHDが不動産を持ち子会社に貸す:家賃の決め方で詳しく扱います。
親子型(HD型)のメリットと注意点
資産管理会社が事業会社の株式を持つ親子型にすると、事業会社からの配当は、計算期間を通じて完全支配関係があれば全額益金不算入になり(法人税法23条)、HDの借入返済や不動産の取得に回しやすくなります。仕組みはHDが子会社から受ける配当は非課税?をご覧ください。
一方、資産管理会社の資産に事業会社株式が加わると、株式等の割合が50%以上の株式等保有特定会社、土地等の割合が高ければ土地保有特定会社として、原則として純資産価額で評価されます(財産評価基本通達189)。事業会社の利益が大きく類似業種比準価額が低く出る会社では、かえって株価が上がることもあります。判定と対策は株式保有特定会社に注意と土地保有特定会社とHDで解説します。
事業承継税制との関係
法人版事業承継税制では、次の会社は原則として対象外です(租税特別措置法70条の7、国税庁 タックスアンサーNo.4439)。
| 区分 | 判定の基準 |
|---|---|
| 資産保有型会社 | 有価証券・自ら使っていない不動産・現預金などの特定資産の帳簿価額が、総資産の70%以上 |
| 資産運用型会社 | 特定資産の運用収入が、総収入金額の75%以上 |
不動産賃貸を主とする資産管理会社や、子会社株式が資産の大半を占めるHDは、これに当たりやすい点に注意が必要です。ただし、後継者と生計を一にする親族以外の常時使用従業員が5人以上いて、事務所等を所有または賃借し、3年以上継続して事業を行っているなどの事業実態要件を満たせば、資産管理会社に該当しないものとして扱われます。詳しくはHDと事業承継税制:資産管理会社の要件と使えるケースで解説します。
銀行からの見え方
金融機関は、兄弟型でも親子型でも、オーナーが支配する会社をグループ全体で見ます。事業会社の家賃が資産管理会社の返済原資になっている、資産管理会社の借入を事業会社が保証している、といった関係があれば、両社を一体として審査するのが通常です。
親子型にすると、事業会社からHDへの家賃・配当・経営指導料の流れが一本になり、グループの返済計画を説明しやすくなります。反対に、家賃を高く設定しすぎると事業会社の利益が細り、事業会社単体の格付けが下がります。著書のモデルでは、銀行は収益性・返済能力を重く見ます(129点満点のうち収益性15点・返済能力55点)。家賃は「税務上の相場」と「事業会社の格付け」の両方から決めることが大切です。グループでの借入の組み方はHD体制での不動産融資:どの会社で借りるかをご覧ください。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る承継を見据えた整理の例
事務所の支援事例に、本業と不動産業を営む経営者が「不動産業を息子に承継したい。当面は金融機関との折衝に自分も関わりたいが、経済面の相続は先に終えたい」と相談されたケースがあります。ホールディングス化による組織再編、種類株式の設計、定款の整備、株価算定、金融機関の紹介を行い、地方銀行から1.6億円を調達して事業承継を実現しました(詳細はクレフティの支援事例:HD化を用いた親族への事業承継で1.6億円を調達)。
このように、資産管理会社と事業会社の関係を整理するときは、次の順番で考えると迷いにくくなります。
- 誰に、どの会社(事業・不動産)を継がせるかを決める
- 兄弟型のままか、親子型にするかを決める(家賃・配当・株価への影響を試算)
- 経営権と財産をどう分けるかを決める(種類株式・定款)
- 金融機関に、グループの返済計画として説明する
まとめ
資産管理会社と事業会社の関係は、兄弟型と親子型(HD型)で税務の扱いが大きく変わります。兄弟型では、グループ内の安い家賃や無償の資金融通が寄附金・受贈益の課税につながる一方、親子型では配当の全額益金不算入や、寄附・受贈の課税関係が生じにくい仕組みが使えます。その代わり、資産管理会社は株式等保有特定会社・土地保有特定会社に当たりやすく、事業承継税制でも資産保有型会社とされやすい点に注意が必要です。
どちらの形が向くかは、誰が何を継ぐか、家賃と配当の流れ、株価の試算、金融機関の見方を並べて判断します。形を変える前に、全体を一度試算してみることをおすすめします。
