不動産を持つ会社のオーナーから、「HDに不動産を集めたい」というご相談をよくいただきます。本業の会社から不動産を切り離して決算書を軽くしたい、物件ごとの法人をまとめたい、という目的です。そのときに見落としやすいのが、土地保有特定会社の判定です。
HDに土地を集めすぎると、HDの株式は純資産価額方式でしか評価できなくなります。この記事では、財産評価基本通達189(3)の基準と、不動産をグループのどこに置くかの考え方を整理します。数字は説明用に作った例です。
- 相続税評価額で計算した総資産のうち、土地等の割合(土地保有割合)が大会社で70%以上、中会社で90%以上の会社は土地保有特定会社(財産評価基本通達189(3))
- 小会社は、総資産(帳簿価額)の大きさで大会社・中会社の基準が当てはまる。一定額未満の小会社は対象外
- 評価は純資産価額方式(189-4)。株式等保有特定会社より優先し、S1+S2方式の選択はない
- 課税時期前3年以内に取得した土地・建物は通常の取引価額で評価するため、買ったばかりの不動産は割合も株価も上がりやすい(185)
- 不動産をHD・子会社・別会社のどこに置くかは、株価・融資・承継の目的を並べて決める
土地保有特定会社の判定基準
財産評価基本通達189(3)は、会社規模に応じて次の会社を土地保有特定会社としています。土地保有割合は、課税時期における各資産の相続税評価額の合計のうち、土地等(土地と土地の上に存する権利)の価額が占める割合です。建物は含みません。
| 会社規模(財産評価基本通達178) | 土地保有割合の基準 |
|---|---|
| 大会社 | 70%以上 |
| 小会社のうち総資産(帳簿価額)が卸売業20億円以上、それ以外15億円以上 | 70%以上 |
| 中会社 | 90%以上 |
| 小会社のうち総資産(帳簿価額)が卸売業7,000万円以上、小売・サービス業4,000万円以上、それ以外5,000万円以上(上の行を除く) | 90%以上 |
| 上記以外の小会社 | 対象外 |
不動産賃貸を中心とするHDは、従業員が少なく、取引金額(家賃収入など)も大きくないため、会社規模は小会社になることが多くあります。そのうえで、総資産の帳簿価額によって70%基準か90%基準かが決まる、という二段構えです。会社規模の決め方はHDの会社規模区分と類似業種比準価額で解説します。
判定の例:同じ資産でも規模で結論が変わる
不動産を集めたHDの例で見てみます。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| 会社規模 | 従業員2人、家賃収入6,000万円 → 小会社 |
| 総資産(帳簿価額) | 8億円 |
| 土地等(相続税評価額) | 4億5,000万円 |
| 建物(固定資産税評価額) | 1億2,000万円 |
| 現預金など | 3,000万円 |
| 土地保有割合 | 4億5,000万円÷6億円=75% |
総資産8億円の小会社なので、基準は90%です。土地保有割合75%では、土地保有特定会社には当たりません。ところが、同じ資産構成で物件が増えて総資産が15億円以上になると、基準は70%に下がり、土地保有特定会社に当たります。物件を買い増して規模が大きくなったときに、判定が変わることがあるわけです。
3年以内に取得した不動産は「通常の取引価額」
純資産価額の計算では、課税時期前3年以内に取得・新築した土地等と家屋等は、路線価や固定資産税評価額ではなく、通常の取引価額で評価します(財産評価基本通達185のかっこ書き。帳簿価額が通常の取引価額に相当すると認められる場合は帳簿価額でもよい)。
先の例で、土地を2年前に7億円で買っていたとすると、土地等の評価は7億円になり、土地保有割合は約82%に上がります。株価も、路線価で評価した場合より大きく上がります。HDで物件を買ってすぐに承継する、という流れは、評価の面では不利になりやすいことを覚えておいてください。不動産の評価のしかたは自社株評価での不動産の扱いもご覧ください。
子会社の土地は「株式等」として数える
HDの判定で数える土地は、HD自身が持つ土地等だけです。子会社が持つ土地は子会社株式の価値に含まれ、HDの資産としては株式等に当たります。
- 不動産をHDが直接持つと、土地保有特定会社の判定に関係する
- 不動産を子会社に持たせると、HDの株式等の割合が上がり、株式等保有特定会社の判定に関係する
- 子会社の段階の含み益には、HDの株価を計算するときに38%の控除がない(財産評価基本通達186-3)
どちらに置いても、HDが純資産価額方式で評価される方向に働きやすいということです。株式等保有特定会社の判定は株式保有特定会社に注意で解説しています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る不動産をどこに置くか:株価だけで決めない
不動産をHD・事業会社・別の不動産会社のどこに置くかは、株価のほかに次の点を並べて判断します。
| 観点 | HDに置く | 事業会社に置く |
|---|---|---|
| 事業会社の決算書 | 軽くなる。許認可や入札の財務基準を満たしやすい | 重くなる。不動産の借入が事業の借入と混ざる |
| 融資 | HDで不動産の融資を受け、子会社の家賃で返済。連結で見られる | 事業の収益と不動産の収益が一体で評価される |
| 家賃 | 子会社から適正な家賃を受け取る必要がある | 発生しない |
| 株価 | 土地保有特定会社の判定に注意 | HDの株式等の割合を押し上げる |
| 承継 | HD株式とともに後継者へ | 事業会社株式とともに後継者へ |
銀行は、HDと子会社を合算した連結の姿で、借入金の水準や債務償還年数を見るのが一般的です。著書のモデルでは、債務償還年数((借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等))は10年以内が健全とされます。HDが不動産の借入を抱える場合、子会社からの家賃が返済原資になるので、家賃の水準と子会社の収益力をセットで説明できるようにしておくことが大切です(HDが不動産を持ち子会社に貸す、不動産投資家のHD化)。
また、土地保有特定会社の判定を免れるための、合理的な理由のない資産構成の変動は、なかったものとして判定されます(財産評価基本通達189なお書き)。判定の直前に現預金を積み増す、別の資産を買うといった動きは、目的を説明できなければ意味がありません。不動産を持つ会社の承継の全体像は不動産を持つ会社の承継もご覧ください。
まとめ
- 土地保有割合が大会社70%以上、中会社90%以上で土地保有特定会社。小会社は総資産の大きさで基準が決まり、一定額未満は対象外(189(3))
- 評価は純資産価額方式。株式等保有特定会社より優先する
- 3年以内に取得した不動産は通常の取引価額で評価するため、買ってすぐの承継は評価が上がりやすい
- 不動産をHDに置くか子会社に置くかは、株価・融資・家賃・承継の目的を並べて判断する
クレフティでは、不動産を持つグループのHD化について、土地保有特定会社の判定、株価の試算、不動産の配置と融資の組み方まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
