不動産投資を続けていると、「物件ごとに法人をつくった」「融資の都合で新しい法人を立てた」という経緯で、気づけば法人が5社、10社と増えていることがあります。決算期はばらばら、毎年の申告と均等割、銀行ごとに違う説明。不動産投資家のHD化は、こうした法人をホールディングス(HD)の下にまとめ、承継と融資の説明をしやすくする方法です。
ただし、HDを上に置くだけでは法人の数は減りません。HD化・合併・清算のどれを、どの順番で使うかを決めることが大切です。この記事では、物件法人が増えた不動産投資家が、HDで法人をまとめるときの方法と税金、株価、銀行からの見え方を整理します。
- HDを上に置くと株主が1社にまとまる。相続・承継はHD株式だけを考えればよくなるが、法人の数は減らない
- 法人を減らすには適格合併、役目を終えた法人は清算も比較する。HD化と合併は2段階で進めてもよい
- 作り方は、現金が動かない株式移転か、オーナーが現金化できるHDへの株式譲渡が中心
- 不動産HDは株式等保有特定会社になりやすく、純資産価額で評価される。含み益の38%控除が効くのは、HD化の後に増えた分だけ
- 銀行に伝えていない法人がある場合は、HD化の前に全行へ開示する
物件法人が増えると何が困るのか
物件ごとに法人を分ける理由は、融資の審査を物件単位で通しやすい、売却時に法人ごと手放せる、といったものです。一方で、法人が増えるほど、次のような負担が積み上がります。
| 困りごと | 中身 |
|---|---|
| 維持コスト | 法人ごとに申告・税理士報酬・均等割(赤字でもかかる)・登記 |
| 決算の管理 | 決算期がばらばらだと、毎月どこかの決算と申告がある |
| 銀行の見え方 | 1社ずつは小さく、グループ全体の財務が伝わりにくい |
| 相続・承継 | 株主が個人のため、相続人は法人ごとの株式を分けることになる |
| 余った法人 | 物件を売った後、現預金だけが残った法人が休眠状態で残る |
特に相続では、法人ごとに株価を計算し、法人ごとに誰が引き継ぐかを決めなければなりません。株式が相続人に分かれると、後から法人を合併したり売却したりするときに、全員の合意が必要になります。
まとめ方は3つ:HD化・合併・清算
法人を整理する方法は、大きく3つあります。目的によって使い分けます。
| 方法 | 法人の数 | 主な効果 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| HD化(株式移転・株式譲渡) | HDが1社増える | 株主がHDにまとまる。承継の単位がHD株式になる | HDの維持コスト。HD株式の評価 |
| 適格合併 | 減る | 簿価で引き継ぎ、課税なし。欠損金も要件付きで引き継げる | 消滅会社の過去の税務リスクも引き継ぐ |
| 清算 | 減る | 役目を終えた法人を消す | 残余財産の分配はみなし配当として総合課税。欠損金は消える |
セミナーでもお伝えしているとおり、一気にHD化まで進める必要はありません。まず適格合併で法人を「事業(売買・運営)の会社」と「長期保有の会社」程度に絞り、その後にHDの下にまとめる、という2段階でも十分に効果があります。合併の流れは複数の不動産法人を合併でまとめる:適格吸収合併の2段階、清算との比較は複数の法人を合併で整理する:清算と吸収合併の比較で解説します。
HDの作り方:株式移転か、株式譲渡か
株式移転:現金は動かず、適格なら課税なし
複数の法人が共同で株式移転を行い、新しいHDをつくる方法です。各法人の株主は、持ち株に応じてHDの株式を受け取ります。対価がHD株式だけで、支配関係の継続などの要件を満たす適格株式移転であれば、法人側で時価評価課税はなく(法人税法2条12号の18)、個人株主の譲渡益課税も繰り延べられます(所得税法57条の4第2項)。
注意したいのは、各法人の株主が違う場合です。たとえばA社は父、B社は子が株主という状態で共同株式移転をすると、HDの株式をどう割り当てるか(株式移転比率)は各社の株価で決まります。比率が実態に合わないと、家族の間で価値が移り、贈与税の問題になりかねません。手続きの詳細は株式移転でHDを作る:手続き・スケジュール・費用で解説します。
株式譲渡:オーナーが現金化できるが、税金と借入が伴う
オーナーや後継者が新しくHDを設立し、各物件法人の株式をHDに売る方法です。オーナーには譲渡所得税(20.315%)がかかりますが、現金を受け取れます。HDは買取資金を金融機関から借り、子会社からの配当で返済するのが一般的です。個人から法人への売買なので、時価の2分の1未満で売ると時価で売ったものとみなされます(所得税法59条)。詳しくは新しく作ったHDに株式を売ってHD化するをご覧ください。
不動産HDの株価はどう評価されるか
HDの資産の大半が子会社株式になると、HDは株式等保有特定会社(株式等の割合が総資産の50%以上)として、原則として純資産価額で評価されます(財産評価基本通達189(2)・189-3)。HD自身が不動産を多く持つ場合は、土地保有特定会社の判定も必要です(同189(3))。判定の詳細は株式保有特定会社に注意と土地保有特定会社とHDで扱います。
純資産価額では、含み益(評価差額)に対する法人税額等相当額を差し引けます。この割合は、防衛特別法人税の創設に伴い、令和8年4月1日以後の相続・贈与等から38%(従来は37%)に改められました(財産評価基本通達186-2、国税庁「財産評価基本通達の一部改正について」通達のあらまし)。
ただし、株式移転などで子会社株式を著しく低い価額で受け入れた場合、受け入れた時点の含み益には、この控除が働きません(同186-2(2)の現物出資等受入れ差額)。控除が効くのは、主にHD化の後に子会社の価値が増えた部分です。物件を買い増して法人の価値を伸ばしていく投資家ほど、早めにHDの形を整える意味があります。考え方はHD化で株価が下がる仕組み:含み益の控除の考え方と試算で試算します。
また、各子会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地・建物は、純資産価額の計算上、路線価などではなく通常の取引価額で評価されます(財産評価基本通達185)。物件を買った直後に相続が起きると、思ったほど株価は下がりません。
銀行からの見え方:全体を見せる準備になる
HD化すると、金融機関はHDと子会社をグループ全体(連結)で見るようになります。1社ずつでは小さく見えた法人も、グループの純資産や返済余力として評価されやすくなる一方、どこか1社の債務超過や延滞もグループ全体の評価に影響します。連結での見られ方はグループ連結で見る銀行の評価で解説しています。
特に注意したいのは、特定の金融機関に伝えていない法人がある場合です。HD化や合併をすれば、グループの全体像は登記や決算書、合併の公告などで明らかになります。後から知られると、融資契約の報告義務との関係や信用の問題に発展しかねません。HD化の前に、取引のある全行へ自主的に全体像を開示し、グループとしての返済計画を説明しておくべきです。
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全の目安です。HD化の説明では、グループ全体でこの数字がどうなるかを示すと、金融機関の理解を得やすくなります。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る進め方の目安
| 段階 | やること |
|---|---|
| 1. 全体の棚卸し | 全法人の株主・決算期・借入・保証・物件・欠損金を一覧にする |
| 2. 金融機関への開示 | 未開示の法人があれば先に開示。HD化・合併の方針を事前に相談 |
| 3. 合併・清算の判断 | 役目を終えた法人は合併か清算か。欠損金と税務リスクを確認 |
| 4. HD化の方法を決める | 株式移転(現金不要)か株式譲渡(現金化・借入)か |
| 5. 実行と届出 | 株主総会・債権者保護手続・登記・税務署への届出 |
| 6. その後の運営 | 配当・経営指導料・グループ内の貸付のルールを決める |
HD化そのものの全体像はHD(ホールディングス)とは、本業の会社を持つ方は資産管理会社とHD:事業会社との関係を整理するも参考にしてください。
まとめ
物件法人が増えた不動産投資家にとって、HD化は「株主を1社にまとめ、承継と融資の説明をしやすくする」ための手段です。法人の数そのものを減らすには適格合併や清算を組み合わせ、2段階で進めても構いません。株価の面では、HDは株式等保有特定会社として純資産価額で評価されやすく、38%控除が効くのはHD化後の値上がり分であること、物件取得から3年以内は通常の取引価額で評価されることを押さえておきましょう。
何より大切なのは、金融機関にグループの全体像を見せられる状態にしておくことです。整理の順番と銀行への説明は、事前に専門家と設計してから進めることをおすすめします。
