後継者に会社を継がせたいが、株式をそのまま贈与すると贈与税が重く、後継者個人には買い取るお金もない。こうした場面で使われるのが、新しく作ったHDに株式を売ってHD化する方法です。後継者などが出資してHDを作り、HDが金融機関から借りたお金で、オーナーから事業会社の株式を買い取ります。
この記事では、この方法の仕組み、売買価格と税金、HDの借入と返済、使える融資制度、銀行の見方を整理します。ほかの作り方との比較はHDの作り方の全体像をご覧ください。
- 後継者のHDが借入で株式を買い取ることで、オーナーは現金化、後継者は支配権を持てる
- オーナーの譲渡益には20.315%の申告分離課税。価格は所得税法59条の時価を下回らないよう設計する
- 時価は売り手の立場で判定(所得税基本通達59-6)。相続税評価より高くなりやすい
- HDの借入は事業会社の配当で返す。100%子会社の配当は要件を満たせば全額益金不算入
- 銀行はグループ全体の債務償還年数を見る。日本政策金融公庫の制度も選択肢になる
仕組み:HDが借入で株式を買い取る
株式移転でHDを作る方法では、事業会社の株主構成がそのままHDに移ります。これに対し、新しく作ったHDが株式を買い取る方法では、HDの株主(後継者など)に支配権が移ります。この点が、承継の手段として使われる理由です。
オーナーと後継者にとっての主な効果は次のとおりです。
| 立場 | 効果 | 注意点 |
|---|---|---|
| オーナー | 自社株を現金化できる。相続財産から事業会社株式が外れる | 譲渡益に20.315%の課税。現金も相続財産になる |
| 後継者 | 自己資金が少なくても支配権を持てる。HD化後の値上がり分は38%控除の対象 | HDが借入と金利を負担する |
| 事業会社 | 株主がHDに変わるだけで、事業・従業員・許認可は変わらない | 配当で返済原資を出し続ける必要がある |
オーナーが受け取った代金は相続財産として残るため、会社を継がない子どもへの分配の原資にもなります。この点は会社を継がない子どもへの配慮で取り上げます。
売買価格と税金
オーナー:譲渡所得20.315%
個人が非上場株式を売った利益は、一般株式等の譲渡所得として、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%の申告分離課税です(国税庁タックスアンサー No.1463)。役員退職金のような累進課税ではなく、税率は一定です。退職金と株式譲渡の比較はオーナーのExit:HDへの株式売却と退職金の比較で詳しく解説します。
価格の下限:所得税法59条
個人が法人に、時価の2分の1未満の価格で資産を売ると、時価で売ったものとみなされます(所得税法59条1項2号、国税庁タックスアンサー No.3105)。安く売れば後継者のHDの負担は軽くなりますが、オーナーには時価で課税されます。
この時価は、所得税基本通達59-6により、財産評価基本通達の例によりつつ、次の条件で計算します。
- 同族株主かどうかは、売り手の譲渡直前の議決権で判定する
- 売り手が中心的な同族株主なら、会社を小会社として評価する
- 純資産価額の計算で、含み益に対する法人税額等相当額を控除しない
- 会社が持つ土地や上場株式は、譲渡の時の価額で評価する
最高裁令和2年3月24日判決(平成30年(行ヒ)第422号)は、譲渡後の買い手の立場(配当還元価額)で時価を判断した原審を破棄しました。売り手の立場で評価するのが基本と考えておきます。
価格の上限側:HDの受贈益とみなし贈与
逆に、時価より低い価格で買ったHDには、時価との差額の受贈益が生じることがあり(法人税法22条2項)、その結果HDの株式の価値が増えた分は、HDの株主(後継者)への贈与とみなされる場合もあります(相続税法9条)。一方、時価を大きく上回る価格で買うと、差額がオーナーへの寄附や賞与と見られるおそれがあります。株価の算定書を作り、根拠のある価格で売買することが前提です。
| 価格の決め方 | 起こりうること |
|---|---|
| 時価の2分の1未満 | オーナーに時価で譲渡所得課税(所得税法59条)。HDに受贈益 |
| 時価の2分の1以上、時価未満 | 所得税法59条は適用されないが、HDの受贈益や株主へのみなし贈与が問題になりうる |
| 時価(算定書あり) | 原則として問題は生じにくい。HDの借入額は大きくなる |
| 時価を大きく上回る | 差額がオーナーへの寄附・賞与と見られるおそれ |
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見るHDの借入と返済
返済原資は事業会社の配当
HDには事業収入がないため、借入の返済原資は事業会社からの配当が中心です。HDが事業会社の株式を100%持ち、配当の計算期間を通じて完全支配関係があれば、配当は全額が益金不算入となり(法人税法23条1項・5項、法人税法施行令22条の2)、HDで法人税がかからずに返済に回せます。株式を取得した直後の最初の配当は、計算期間の数え方に特別な定めがあるため(法人税法施行令22条の2第2項)、配当の時期は事前に確認します。
ただし、事業会社の側では配当は損金にならず、配当を出せば事業会社の現預金と純資産は減ります。会社法上の分配可能額の範囲でしか配当できない点も押さえておきます。
銀行の見方
銀行は、HDと事業会社をグループ全体で見て、「事業会社が毎年いくら配当でき、HDの借入を何年で返せるか」を審査します。代表の相亰の著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全、20年超は厳しいとしています。HDの借入を加えたグループの債務償還年数を試算し、事業会社の利益計画と配当計画を一体にした資料を用意します。
| 銀行が確認すること | 準備する資料 |
|---|---|
| 買取価格の妥当性 | 株価の算定書(評価の方法と前提) |
| 返済原資 | 事業会社の利益計画、配当計画、HDの返済計画 |
| 事業会社の財務 | 配当後の自己資本比率・現預金の見込み |
| 担保・保証 | 事業会社株式の担保、事業会社の保証、経営者保証の扱い |
| 承継の目的 | 後継者の役割、オーナーの今後の関わり方 |
公的な融資制度
日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金は、株式の譲渡などで事業の承継・集約を行う中小企業者などが対象です。利率の特例の対象として「事業会社の株式または事業用資産を取得する持株会社」が明記されています。限度額や返済期間、利率は事業(国民生活事業・中小企業事業)や時期によって異なるため、公式ページで最新の条件を確認します。公庫の事業承継支援の全体は公庫の事業承継支援のページにまとめられています。
支援事例:HD化を用いた親族への承継で、地方銀行から1.6億円を調達
本業と不動産業を営む経営者の方から、不動産業を息子に承継したいというご相談を受けました。当面は金融機関との折衝に本人も関わりつつ、経済面の相続は先に終えたいというご要望に対し、ホールディングス化による組織再編、種類株式の設計、定款の整備、株価の算定、金融機関のご紹介を行い、地方銀行から1.6億円を調達して事業承継を実現しました。
株価の算定、資金計画、議決権の設計を同時に進めることで、金融機関にとっても「承継の筋道がわかる融資」として検討してもらいやすくなります。
まとめ
- 新しく作ったHDが借入で株式を買い取ると、オーナーは現金化、後継者は支配権を持てる
- オーナーの譲渡益は20.315%。価格は所得税法59条の時価(売り手の立場)を基準に、算定書を作って決める
- HDの返済原資は事業会社の配当。全額益金不算入の要件と最初の配当の時期を確認する
- 銀行はグループの債務償還年数を見る。公庫の制度も選択肢になる
株主構成の整理全体は持株会社をつくって株主構成を整理する、少数株主からの買取りは社長個人が少数株主から買い取るときの価格と税金もご覧ください。クレフティの事業承継・M&A支援では、株価の算定から資金計画、金融機関のご紹介までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
