「ホールディングス(HD)にすると承継が楽になると聞いた」「銀行からHD化を勧められた」。オーナー経営者からこうしたご相談を受けることが増えました。ホールディングス(HD)とは、子会社の株式を持ち、株主としてグループ全体を束ねる会社のことです。大企業だけの仕組みと思われがちですが、中小企業でも、事業承継や財務の整理のために使われています。
この記事では、HDと事業会社の関係、中小企業がHDを作る5つの目的、銀行からの見え方、最初に知っておきたい注意点を整理します。
- HDは事業会社の株式を持つ会社。オーナーはHDの株式を持ち、HDを通じて事業会社を支配する
- 中小企業がHDを作る目的は、承継・株価・資金・リスク分離・M&Aの5つに整理できる
- 100%子会社からの配当は、要件を満たせば全額が益金不算入(法人税法23条)。HDに資金を集めやすい
- HD化後に増えた事業会社の価値には、HD株式の評価で38%の控除が効く(財産評価基本通達186-2)
- 銀行はグループ全体(連結)で見る。目的を説明できない「節税だけ」のHD化は避ける
HDとは:事業会社の「上」に置く会社
HDは、自分では事業をせず(または事業の一部だけを行い)、子会社の株式を持つことを主な役割とする会社です。独占禁止法では、子会社の株式の取得価額の合計が総資産の50%を超える会社を「持株会社」と定めています(独占禁止法9条4項1号)。中小企業の実務では、法律上の定義よりも「オーナーと事業会社の間に1階層はさむ会社」と理解するとわかりやすいでしょう。
HD化しても、事業会社という法人はそのまま残ります。従業員の雇用契約、取引先との契約、許認可の名義は事業会社のままで、変わるのは事業会社の株主です。オーナーにとっては、「事業会社の株式」という財産が「HDの株式」に置き換わります。
中小企業がHDを作る5つの目的
中小企業のHD化の目的は、次の5つに整理できます。どれを一番の目的にするかで、HDの作り方も、作った後の動かし方も変わります。
| 目的 | HDでできること | 注意点 |
|---|---|---|
| ① 事業承継 | 後継者に渡す株式をHD株式1つにまとめる。事業会社ごとに社長を分けられる | 株主構成はHDにそのまま移る。分散の解消は別の手当てが必要 |
| ② 株価 | HD化後の事業会社の値上がり分に38%の控除が効く | 作った時点の価値には効かない。株式等保有特定会社の判定に注意 |
| ③ 資金 | 子会社の配当をHDに集め、借入返済や新規事業に回す | 配当の益金不算入は「計算期間を通じた完全支配関係」が要件 |
| ④ リスク分離 | 本業・不動産・新規事業を別会社にして、失敗の影響を区切る | 会社が増えるほど、決算・申告・管理のコストが増える |
| ⑤ M&A | 買った会社をHDの下に兄弟会社として置ける。事業の一部売却もしやすい | グループ内の役割分担と経営管理の仕組みが必要 |
① 事業承継:渡す株式を1つにまとめる
複数の会社を経営しているオーナーが、それぞれの株式を直接持っていると、承継のときに会社ごとに贈与・譲渡を考えなければなりません。HDの下にまとめておけば、後継者に渡すのはHD株式だけです。オーナーはHDの社長として全体を見て、事業会社の社長は後継者や幹部に任せる、といった役割の分け方もしやすくなります。
② 株価:値上がり分に38%の控除
HDが持つ事業会社株式を純資産価額方式で評価するとき、事業会社株式の含み益(評価差額)から法人税額等相当額を差し引けます。この割合は、防衛特別法人税の創設を受けて、2026年4月1日以後の相続・贈与から37%から38%に改められました(国税庁「取引相場のない株式等の評価(純資産価額方式における法人税額等相当額)」)。
ただし、株式移転などで受け入れた株式は、受け入れた時点の含み益には控除が効きません(財産評価基本通達186-2の「現物出資等受入れ差額」)。効くのはHD化した後に増えた部分です。早く作るほど効果の対象が広がる一方、作った直後に株価が下がる仕組みではありません。詳しい試算はHD化で株価が下がる仕組みで取り上げます。
③ 資金:配当をHDに集める
HDが事業会社の株式を100%持ち、配当の計算期間を通じて完全支配関係があれば、受け取る配当は全額が益金不算入です(法人税法23条1項・5項、法人税法施行令22条の2)。事業会社で法人税を払った後の利益を、HDで再び課税されずに集められます。集めた資金は、HDの借入の返済、新規事業への出資、別の子会社への貸付に回せます。
④ リスク分離と ⑤ M&A
本業の会社が大きな不動産と借入を抱えていると、本業の決算書が重くなり、許認可や入札の基準を満たしにくくなることがあります。不動産をHDや別会社に分ければ、事業会社の決算書を軽くできます。また、HDがあれば、買収した会社を既存の事業会社の子会社ではなく兄弟会社として置けるため、社長や社員の上下関係の摩擦を避けやすくなります。
銀行からはどう見えるか
HD化すると、銀行はHDと事業会社をグループ全体(連結)で見るようになります。HDに借入があれば、その返済原資は事業会社の配当です。銀行は「事業会社が毎年いくら配当でき、HDの借入を何年で返せるか」を見ます。
代表の相亰の著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全、20年超は厳しいとしています。HD化の前後で、グループ全体の債務償還年数と純資産がどう変わるかを先に試算しておくと、銀行への説明がスムーズです。グループで見たときの評価はグループ会社を銀行はどう見るかも参考になります。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る最初に知っておきたい注意点
HDは便利な仕組みですが、次の点は最初に押さえておきます。
- 株式等保有特定会社:総資産(相続税評価額)のうち株式等の割合が50%以上の会社は、原則として純資産価額方式で評価されます(財産評価基本通達189)。事業会社株式しか持たないHDは、通常これに当たります
- 開業後3年未満:新しく作ったHDは、開業後3年未満の会社として純資産価額方式で評価されます(同189)
- 維持コスト:法人住民税の均等割、決算・申告、登記などの費用が会社ごとにかかります
- 総則6項:通達どおりの評価でも、著しく不適当と認められれば別の方法で評価されることがあります。最高裁令和4年4月19日判決(令和2年(行ヒ)第283号)は、借入で購入した不動産について通達評価を上回る課税を適法としました。HD化は承継・経営の目的を説明できる形で進めます。詳しくは総則6項と自社株評価をご覧ください
HDの種類は純粋持株会社・事業持株会社・資産管理会社の違い、作り方はHDの作り方の全体像で解説しています。持株会社を使った株主構成の整理は持株会社をつくって株主構成を整理するもご覧ください。
支援事例:HD化を用いた親族への承継で、地方銀行から1.6億円を調達
本業と不動産業を営む経営者の方から、「不動産業を息子に承継したい。当面は金融機関との折衝に自分も関わるが、経済面の相続は先に終えたい」というご相談を受けました。ホールディングス化による組織再編、種類株式の設計、定款の整備、株価の算定、金融機関のご紹介を行い、地方銀行から1.6億円を調達して事業承継を実現しました。
経営への関与は残しつつ、財産としての承継を先に進める。HDは、こうした「時間差のある承継」を組み立てる道具になります。
まとめ
- HDは事業会社の株式を持つ会社。オーナーの財産は事業会社株式からHD株式に置き換わる
- 目的は承継・株価・資金・リスク分離・M&A。どれを主目的にするかで作り方が変わる
- 100%子会社からの配当は要件を満たせば全額益金不算入、HD化後の値上がり分には38%控除
- 株式等保有特定会社・開業後3年未満・維持コスト・総則6項に注意する
- 銀行は連結で見る。返済原資と目的を説明できる計画をつくる
HD化は、税金・会社法・資金計画が一体となった取り組みです。クレフティの事業承継・M&A支援では、目的の整理から株価の試算、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
