「父の代に親族や古参の役員へ渡した株式が、相続を経て、今では十数人に散らばっている」。事業承継のご相談で、よく伺う状況です。分散した自社株をホールディングス(HD)に集める方法は、後継者に経営権を集中させる手段として有力ですが、誰が買うか、いくらで買うか、資金をどう用意するかで、税金と資金繰りが大きく変わります。
この記事では、分散した株式をHDに集める流れを、会社の自己株式取得との違い、売り手の税金、価格の決め方、買取資金の融資と返済、銀行からの見え方の順に整理します。
- 株式の分散は、特別決議(3分の2)が通らない、相続でさらに散らばるといった経営と承継のリスクになる
- 発行会社が買い取ると、売り手はみなし配当(総合課税)になりやすい。HDが買い取れば譲渡所得(20.315%)で、売り手の手取りが増えやすい
- 価格は売り手の立場で税務上の時価を判定する(所得税基本通達59-6、最高裁令和2年3月24日判決)。安すぎても高すぎても課税が起こる
- 買取資金はHDが借り入れ、事業会社からの配当で返済するのが基本。日本政策金融公庫には、事業会社の株式を取得する持株会社を対象に含む制度がある
- 銀行はHDと事業会社を一体で見る。配当で無理なく返せるかを先に試算する
株式が分散していると何が困るのか
株主が多いこと自体は違法でも悪でもありません。問題になるのは、経営の意思決定と承継の場面です。
- 特別決議が通らない:定款変更、組織再編(株式移転・合併など)、特定の株主からの自己株式取得などは、議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条2項)。オーナー側が3分の2を持っていないと、HD化そのものが進められません
- 少数株主の権利:議決権の3%以上を持つ株主には、会計帳簿の閲覧請求などの権利があります(会社法433条)。関係が悪化した親族株主がいると、経営の負担になります
- 相続でさらに散らばる:株主が亡くなるたびに、相続人の人数分だけ株主が増えていきます。所在がわからない株主が出てくることもあります
分散のリスクの全体像は分散した株式のリスク、所在不明の株主の扱いは所在不明株主への対応で取り上げています。
集める先は「会社」か「HD」か
分散した株式を集める方法は、大きく3つあります。
| 方法 | 買い手 | 売り手(個人)の税金 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 自己株式の取得 | 発行会社(事業会社) | 資本金等の額を超える部分はみなし配当(総合課税)、残りは譲渡所得 | 財源規制(分配可能額の範囲内。会社法461条)、特定の株主からの取得は他の株主にも売主追加の請求権(会社法160条) |
| HDによる買取り | オーナーまたは後継者が出資したHD | 譲渡所得として20.315%の分離課税 | HDの買取資金(借入)と、その返済原資 |
| オーナー個人による買取り | オーナー本人 | 譲渡所得として20.315% | オーナーの個人資金が必要。オーナーの相続財産がさらに増える |
発行会社が自己株式として買い取ると、売り手の個人は、受け取った金額のうち資本金等の額を超える部分が配当所得とみなされます(所得税法25条1項5号)。配当所得は総合課税なので、ほかの所得と合わせて最高で所得税45%・住民税10%の税率帯に入ることがあります(配当控除はあります)。一方、別の法人であるHDに売れば、株式の譲渡所得として所得税・復興特別所得税15.315%と住民税5%の分離課税です(国税庁 No.1463)。
売り手にとっては、同じ価格でもHDに売るほうが手取りが多くなりやすいため、交渉がまとまりやすくなります。みなし配当と譲渡所得の違いはHDへの株式売却とみなし配当・譲渡所得の違いで詳しく比べています。
集める順番:HD化の前に集めるか、後に集めるか
もう一つの論点は、HDをつくる手順と、株式を集める順番です。少数株主が残ったまま株式移転でHDをつくると、少数株主はそのままHDの株主になります。その後にHDが自分の株式を買い戻すと、今度はHDの自己株式取得になり、やはりみなし配当の問題が出ます。
オーナー自身の持ち分をどう整理するか(株式交換でHDの株式に替えるか、HDに売るか)は、オーナーの資金ニーズと税金で決めます。HDのつくり方の比較はHDの作り方の全体像を参照してください。
買取価格の決め方と税金
売り手の側:時価の2分の1未満はみなし譲渡
個人が法人に、時価の2分の1未満の価格で株式を譲渡すると、時価で譲渡したものとみなされます(所得税法59条1項2号、所得税法施行令169条)。このときの「時価」について、所得税基本通達59-6は、財産評価基本通達の例によりつつ、同族株主に当たるかどうかを譲渡直前の議決権の数で判定することなどを定めています(国税庁 所得税基本通達59-6)。
この点が争われたのが、最高裁令和2年3月24日第三小法廷判決(平成30年(行ヒ)第422号)です。原審は、買い手側の立場(配当還元価額で評価される株主に当たること)を理由に配当還元価額で評価しましたが、最高裁は、この判断を所得税法59条1項の解釈を誤ったものとして破棄しました(裁判所 裁判例情報)。売り手の立場で判定するという考え方は、その後の通達改正で明確にされています。
少数株主の多くは、売り手の立場でも同族株主以外の株主に当たり、配当還元価額が目安になります。ただし、売り手が同族株主のグループに属している場合(オーナーの兄弟姉妹など)は、原則的評価(類似業種比準価額・純資産価額)が時価の基準になり、価格が大きく変わります。株主ごとに判定する必要があります。
買い手のHDの側:安すぎると受贈益
買い手のHDにも注意点があります。法人が資産を時価より低い価格で取得すると、時価との差額が受贈益として益金に算入されることがあります(法人税法22条2項)。法人税での株式の時価は、法人税基本通達9-1-14などで判定します。「売り手には配当還元価額で問題ない」としても、買い手の側の時価とずれないかは別に確認します。
協議がまとまらないときの価格
譲渡制限株式について、株主が譲渡の承認を求め、会社が承認しない代わりに買取人(HDなど)を指定した場合、価格の協議がまとまらなければ、裁判所に売買価格の決定を申し立てることができます(会社法144条2項)。最高裁令和5年5月24日第三小法廷決定(令和4年(許)第8号)は、この手続で、DCF法による評価額から非上場株式であることを理由とする減価(非流動性ディスカウント)を行うことができるとしました(裁判所 裁判例情報)。裁判所で決まる価格は、税務上の時価とは考え方が異なる点も押さえておきます。
買取資金の手当てと返済
HDには通常、まとまった資金がありません。買取資金は金融機関からの借入でまかない、事業会社からの配当で返済するのが基本の形です。
日本政策金融公庫の中小企業事業の「事業承継・集約・活性化支援資金」は、利率の特例の対象として「事業会社の株式または事業用資産を取得する持株会社及び当該事業会社」や「株主等から自己株式…の取得等を行う法人」を挙げています(日本政策金融公庫 事業承継・集約・活性化支援資金(中小企業事業))。利用の可否や条件は個別の審査によるため、早めに窓口と相談します。制度の詳細は日本政策金融公庫の事業承継の融資制度とHDで取り上げます。
返済の試算は、次のように事業会社の利益から逆算します(数字は説明のための例です)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 少数株主からの買取総額(発行済株式の30%) | 6,000万円 |
| HDの借入(期間10年・元金均等) | 6,000万円 |
| 年間の元金返済 | 600万円 |
| 利息(年2%と仮定した初年度) | 約120万円 |
| HDの維持費(均等割・会計・申告など) | 約80万円 |
| 事業会社から必要な年間配当 | 約800万円 |
| 事業会社の税引後利益(例) | 3,000万円 |
HDが事業会社の株式を、配当の計算期間を通じて100%保有していれば、受取配当は全額が益金不算入になります(法人税法23条。完全子法人株式等)。買取りの直後は計算期間を通じた保有にならず、最初の配当で全額が不算入にならないことがあるため、配当の時期は税理士と確認します。配当の益金不算入はHDが子会社から受ける配当は非課税?で詳しく解説します。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る銀行からの見え方
金融機関は、HDの借入を単独ではなく、HDと事業会社を合算した姿で見ます。事業会社が配当を出すと、事業会社の現預金と純資産はその分減ります。著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)で、10年以内を健全な目安としています。HDの借入を加えたグループ全体の債務償還年数が大きく悪化しないかを、買取りの前に確認します。
あわせて、株式を集める目的(後継者への経営権の集中、意思決定の迅速化)を、事業計画とともに説明できるようにしておくと、審査がスムーズです。HDの借入と配当返済の注意点はHDが株式を買い取る資金の融資でも整理します。
なお、少数株主がHD化に反対している場合の手続き(反対株主の買取請求やスクイーズアウト)は、HD化と少数株主で解説しています。
まとめ
- 分散した株式は、特別決議や相続の場面で経営と承継のリスクになる。HD化の前に集める順番を考える
- 売り手の税金は、発行会社に売るとみなし配当、HDに売ると譲渡所得20.315%。売り手の納得を得やすいのはHDによる買取り
- 価格は売り手の立場で時価を判定する(所得税基本通達59-6、最高裁令和2年3月24日判決)。株主ごとに同族株主かどうかを確認する
- 買取資金はHDが借り入れ、配当で返済。公庫には持株会社による株式取得を対象に含む制度がある
- 銀行はグループ全体の返済余力で見る。配当で無理なく返せる計画をつくってから実行する
