HD(ホールディングス)を作った後の承継の方法として、HDの株式を後継者に贈与する方法があります。事業会社の株式をHDにまとめておけば、贈与するのはHDの株式だけで済み、グループ全体を一度に承継できます。
この記事では、HD株式を後継者に贈与するときの贈与税を、暦年課税と相続時精算課税で試算し、贈与する時期の考え方を整理します。税率や控除は国税庁のタックスアンサーで確認したもので、数字は説明用に作った例です。
- 贈与するのはHDの株式。HDの株価は多くの場合、純資産価額方式で決まる(株式等保有特定会社・開業後3年未満の会社)
- 1億円を18歳以上の子に一度に贈与すると、暦年課税(特例税率)は約4,800万円、相続時精算課税は1,478万円(相続時に精算)
- HD化の後の値上がりに38%の控除が効くので、HD化後、早めに贈与すれば値上がりは後継者の財産になる
- 暦年課税の分割は、相続開始前の加算期間(段階的に7年)に注意。精算課税は贈与時の価額で固定される
- 親が拒否権付株式を持てば経営の決定権を残せる。ただし評価は普通株式と同じ
HD株式の株価はどう決まるか
贈与税の計算の出発点は、贈与する株式の評価額です。HDの株式は、資産の大半が子会社株式であれば株式等保有特定会社として、設立から3年未満であれば開業後3年未満の会社として、原則として純資産価額方式で評価します(財産評価基本通達189・189-3・189-4)。
HDの純資産価額の計算では、子会社株式を子会社の原則の方式で評価し、HDの段階の含み益の38%(令和8年4月1日以後の相続・贈与等)を控除します。ただし、株式移転などでHD化した時点の含み益は控除の対象外です(同186-2)。仕組みはHD化すると自社株の評価はどう変わる?、試算はHD化で株価が下がる仕組みで解説しています。
贈与税の計算例:1億円のHD株式を子に贈与
国税庁タックスアンサー「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」と「No.4103 相続時精算課税の選択」をもとに、評価額1億円のHD株式を、18歳以上の子が父から受け取る場合で比べます。
| 方法 | 計算 | 贈与税 |
|---|---|---|
| ① 暦年課税・一度に贈与(特例税率) | (1億円-110万円)×55%-640万円 | 約4,800万円 |
| ② 暦年課税・5年に分ける(毎年2,000万円) | (2,000万円-110万円)×45%-265万円=585.5万円×5年 | 約2,928万円 |
| ③ 相続時精算課税・一度に贈与 | (1億円-110万円-2,500万円)×20% | 1,478万円(相続時に精算) |
相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与で選べる制度で、毎年110万円の基礎控除と、累計2,500万円の特別控除があります。贈与者が亡くなったときは、贈与のときの価額(基礎控除分を除く)を相続財産に加えて相続税を計算し、納めた贈与税を差し引きます。
暦年課税で分けて贈与する場合は、贈与者の相続開始前の一定期間の贈与が相続財産に加算されます。令和6年1月1日以後の贈与から加算期間が延び、令和13年1月1日以後の相続では相続開始前7年以内になります(国税庁タックスアンサー「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」)。計算例の詳しい比較は自社株を贈与したときの贈与税の計算例をご覧ください。
贈与する時期:HD化の後の値上がりをどう扱うか
HD化には、HD化した後の値上がり分の評価を抑える効果があります。これを贈与の時期と合わせて考えると、次のようになります。
- 早めに贈与する:その後の値上がりは後継者の財産として増えます。相続時精算課税なら、相続のときに加算される価額は贈与のときの価額のままです
- しばらく持ってから贈与する:38%の控除が効く部分が増えますが、株価そのものは上がっていきます
- 相続まで持つ:贈与税はかかりませんが、値上がりはすべて親の相続財産になります
成長が見込める会社ほど、早めの贈与と相続時精算課税の組み合わせが合理的になりやすいといえます。ただし、精算課税は一度選ぶと、その贈与者からの贈与について暦年課税に戻れません。贈与の時期の考え方は自社株を暦年贈与・相続時精算課税で後継者に移す方法でも解説しています。
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事業承継・M&A支援を見る経営の決定権を残す:拒否権付株式
「株式は渡したいが、まだ経営の決定権は手放したくない」というご相談もあります。その場合は、HDの株式の大半を後継者に贈与し、親が拒否権付株式(黄金株)を1株持つ方法があります。株主総会で決める事項について拒否権を持てるので、役員の選任や合併・会社分割・解散などの重要な決定を止められます。
国税庁の「種類株式の評価について(情報)」では、拒否権付株式は拒否権の有無にかかわらず普通株式と同様に評価するとされています。黄金株は1株でも強い力を持つ一方、親が認知症などで判断できなくなると、会社の決定が止まるおそれがあります。取得条項をつけておく、家族信託と組み合わせるなどの手当ても検討します(HDで種類株式を使う、HDと家族信託)。
贈与する前に確認しておくこと
- 後継者の納税資金:数千万円の贈与税を後継者が納められるか。延納の要件も確認する
- ほかの子への配慮:株式を後継者に集めると、相続のときに遺留分の問題が残る(会社を継がない子どもへの配慮)
- 事業承継税制との比較:HDの株式でも、要件を満たせば納税猶予を使える場合がある(HDと事業承継税制)
- 贈与の直前の株価対策:贈与の直前に評価を下げるだけの取引をすると、総則6項で否認されるおそれがある(HD化による株価対策と総則6項)
銀行との関係も忘れずに確認しておきたい点です。株主が親から後継者に変わると、銀行はHDと子会社の連結の決算書に加えて、後継者の経営への関与や、経営者保証をどうするかを見ます。贈与の前後で決算書の純資産を削るような株価対策をすると、後継者の代での融資の評価に響きます。株式の移転と経営の引継ぎの時期をずらす場合は、その計画を金融機関にも説明しておくと安心です。
まとめ
- 贈与するのはHDの株式。評価は多くの場合純資産価額方式で、HD化の後の値上がりに38%の控除が効く
- 1億円の贈与で、暦年課税(一度に)は約4,800万円、相続時精算課税は1,478万円(相続時に精算)
- 成長が見込める会社は、早めの贈与と相続時精算課税の組み合わせが合理的になりやすい。暦年課税は加算期間に注意
- 親が拒否権付株式を持てば決定権を残せる。納税資金・遺留分・銀行への説明もセットで準備する
クレフティでは、HD株式の評価の試算、贈与の方法と時期の比較、種類株式の設計から金融機関への説明まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
